吳典蓉コラム:「民意」を読み違えた頼清徳総統 大規模リコールで露呈したリーダーの孤立

2025-08-01 12:38
リコールの結果は7月26日に明らかになり、封じられた総統が党全体を率いて8月23日の第二波リコール運動へと向かった。写真は26日に立法院外で行われた開票イベントの様子。(写真/ 劉偉宏撮影)
リコールの結果は7月26日に明らかになり、封じられた総統が党全体を率いて8月23日の第二波リコール運動へと向かった。写真は26日に立法院外で行われた開票イベントの様子。(写真/ 劉偉宏撮影)
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7月26日、台湾で行われた大規模リコールは、もともと一種の賭けだった。頼清徳総統がこの勝負に出た理由は、資金を必要としない「元手のいらない事業」だからだ。一つには、これは他人の地で行われる戦争であり、もし敗北しても「市民団体」が盾となるからである。しかし、結果は25対0。民進党政権には大きな衝撃となり、負けず嫌いの挑戦者である頼氏は、さらに全党を挙げて8月23日のリコール戦に突入させた。民進党が長年積み重ねた民主的資産を賭けても、最後のチャンスを狙う構えだ。

リコール席数の予想が誇大化された原因:権力者の妄想と錯覚

今回の大規模リコールが国内外に衝撃を与えた背景には、民進党やリコール推進団体が選挙前に過剰な宣伝を行ったことがある。投票前日、柯建銘氏は「31議席すべてをリコールする」と豪語し、少なくとも6議席は確実、10〜20議席の中規模成功は可能とした。結果はゼロで、青陣営の支持者には心理的な打撃となった。敗北後、民進党側は「そもそも国民党優勢地域での戦いで難しかった」と釈明するが、なぜその明白な事実を事前に直視しなかったのか。立法委員選からわずか1年で政治版図が大きく動くと信じたのは、権力者の「自分なら何でもできる」という錯覚だった。

この錯覚は歴史にも通じる。毛沢東は大躍進で「超英追米」が可能と信じ、数千万の命を失った。ヒトラーは二正面作戦を決行し、ナチス敗北の種を自らまいた。台湾は大惨事に至っていないが、頼清徳氏と柯建銘氏が『裸の王様』であることは露呈した。

責任転嫁の構図

権力者にありがちな幻想のひとつは、自ら過ちを犯しても責任を負わないことだ。今回の大規模リコールは、賴清徳氏にまさにその錯覚と誘惑を与えた。賴氏は一貫して「リコールは市民の自主行動」だと強調したが、柯建銘氏は賴氏や党の高層と何度も議論を重ねたと率直に語り、この主張を覆した。さらに、民進党が最終局面で曹興誠氏の不満どおり、無責任な側面支援に終始したことも明らかになった。

賴氏は党大会で党の公職者や市民団体を同行させ、林右昌書記長が花蓮を担当し、新竹地区は柯建銘氏が信頼を寄せる林志潔氏に任された。民進党は無党派層から地域立法委員までを結集させ、多くの選挙区で賛成票は2024年立法委員選挙の得票に匹敵した。これは市民団体だけでは不可能であり、賴氏の「団結十講」も大規模リコールと密接に関連している。本来、リコール前日には最後の講演が予定されていたが、反応の低迷で中止された。

こうして賴氏は、実質的に支援しながら表向きは介入せず、責任をリコール団体に転嫁し、自らは中立の第三者を装う戦術を取った。この姿勢は国家指導者として極めて無責任である。米国でトランプ氏が「mandate(民意授権)」を強調するように、選んだのは米国民であり、マスク氏ではない。台湾でも同様に、国民が選んだのは賴氏であり、曹興誠氏ではない。リコールを団体や曹氏に外注することは、明らかにリーダーシップの放棄である。賴氏は負けても責任を取らない計算だが、国民は敗北した大統領を容易に受け入れない。

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