第二次世界大戦をめぐる「記憶の闘い」 FCCJで国際研究者3名が語る現代の論点

2025-08-03 13:31
戦後80年の2025年、日本外国特派員協会は第二次世界大戦の歴史をめぐる記者会見を開き、日米の専門家が記憶と政治の争点を議論した。(写真/FCCJ提供)
戦後80年の2025年、日本外国特派員協会は第二次世界大戦の歴史をめぐる記者会見を開き、日米の専門家が記憶と政治の争点を議論した。(写真/FCCJ提供)

戦後80年を迎える今年、日本外国特派員協会(FCCJ)は「The Contested History of World War Two: The Hottest Flashpoints Today(第二次世界大戦をめぐる論争の歴史)」と題した記者会見を開催し、日米の研究者3名が歴史記憶と現代政治をめぐる論点を共有した。登壇したのは、静岡大学情報学部のM.G.シェフタル教授、米コネチカット大学歴史学部およびシンガポール国立大学日本研究客員教授のアレクシス・ダデン氏、上智大学の中野晃一教授で、司会はジャーナリストのマーティン・ファクラー氏が務めた。

シェフタル氏は、日本社会での戦後平和主義の衰退を「緩慢かつ確実」と表現。かつては公言できなかった核武装論が市民の間でも語られる現状を憂慮し、その背景には戦争体験者の死去による「記憶の断絶」と、政治的・制度的に進められた「平和教育の解体」があると指摘した。広島・長崎の記憶こそが「失われた大義(ロスト・コーズ)」に対抗する最後の砦であるとも述べた。

続くダデン氏は、「歴史を都合よく再構成する動きはアメリカでも進んでいる」として、南部連合の美化や奴隷制否認など「アメリカ版ロスト・コーズ」を紹介。慰安婦問題の研究を始めた経緯として、2000年の「女性国際戦犯法廷」でフィリピン人被害者から「自分の声を世界に届けてほしい」と訴えられた経験を語り、「被害者の証言を未来につなぐことは、記憶の継承であり平和への責任だ」と強調した。

中野氏は、「歴史は過去の問題ではなく、現代政治そのものだ」と述べ、日本の歴史修正主義と再軍備が密接に関連していると指摘。国内では戦争が「自然災害のような被害」として語られ、加害の主体が曖昧にされる傾向があると批判した。また、東京裁判を批判しながらアメリカの戦争責任には口をつぐむ歴史修正主義者の矛盾にも言及した。

質疑応答では、「天皇制の再定義」や「中国との戦争回避の可能性」が議題となった。天皇制を「国の中心」と位置付ける動きについて、ダデン氏は「2012年の自民党改憲草案と同じ文言だ」と指摘。中野氏は「皇室自身が平和憲法のもとで穏やかに機能している」と述べた。中国との戦争の可能性については、3名とも「まだ起きていない以上、避けられる」としながらも、核抑止に依存する現状は危険だと警告。中野氏は「戦争になれば日本は戦場となり、継戦能力もない」と抑止論の限界に疑問を投げかけた。

最後に、シェフタル氏は「保守派は若者に響く物語を構築しているが、左派は魅力的な代替のナラティブを提示できていない」と指摘。「次世代が再び戦争を支持しないためには、平和主義をどう語り継ぐかが問われている」と述べ、会見を締めくくった。

