8月15日、アラスカでアメリカのトランプ大統領とロシアのプーチン大統領が会談した。プーチン氏にとっては約10年ぶりの米国訪問であり、ロシア・ウクライナ戦争の和平の行方に世界の注目が集まった。
会談に先立ち、トランプ氏は両国間で「領土交換」の可能性に言及。関係者によれば、草案にはウクライナが東部ドンバス地域の一部を割譲する内容が含まれる可能性があるという。だが現状、ウクライナ軍は依然としてドンバスの一角を掌握しており、プーチン氏は軍事力で奪えなかったこの地域を、交渉の場で手に入れようとしている。
18日にはウクライナのゼレンスキー大統領が訪米し、ホワイトハウスでトランプ氏と会談した。ウクライナ側は米国からの安全保障を引き出す見返りに巨額の軍備調達計画を提示したが、同時に「領土を和平交渉の代償にすることはあり得ない」と強調。英誌『エコノミスト』の報道によると、プーチン氏の最大の狙いはドネツク州西部にあり、ここは今もウクライナが確保している要衝だ。
ウクライナ軍は10年以上を費やし、ドネツク州とルハンスク州にまたがるドンバス地域を要塞化してきた。これにより、ロシアのドンバス掌握を阻み、他地域への侵攻も難しくしている。

防衛線は約50キロにわたり、北はスラビャンスクとクラマトルスク、南はドルジュキウカとコンスタンチノフカを結ぶ都市圏で形成されている。2014年、ロシアがクリミアを併合した際に勃発した「ハイブリッド戦」で、ウクライナ軍がこれらの都市を奪還して以来、防御態勢の構築が続けられてきた。
元国防相で現在はシンクタンク「防衛戦略センター」に所属するザゴロドニュク氏は「この10年でウクライナは軍事インフラと防御工事に巨額の投資を行い、スラビャンスクとクラマトルスクは後方拠点として機能している」と説明。ロシア軍は2022年にクラマトルスク攻略を試みたが失敗に終わった。
ドンバスの防衛帯は都市化が進み、建物や工場群が天然の盾となっている。加えて外周には鉄条網やコンクリート障壁、砕石、軍用車両を阻止する「ドラゴンティース」と呼ばれる錐形のコンクリート障害物が張り巡らされている。2023年にドネツク州のバフムトが陥落し、ウクライナ軍の反攻も不発に終わった後、防衛強化は一層進んだ。受動的防御としては数キロにわたる塹壕やバンカー網が整備され、能動的防御としては地雷原や戦車用トラップが新設されている。

過去1年間、ロシア軍が主に狙ってきたのは、防衛線から南西約65キロにある後方拠点ポクロフスク(Pokrovsk)だった。補給や交通の要所とされるこの都市を制圧できれば、ロシア軍は防衛線全体への圧力を高められる。
もっとも、米シンクタンク「戦争研究所(ISW)」は、ロシア軍が要塞帯全域を掌握するには「少なくとも数年を要する」と分析。ドイツ国防省元参謀長のニコ・ランゲ氏も「奪取には長期戦を強いられ、多大な資源と人命を犠牲にしなければならない」と指摘する。