国家主導のイノベーションはなぜ加速したのか――中国の「市場と統制」の両立を読み解く

2025-08-03 17:51
日本記者クラブは対外経済貿易大学教授の西村友作氏を招き、定例シリーズ「中国で何が起きているのか」の第28回講演を開催した。(写真 日本記者クラブより)
日本記者クラブは対外経済貿易大学教授の西村友作氏を招き、定例シリーズ「中国で何が起きているのか」の第28回講演を開催した。(写真 日本記者クラブより)
目次

日本記者クラブは2025年7月31日、対外経済貿易大学教授の西村友作氏を招き、定例シリーズ「中国で何が起きているのか」の第28回講演を開催した。講演では、フィンテックやデジタル経済・製造業の進化、そして日中企業間の競争環境まで、多面的な視点から中国経済の実像と将来展望が語られた。

西村氏は2002年から北京に在住し、2010年に経済博士号を取得後、同大学で初の日本人専任講師として着任。2018年より教授を務めている。講演では、著書『中国デジタル金融イノベーション――国家と市場のはざまで』の内容を基に、「権威主義体制下でなぜイノベーションが起き得たのか」という問いに答えた。

QRコードから始まった生活インフラの再編

まず、中国の新経済の起点として、アリババによるECプラットフォーム「淘宝(タオバオ)」と、決済サービス「アリペイ」の登場が紹介された。信用不安の大きかった2000年代初頭、モバイル決済の普及が消費者の利便性を飛躍的に高めた。現在では、QRコード決済は都市・農村問わず浸透しており、屋台から無人カフェ、電車、自転車、カラオケボックスに至るまで、現金を必要としない社会が実現しているという。

西村氏は「街角の大道芸人ですらQRコードを掲げる時代だ」と語り、デジタル決済が国民生活の隅々にまで根を張った現実を紹介した。

フィンテックの深化と信用スコアの影響力

次に、アントグループによるフィンテックの進展が取り上げられた。小口融資サービス「花唄(ホワベイ)」「借唄(ジエベイ)」では、ビッグデータとAIを活用した予審モデルが構築されており、信用スコア「芝麻信用(セサミクレジット)」が個人の金融アクセスを左右している。

この仕組みにより、従来サービスが届かなかった中小零細企業や低所得層にも融資の門戸が開かれ、「金融包摂(ファイナンシャル・インクルージョン)」が急速に進んだ。

国家戦略と「グレーゾーン」が育んだ競争

中国におけるイノベーションは、トップダウン型政策と民間企業の競争が交差する構造で成立している。西村氏は、2015年以降の「インターネット+」や「大衆創業・万衆創新」政策により、多数のスタートアップが誕生し、「過当競争(いわゆる“内巻き”)」によって淘汰と集中が進んだと分析。

また、「法制度が追いつかない領域では、一定期間“黙認”される」という中国特有の環境が新サービスの社会実装を後押ししてきたとし、アリペイやライドシェア「滴滴(DD)」の急成長を例に挙げた。

製造業シフトと「新質生産力」構想

近年では、B2C中心だったデジタル新経済が飽和を迎える一方、国家は製造業の高度化に注力している。AIやロボティクスを担う先端企業「公衆六商流」が台頭し、中国発のロボット技術が国内外で注目され始めている。 (関連記事: 「テクノロジー冷戦」の最前線は東南アジアに 米中のAI覇権争いが地政学リスクを加速 関連記事をもっと読む

特に、デジタル分野では輸出が難しかった一方で、製造業製品は輸出に適しており、EVや太陽光パネルなどが日欧企業と正面から競合する局面が増えている。西村氏は「過剰競争に鍛えられたプロダクトが今、海外へ出ていく」と述べた。

