北岡伸一氏が「トランプ2.0」を分析 戦後秩序の危機と日本外交の課題を指摘

2025-08-21 15:59
2024年8月20日、東京・内幸町の日本記者クラブで開かれたシリーズ企画「トランプ2.0」第11回講演に登壇する、東京大学名誉教授で国際協力機構(JICA)特別顧問の北岡伸一氏。(写真/日本記者クラブ提供)
2024年8月20日、東京・内幸町の日本記者クラブで開かれたシリーズ企画「トランプ2.0」第11回講演に登壇する、東京大学名誉教授で国際協力機構(JICA)特別顧問の北岡伸一氏。(写真/日本記者クラブ提供)
目次

日本記者クラブは8月20日、シリーズ企画「トランプ2.0」の第11回を開催し、東京大学名誉教授で国際協力機構(JICA)特別顧問の北岡伸一氏が講演した。会場は東京・内幸町の同クラブ10階ホール。

北岡氏はまず、戦後の国際秩序は米国が主導し、国連、IMF、GATTなどの枠組みが整備されてきたと説明。その中核には「武力による現状変更の否認」と「自由貿易の拡大」が据えられてきたとした上で、近年の国際情勢に触れ、秩序維持が難しくなっている現状を指摘した。

米国の対外姿勢を分析

米国の外交姿勢については、常に国益を最優先してきたとし、モンロー主義や領土拡張、パナマ運河を巡る政策を例に論じた。また国内政治やメディアの影響力にも言及し、選挙過程でメディアが世論を動かし、結果として政策決定に影響する場面があると説明。「米国は『おかしい』と気づけば政策を改めるが、その過程で国民や他国が被害を受ける」と語った。

教育・移民政策の影響

自身のスタンフォード大学での滞在経験を踏まえ、研究者や学生が入国制限に直面する可能性を指摘。入国管理の運用次第で在外研究者が帰国できなくなる恐れがあるとし、移民政策の硬直化は国際社会に負の影響を及ぼすと警鐘を鳴らした。

日本の対応と同盟の在り方

日本の外交戦略については、「同盟を重視しつつ、自助努力と同志国との連携を組み合わせるべきだ」と強調。米国への働きかけについては、政策決定の中枢に近い関係を築き、粘り強く影響力を及ぼすことが重要だと述べた。

国連改革と「準常任理事国」案

国連改革に関しては、2005年当時の交渉過程を振り返り、事務総長主導の調整が不調に終わった経緯を説明。そのうえで、安保理常任理事国の拡大に代わる形として「準常任理事国」創設の可能性に言及した。「国連は『大国におもねらず、小国を侮らず』という原則で維持されるべきだ」とも強調した。また、8月15日の発言に関連し、謝罪や反省にとどまるのではなく、9月の国連総会で日本が何を行うかを示すべきだとの考えを示した。

質疑応答

まず2005年の国連改革交渉について質問が出た。北岡氏は「当時アナン事務総長がG4諸国とコンセンサス・グループの妥協を模索したが、不調に終わった」と説明。その際、日本には「モデルA」か「モデルB」を選択する余地があったものの、小泉首相がブッシュ大統領に直接働きかけなかったことを「大きな機会損失だった」と振り返った。

続いて、トランプ政権下の移民政策や大学への影響について問われると、北岡氏はスタンフォード大学滞在中の経験を踏まえ「研究者や学生が入国制限の影響を受ける可能性を強く感じた」と語った。自由な学術環境が閉ざされる危険性があり、移民政策の硬直化は国際社会に負の影響を及ぼすと強調した。

さらに、アメリカの政策転換についても質問が出た。北岡氏は「アメリカは一度『おかしい』と気づけば政策を変えるが、その過程で国民も外国も迷惑を受ける」と指摘。そのため日本は単に批判するのではなく「安倍元首相のように密接に付き合いながら影響力を及ぼす戦略が必要だ」と述べた。

