東アジアの地政学的緊張が高まる中、戦争の影が思わぬ商機を生み出している。英紙『フィナンシャル・タイムズ』が17日報じたところによれば、創業135年の日本のオフィス家具メーカー伊藤喜(Itoki)が、日本政府の地下防空避難所整備計画に参画し、重さ1.4トンでミサイル攻撃に耐える防爆扉を開発している。
北朝鮮、中国、ロシアといった核保有国に囲まれ、さらに米国から防衛面での自立を求められる中、日本は戦後の制約を徐々に緩和し、防衛費を大幅に増額している。内閣府の計画では、地下避難所を倍増させ、1,000万人規模の追加収容を目指す方針で、来年初めには詳細が固まる見通しだ。
こうした中、伝統的なオフィス家具企業が新たな防衛産業の担い手として名乗りを上げた。
釘打ち機から防爆扉へ
伊藤喜は1890年創業、東京証券取引所に上場する老舗のオフィス家具メーカーである。創業当初はタイプライターや釘打ち機、魔法瓶など西洋のオフィス用品を日本に導入することで事業を拡大してきた。同社の門事業部責任者、中村元紀氏はフィナンシャル・タイムズの取材に対し「政府主導の避難所設計ワーキンググループに参加し、研究成果を提出する」と語った。もし入札で成功すれば、この防爆扉は2027年にも初の収益をもたらす可能性があるという。
同社は実は「重い扉」の分野ですでに世界的な地位を築いている。岐阜県にある国立核融合科学研究所向けに製造した巨大扉は「世界一重い扉」としてギネス世界記録を保持している。過去50年間で、日本各地の医療機関や研究施設に約3,000枚の特殊扉を納入してきた実績もある。今回、防空用地下避難施設向けに開発された特製扉「BOUNCEBACK」は、純国産鋼材を使用した重量1,400キロの巨扉で、防爆性、気密性、放射線遮蔽性を兼ね備える。しかも高性能ヒンジと精密な設計により、女性や子どもでも容易に開閉できる構造となっている。
伊藤喜が発表した仕様によれば、「BOUNCEBACK」は1平方メートルあたり400kNの衝撃力に耐えることができ、気密性・水密性においても極めて高い基準を満たす。さらに放射線遮蔽については、ドアハンドル部を迷路状に設計することで従来型の弱点を克服し、20センチ厚のコンクリートに相当する防護性能を実現したとされる。
日本避難所の厳しい現実
政府がこうした計画を推進する背景には、避難所の「量と質の不足」がある。公式データでは全国に58,589の避難所があるが、地下に設置されたものは4,000未満にとどまる。日本核避難所協会は「現状では核攻撃に耐えられる施設は一つもない」と指摘している。
「日本の避難所は実際には体育館など一時避難用の場所にすぎず、深刻な事態に直面した際に命を守れるとは言い難い」と中村氏も認める。政府はまず、台湾に近い先島諸島に住民が2週間避難可能でミサイル攻撃にも耐える公共避難所を建設する計画を進めており、台湾の防衛準備が参考になっている。将来的にはさらに複数の施設建設が予定されている。