編集:田中佳奈

世界を、台湾から読む⇒風傳媒日本語版X@stormmedia_jp

最新ニュース
世界で最もAIが使いやすい国へ 城内実大臣が描く日本の未来
台湾東部・台東人気観光地ランキング発表 絶景と便利さで富岡が1位に
台湾の旅行客が日本の心霊スポットで遺体発見 廃墟ビルから白骨化した遺体見つかる
少年犯罪と闇バイト急増 龍谷大・浜井浩一教授が警鐘「日本の治安は揺らいでいる」
台湾発TeamT5、サイバー脅威の最新動向と防御戦略を解説
戦後80年、日本の役割を問う――中西寛教授が国際秩序と外交課題を語る
飛行機で最も汚い場所は枕やカーペットではない? 客室乗務員が明かす「一度も清掃されない1箇所」とは
なぜ台湾だけが「一時的な関税」に区分されるのか? 専門家が語る「頼清徳が触れない事」:トランプの罠に陥る
舞台裏》大規模リコールが崩壊 民進党は無関心を装う 病院のメンタル科に若者が次々と駆け込む
なぜ台湾だけが「暫定関税」に? 専門家が語る「頼清徳が語らなかった事実」:トランプの罠に陥った
2025年新竹駅おすすめグルメ》格安グルメの集まる場所!老舗の美食15選、サクサクのタロイモボールや肉汁たっぷりの城隍包
外国メディアが分析 トランプ氏の台湾冷遇で浮き彫りになる頼清徳政権の苦境
トランプ氏が台湾に冷たい理由 WSJ「習近平氏との大取引を模索」
夏珍コラム:頼清徳は救えるか?
「松本零士展 創作の旅路」開幕 DJ KOOさんと真山りかさんがセレモニーに登場、松本零士の創作人生と“銀河の旅”に祝福
オーバーツーリズムの克服へ 田中俊徳准教授「持続可能な観光立国に必要なのはルールと分配」
「現実に立脚した安保戦略こそが必要」——折木良一元統合幕僚長が語る戦後80年と日本の進路
台湾グルメは鼎泰豊だけじゃない!日本人旅行者が「本当に絶品」と絶賛する隠れた名店とは
松本零士展が夏休み仕様に拡充 新フォトスポットや限定グッズも登場、SNS割引キャンペーンも実施中
アカデミー賞公認・アジア最大級の国際短編映画祭
相互関税で台湾に20%か 日韓EUより5%高い
台湾、「関税20%は交渉目標に非ず」頼総統が米と再交渉へ明言
台湾株、トランプ関税で夜間に180ポイント急落 非農業統計控え市場に緊張走る
台湾・台中と兵庫・尼崎が「スマート都市」で意気投合 デジタル×脱炭素で国境越えた交流へ
8月8日は「ポテコなげわの日」!池袋で限定イベント&お菓子プレゼントも
裏金17億円、40年続いた潜水艦修理めぐる不正の実態 防衛省が海自93人を一斉処分
中国軍、忠誠は共産党でなく習近平? 青学大・林教授が指摘する「制度なき統制」の危うさ
専門家が警告:この「5つの情報」をChatGPTに絶対に伝えないで! 一言で財産とキャリアを失う可能性とは
「災害対応にジェンダーの視点が不可欠」 女性自衛官らが語る現場の変化と課題
吳典蓉コラム:「民意」を読み違えた頼清徳総統 大規模リコールで露呈したリーダーの孤立
台湾と中国、異例の非公式交渉 頼政権の「オリーブの枝」を北京が一蹴
親中路線を強めるトランプ氏 頼清徳総統を冷遇か?米中「取引外交」に警鐘
舞台裏》台湾リコールで中国も誤算 最も懸念していた人物とは?
FRB分裂、利下げ巡り異例の反対票 31年ぶりの波乱で市場動揺
台湾関税は20%に決定 なぜ「最良税率」が日韓より高いのか、その背景とは
20%関税で台湾株1.2兆台湾ドル蒸発 国家安定基金が緊急介入
台湾の関税「20%はまだ前菜」──卓栄泰・行政院長、台米協議の焦点は「サプライチェーン協力」と「232条項」
台湾株先物が急落500ポイント超 トランプ20%関税で市場に警戒感
「テクノロジー冷戦」の最前線は東南アジアに 米中のAI覇権争いが地政学リスクを加速
韓国、関税15%で米国と合意 3500億ドル投資と自動車・農産品市場を全面開放でトランプ氏が10ポイント引き下げ発表
世論調査》大規模リコールの「逆風」直撃──頼清徳総統の信頼度、ついに3割台に転落 再選支持は半数以下
外国人との共生社会を目指す、鈴木法相「外国人を人として受け入れる時代へ」──新・育成就労制度の方向性
戦後80年──米軍記録映像が語る知られざる「戦争の実像」 映像解析で次世代へ記憶をつなぐ
堺が見せる日本の底力!大阪万博で職人技と伝統文化を再発見
暑さに負けない!梅・ネギ・XO醤…五味で味わう“夏ごはん” アコメヤのフェアが全国で開催中