公益財団法人フォーリン・プレスセンター(FPCJ)は29日、龍谷大学法学部教授の浜井浩一氏を招き、「日本は本当に安全か? イメージとのギャップから読み解く日本の治安」と題した記者向けブリーフィングを開催した。治安大国とされる日本の実態を、犯罪統計や社会調査の分析を通じて解説する内容で、ベルギーやシンガポール、米国など海外メディアの記者も参加した。
浜井氏は冒頭、「日本の犯罪発生率は減少しているが、多くの国民は『治安が悪化している』と感じている」と指摘した。街中に自動販売機が無防備に置かれている現状や、警察庁統計による犯罪件数の減少が安全性を裏付ける一方で、体感治安との間に大きな乖離があるという。また、犯罪統計には限界があり、未通報の「暗数」が見落とされがちだと説明した。ドメスティックバイオレンスや児童虐待の増加も、通報率上昇や警察の対応強化が背景にあると指摘した。
浜井氏は、日本の治安を支えてきた背景として、かつて制服警官による自転車盗の検挙活動があったとし、1989年以降の方針転換で検挙率が低下した経緯を紹介。さらに、1999年の桶川ストーカー事件以降、障害・暴行事件の認知件数が増加したことも説明した。一方で、ICVS(国際犯罪被害調査)では、日本の暴力犯罪被害率は諸外国に比べ極めて低く、被害率も減少傾向にあると強調した。
しかし近年は、SNSを通じた「闇バイト」が新たな脅威となっている。2022年ごろから若者が高報酬に誘われ犯罪に関与する例が急増。NHKと実施した少年院での調査では、回答した587人のうち約20%が闇バイト経験者であった。多くは友人や先輩からの誘いで、犯罪と認識しながらも「仕事だから」「罪悪感はなかった」と語る少年も少なくない。
調査では、4人に1人が「被害者に何も感じなかった」と答え、最も多い理由は「良い仕事とお金があればやらなかった」というものだった。浜井氏は「闇バイトは単なる犯罪ではなく、将来に希望を持てない日本社会の構造的問題を映している」と指摘。「大人が明るい未来を示せないことこそ、最大の課題」と少年の声を紹介した。
ブリーフィングでは、外国人犯罪や若者の悲観主義に関する質問も寄せられたが、浜井氏は「外国人犯罪は刑法犯全体の約5%で推移しており、増加傾向にはない」と説明した。そのうえで、「日本人の『我慢の文化』が摩擦を生み、今後ヘイトにつながらないよう注意が必要」とも述べた。
今回のブリーフィングを通じ、日本社会が抱える「見えにくい治安の変化」と「若者の絶望感」という二つの深刻な課題が浮き彫りとなった。
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