戦後80年を迎える今年、日本外国特派員協会(FCCJ)は「The Contested History of World War Two: The Hottest Flashpoints Today(第二次世界大戦をめぐる論争の歴史)」と題した記者会見を開催し、日米の研究者3名が歴史記憶と現代政治をめぐる論点を共有した。登壇したのは、静岡大学情報学部のM.G.シェフタル教授、米コネチカット大学歴史学部およびシンガポール国立大学日本研究客員教授のアレクシス・ダデン氏、上智大学の中野晃一教授で、司会はジャーナリストのマーティン・ファクラー氏が務めた。
シェフタル氏は、日本社会での戦後平和主義の衰退を「緩慢かつ確実」と表現。かつては公言できなかった核武装論が市民の間でも語られる現状を憂慮し、その背景には戦争体験者の死去による「記憶の断絶」と、政治的・制度的に進められた「平和教育の解体」があると指摘した。広島・長崎の記憶こそが「失われた大義(ロスト・コーズ)」に対抗する最後の砦であるとも述べた。
続くダデン氏は、「歴史を都合よく再構成する動きはアメリカでも進んでいる」として、南部連合の美化や奴隷制否認など「アメリカ版ロスト・コーズ」を紹介。慰安婦問題の研究を始めた経緯として、2000年の「女性国際戦犯法廷」でフィリピン人被害者から「自分の声を世界に届けてほしい」と訴えられた経験を語り、「被害者の証言を未来につなぐことは、記憶の継承であり平和への責任だ」と強調した。
中野氏は、「歴史は過去の問題ではなく、現代政治そのものだ」と述べ、日本の歴史修正主義と再軍備が密接に関連していると指摘。国内では戦争が「自然災害のような被害」として語られ、加害の主体が曖昧にされる傾向があると批判した。また、東京裁判を批判しながらアメリカの戦争責任には口をつぐむ歴史修正主義者の矛盾にも言及した。
質疑応答では、「天皇制の再定義」や「中国との戦争回避の可能性」が議題となった。天皇制を「国の中心」と位置付ける動きについて、ダデン氏は「2012年の自民党改憲草案と同じ文言だ」と指摘。中野氏は「皇室自身が平和憲法のもとで穏やかに機能している」と述べた。中国との戦争の可能性については、3名とも「まだ起きていない以上、避けられる」としながらも、核抑止に依存する現状は危険だと警告。中野氏は「戦争になれば日本は戦場となり、継戦能力もない」と抑止論の限界に疑問を投げかけた。
最後に、シェフタル氏は「保守派は若者に響く物語を構築しているが、左派は魅力的な代替のナラティブを提示できていない」と指摘。「次世代が再び戦争を支持しないためには、平和主義をどう語り継ぐかが問われている」と述べ、会見を締めくくった。
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