質疑を通じて北岡氏は一貫して、米国依存一辺倒ではなく、自立と同志国との連携を組み合わせた日本外交の構築の重要性を強調し、講演を締めくくった。

世界を、台湾から読む⇒風傳媒日本語版 X:@stormmedia_jp

最新ニュース
OpenAIアルトマンCEOが警告 AIバブルはすでに過熱?「イエス」と断言
AIバブル到来か?米国経済の成長を支える一方、95%の企業が淘汰の危機
マスク氏、新党構想を棚上げ ヴァンス副大統領と関係重視、2028年大統領選支援も視野
天気予報》台風12号(レンレン)発生、日本へ接近 台湾は38度超の酷暑も
「TSMCへの無償支援は不適切、最先端チップ99%の台湾集中は危険」米商務長官:インテル補助金に株式譲渡条件
プーチンの要求はドンバス割譲とNATO不加盟 トランプ構想と乖離
「映画の夜」大阪で開催 台湾の古典と新作が多様な文化を映す
The Ordinary、下北沢で初のポップアップ コンビニ風空間でスキンケア体験
「渋谷でイタリア気分」ビッラモレッティが無料試飲イベント開催 イタリア料理と体験企画も
TAKANAWA GATEWAY CITYで「ドローンショー」開催へ JR東日本が都市型空間での運用に挑戦
河村勇輝、名門シカゴ・ブルズとツーウェイ契約 NBA Store Japanでユニフォーム販売開始
民進党の反原発ポスターに波紋 日本エネルギー記者「事実を歪曲」と指摘
日本政局は「戦国時代」へ 衆議院議員の福島伸享氏、多党妥協が新常態と指摘
評論:ウクライナが領土割譲で戦争終結?台湾に突き付けられる警鐘
インタビュー》福島伸享氏「トランプ変動に備え日台韓経済圏を」 日米関税交渉は波乱も信頼関係は堅持
舞台裏》台湾・国民党主席選 盧秀燕台中市長は出馬せず 朱立倫主席への反発強まる
「MUSIC LOVES ART 2025」大阪と幕張で同時開催 サマーソニック連携企画、都市をアートの舞台に
AIロボがカレーをおすすめ エキュート秋葉原「カレーフェス」に異国情緒あふれる演出
JR東日本、TAKANAWA GATEWAY CITYで初の一般向けドローンショー 8月23日開催へ 羽田空港直下の制約克服
プーチン、ゼレンスキーと会談へ? トランプの電話が戦局を一変させる 2週間以内に実現の可能性
インタビュー》台湾籍回復を拒否?『張立齊条款』登場 中国宣伝歴ある者は申請不可に
風傳媒現地レポート》建築家・内藤廣「赤鬼と青鬼」展 渋谷で半世紀の思考を振り返る
「台湾有事」に備え 日本・台湾が「異例の覚書」入国情報を共有、中国工作員の流入防止
台湾・台北市長の蒋万安氏、鴻海会長に政界入り要請 行政院長「ゆっくり学ぶ必要」
日本の避難所に防爆扉導入へ 核攻撃に耐えられる施設ゼロの現状
陸文浩の見解:ロシア「キロ級」潜水艦が東シナ海へ 中露が近・遠海で日本を包囲
李忠謙コラム:プーチン氏が示した停戦条件 ゼレンスキー氏に迫る「大阪冬の陣」の選択
天気予報》台風19号「レンレン」きょう発生か 台湾直撃せずも「ダブル台風」警戒
日本と台湾が異例の協力覚書 「台湾有事」に備え中国工作員の潜入防止へ
ゼレンスキー氏、ホワイトハウス再訪 軍装脱ぎ黒スーツ姿でトランプ氏と会談 トランプ氏「停戦不要」を強調
プーチン氏とゼレンスキー氏、戦争3年超で初の首脳会談へ 和平への突破口となるか
台湾文化イベント「We TAIWAN」最高潮 李安監督『恋人たちの食卓』大阪上映、VRやa-Weも登場
【独占】年5千万元節約も82億の追加賠償必要 台湾セメント三元案で「不可思議」な事態が発覚
舞台裏》敵を撃退するか、それとも自滅か?漢光演習は「史上最長・最実戦的」も、台湾の弱点を露呈
大阪・道頓堀で大規模火災 消防隊員2人死亡、4人搬送 観光客で騒然、一蘭道頓堀本館も臨時休業
台湾・民進党に広がる敗北ムード 823リコールと核三住民投票控え、支持者困惑
北京観察》天安門に戦車出現! 九三大閲兵リハーサルで共軍新装備:謎の魚雷がハイテクを示す?
「国民党は米国の信頼を壊している」元トランプ政権高官が異例の警告 台湾が国防を真剣に受け止めなければ、米国の支援は揺らぐ恐れ
トランプ大統領、ウクライナに領土譲渡を要求 「ロシアは大国、ウクライナは違う」と発言か
「裏切られた」ウクライナ激怒 トランプ氏、ロシア制裁見送りと「領土割譲による和平条約」締結を迫る
抗日戦勝80周年講演 「リコールは神経病的」郭岱君氏が台湾政権を批判「台湾は米国の対中封じ込めの餌になるべきでない」
「OHTANI DAY」第4弾 世界限定5枚の直筆サインジャージと「世界唯一」のWWEチャンピオンベルト発売
台湾文化イベント「TAIWAN PLUS」大阪で再び熱狂 台湾グルメ・雑貨に行列、文総「日本の友人が期待する台湾IPに」
台湾と日本の漫画100年史をたどる国際交流展 手塚治虫と蔡焜霖が象徴する時代の物語
阿部マリアも来場 台湾文化祭「TAIWAN PLUS 2025」、4日間で来場10万人突破 台湾グルメに行列