日本記者クラブは8月20日、シリーズ企画「トランプ2.0」の第11回を開催し、東京大学名誉教授で国際協力機構(JICA)特別顧問の北岡伸一氏が講演した。会場は東京・内幸町の同クラブ10階ホール。
北岡氏はまず、戦後の国際秩序は米国が主導し、国連、IMF、GATTなどの枠組みが整備されてきたと説明。その中核には「武力による現状変更の否認」と「自由貿易の拡大」が据えられてきたとした上で、近年の国際情勢に触れ、秩序維持が難しくなっている現状を指摘した。
米国の対外姿勢を分析
米国の外交姿勢については、常に国益を最優先してきたとし、モンロー主義や領土拡張、パナマ運河を巡る政策を例に論じた。また国内政治やメディアの影響力にも言及し、選挙過程でメディアが世論を動かし、結果として政策決定に影響する場面があると説明。「米国は『おかしい』と気づけば政策を改めるが、その過程で国民や他国が被害を受ける」と語った。
教育・移民政策の影響
自身のスタンフォード大学での滞在経験を踏まえ、研究者や学生が入国制限に直面する可能性を指摘。入国管理の運用次第で在外研究者が帰国できなくなる恐れがあるとし、移民政策の硬直化は国際社会に負の影響を及ぼすと警鐘を鳴らした。
日本の対応と同盟の在り方
日本の外交戦略については、「同盟を重視しつつ、自助努力と同志国との連携を組み合わせるべきだ」と強調。米国への働きかけについては、政策決定の中枢に近い関係を築き、粘り強く影響力を及ぼすことが重要だと述べた。
国連改革と「準常任理事国」案
国連改革に関しては、2005年当時の交渉過程を振り返り、事務総長主導の調整が不調に終わった経緯を説明。そのうえで、安保理常任理事国の拡大に代わる形として「準常任理事国」創設の可能性に言及した。「国連は『大国におもねらず、小国を侮らず』という原則で維持されるべきだ」とも強調した。また、8月15日の発言に関連し、謝罪や反省にとどまるのではなく、9月の国連総会で日本が何を行うかを示すべきだとの考えを示した。
質疑応答
まず2005年の国連改革交渉について質問が出た。北岡氏は「当時アナン事務総長がG4諸国とコンセンサス・グループの妥協を模索したが、不調に終わった」と説明。その際、日本には「モデルA」か「モデルB」を選択する余地があったものの、小泉首相がブッシュ大統領に直接働きかけなかったことを「大きな機会損失だった」と振り返った。
続いて、トランプ政権下の移民政策や大学への影響について問われると、北岡氏はスタンフォード大学滞在中の経験を踏まえ「研究者や学生が入国制限の影響を受ける可能性を強く感じた」と語った。自由な学術環境が閉ざされる危険性があり、移民政策の硬直化は国際社会に負の影響を及ぼすと強調した。
さらに、アメリカの政策転換についても質問が出た。北岡氏は「アメリカは一度『おかしい』と気づけば政策を変えるが、その過程で国民も外国も迷惑を受ける」と指摘。そのため日本は単に批判するのではなく「安倍元首相のように密接に付き合いながら影響力を及ぼす戦略が必要だ」と述べた。
質疑を通じて北岡氏は一貫して、米国依存一辺倒ではなく、自立と同志国との連携を組み合わせた日本外交の構築の重要性を強調し、講演を締めくくった。
編集:梅木奈実 (関連記事: 民進党の反原発ポスターに波紋 日本エネルギー記者「事実を歪曲」と指摘 | 関連記事をもっと読む )
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