アメリカ航空宇宙局(NASA)は、2030会計年度第1四半期(2029年10月~12月)までに、月面へ原子力炉を送る計画を正式に発表した。将来的な月面基地のエネルギー供給を見据えたプロジェクトであり、宇宙空間での核エネルギー利用が本格的な段階に入ろうとしている。
「月面への核配備」は人類探査の転換点
NASAのショーン・ダフィー(Sean Duffy)代理長官は、8月5日、トランプ政権時代から構想されていた「Rapid Mission Concept(迅速任務構想)」の始動を発表した。
同構想の中核となるのが、月面に設置予定の核分裂型パワーシステムである。
ダフィー氏は「すでに数億ドルを研究開発に投じてきた。今こそ設計段階から実行段階へ進む時だ」と述べ、月面探査におけるエネルギー問題の打開策として核技術の重要性を強調した。
現在、月面では太陽光発電が主な電力源だが、極端な温度差や長期間の夜により安定供給が難しい。NASAによれば、今回の原子炉は出力100キロワットを想定しており、これは一般家庭の約3日半分の電力に相当するという。
最大2社に設計・製造を発注 民間の提案も募集
NASAはプロジェクト推進のため、「Surface Nuclear Fission Power Program(表面核分裂エネルギー計画)」の責任者を設置し、プロジェクトの進捗管理を徹底する方針。
すでに産業界に対し、設計および製造を担う企業の選定に向けた提案募集を開始しており、最大2社が選ばれる見通しだ。
今回の原子炉は、地上で組み立てられた後、現地で稼働するものではなく、あくまで「将来的なエネルギー供給体制構築のための先行投資」として位置づけられている。
すでに2022年から準備は始動 ダフィー長官の初陣ミッション
実際にNASAは2022年、40キロワット級の原子炉システムの設計に向け、3社にそれぞれ500万ドル(約8億円)規模の契約を交わしており、既に開発の基盤は築かれつつある。
今回の月面原子炉プロジェクトは、ダフィー氏がNASAの代理長官に就任して以来、最初の大規模ミッションであり、宇宙技術だけでなく国家戦略としても位置づけられている。
ダフィー氏は「これは単なる技術開発ではない。もしアメリカが人類の宇宙探査で主導的地位を保ちたいならば、スピードを上げなければならない」と語り、対中国を念頭に宇宙開発の主導権を巡る競争の激化を示唆した。
編集:梅木奈実
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