最新ニュース
第二次世界大戦をめぐる「記憶の闘い」 FCCJで国際研究者3名が語る現代の論点
世界で最もAIが使いやすい国へ 城内実大臣が描く日本の未来
台湾東部・台東人気観光地ランキング発表 絶景と便利さで富岡が1位に
台湾の旅行客が日本の心霊スポットで遺体発見 廃墟ビルから白骨化した遺体見つかる
少年犯罪と闇バイト急増 龍谷大・浜井浩一教授が警鐘「日本の治安は揺らいでいる」
台湾発TeamT5、サイバー脅威の最新動向と防御戦略を解説
戦後80年、日本の役割を問う――中西寛教授が国際秩序と外交課題を語る
飛行機で最も汚い場所は枕やカーペットではない? 客室乗務員が明かす「一度も清掃されない1箇所」とは
なぜ台湾だけが「一時的な関税」に区分されるのか? 専門家が語る「頼清徳が触れない事」:トランプの罠に陥る
舞台裏》大規模リコールが崩壊 民進党は無関心を装う 病院のメンタル科に若者が次々と駆け込む
なぜ台湾だけが「暫定関税」に? 専門家が語る「頼清徳が語らなかった事実」:トランプの罠に陥った
2025年新竹駅おすすめグルメ》格安グルメの集まる場所!老舗の美食15選、サクサクのタロイモボールや肉汁たっぷりの城隍包
外国メディアが分析 トランプ氏の台湾冷遇で浮き彫りになる頼清徳政権の苦境
トランプ氏が台湾に冷たい理由 WSJ「習近平氏との大取引を模索」
夏珍コラム:頼清徳は救えるか?
「松本零士展 創作の旅路」開幕 DJ KOOさんと真山りかさんがセレモニーに登場、松本零士の創作人生と“銀河の旅”に祝福
オーバーツーリズムの克服へ 田中俊徳准教授「持続可能な観光立国に必要なのはルールと分配」
「現実に立脚した安保戦略こそが必要」——折木良一元統合幕僚長が語る戦後80年と日本の進路
台湾グルメは鼎泰豊だけじゃない!日本人旅行者が「本当に絶品」と絶賛する隠れた名店とは
松本零士展が夏休み仕様に拡充 新フォトスポットや限定グッズも登場、SNS割引キャンペーンも実施中
アカデミー賞公認・アジア最大級の国際短編映画祭
相互関税で台湾に20%か 日韓EUより5%高い
台湾、「関税20%は交渉目標に非ず」頼総統が米と再交渉へ明言
台湾株、トランプ関税で夜間に180ポイント急落 非農業統計控え市場に緊張走る
台湾・台中と兵庫・尼崎が「スマート都市」で意気投合 デジタル×脱炭素で国境越えた交流へ
8月8日は「ポテコなげわの日」!池袋で限定イベント&お菓子プレゼントも
裏金17億円、40年続いた潜水艦修理めぐる不正の実態 防衛省が海自93人を一斉処分
中国軍、忠誠は共産党でなく習近平? 青学大・林教授が指摘する「制度なき統制」の危うさ
専門家が警告:この「5つの情報」をChatGPTに絶対に伝えないで! 一言で財産とキャリアを失う可能性とは
「災害対応にジェンダーの視点が不可欠」 女性自衛官らが語る現場の変化と課題
吳典蓉コラム:「民意」を読み違えた頼清徳総統 大規模リコールで露呈したリーダーの孤立
台湾と中国、異例の非公式交渉 頼政権の「オリーブの枝」を北京が一蹴
親中路線を強めるトランプ氏 頼清徳総統を冷遇か?米中「取引外交」に警鐘
舞台裏》台湾リコールで中国も誤算 最も懸念していた人物とは?
FRB分裂、利下げ巡り異例の反対票 31年ぶりの波乱で市場動揺
台湾関税は20%に決定 なぜ「最良税率」が日韓より高いのか、その背景とは
20%関税で台湾株1.2兆台湾ドル蒸発 国家安定基金が緊急介入
台湾の関税「20%はまだ前菜」──卓栄泰・行政院長、台米協議の焦点は「サプライチェーン協力」と「232条項」
台湾株先物が急落500ポイント超 トランプ20%関税で市場に警戒感
「テクノロジー冷戦」の最前線は東南アジアに 米中のAI覇権争いが地政学リスクを加速
韓国、関税15%で米国と合意 3500億ドル投資と自動車・農産品市場を全面開放でトランプ氏が10ポイント引き下げ発表
世論調査》大規模リコールの「逆風」直撃──頼清徳総統の信頼度、ついに3割台に転落 再選支持は半数以下
外国人との共生社会を目指す、鈴木法相「外国人を人として受け入れる時代へ」──新・育成就労制度の方向性
戦後80年──米軍記録映像が語る知られざる「戦争の実像」 映像解析で次世代へ記憶をつなぐ
堺が見せる日本の底力!大阪万博で職人技と伝統文化を再発見