台海解読》米中首脳会談の陰で台湾は犠牲に? 賴政権に「厄介者」回避のブレーキ役

2025-07-30 17:56
台湾大学政治学部の左正東教授は、賴清徳総統(左)の強硬な対中姿勢に対し、蕭美琴副総統(右)ら高官がブレーキ役となり、台湾が「厄介者」と見なされるのを防いでいると分析する(写真/柯承惠撮影)
台湾大学政治学部の左正東教授は、賴清徳総統(左)の強硬な対中姿勢に対し、蕭美琴副総統(右)ら高官がブレーキ役となり、台湾が「厄介者」と見なされるのを防いでいると分析する(写真/柯承惠撮影)
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米国のトランプ政権が中国との貿易交渉を本格化させる中、台湾問題は不可避に交渉の焦点となっている。台湾大学政治学部の左正東氏は『風傳媒』への分析で、賴清徳総統の対中姿勢が強硬なため、政権内部で「軟化」シグナルを出す動きが見られると指摘した。副総統の蕭美琴氏が「現状維持」を強調し、海峡両岸事務局副主任委員の梁文傑氏も「台湾に中国人かどうかの問題はない」と発言。これらはトランプ政権に「台湾はトラブルメーカーではない」と印象付ける狙いがあるとみられ

当初、賴氏は8月初めにパラグアイ訪問の途上でニューヨークとダラスを経由する予定だった。しかし、『ブルームバーグ』の28日の報道によれば、米国側は賴氏の経由が米中交渉やトランプ大統領と習近平国家主席の首脳会談(いわゆる「川習会」)に影響することを懸念。翌29日の『フィナンシャル・タイムズ』によると、米政府は賴氏に「ニューヨーク立ち寄り不可」を通達したという。

総統府報道官の郭雅慧氏も、現時点で賴氏の海外訪問計画はないと発表した。米国財務長官ベセンテと中国副首相の何立峰が会談し、川習会への布石を打つ中、賴政権は米中交渉で「波風を立てない」姿勢を強めている。

アメリカ大統領トランプと中国主席習近平が2019年大阪で握手する様子。(AP)
2019年、大阪で握手するトランプ米大統領と習近平中国国家主席。(写真/AP)

民進党の大リコール敗北、「抗中保台」は休戦か

左正東氏は今回の大リコールについて、発起側は「反共保台」「親中議員の排除」を訴え、反罷免側はこれを「虚偽だ」と反論。社会の分断が深まったと指摘する。反罷免票の意味を読み解けば、第一に賴政権への不満、第二に罷免運動そのものが招いた社会分裂への拒否感が背景にあるという。対中政策は今回の投票で主要争点にはならなかった。

『風傳媒』は、民進党と罷免派が頼みにした「反共カード」が過去の選挙では効果的だったものの、今回は通用しなかった可能性を示唆する。

20250726-市民団体の大罷免が失敗し、国民党の朱立倫主席が立法委員と共に支持者に感謝した様子。(蔡親傑撮影)
2025年7月26日、市民団体による大規模リコールが不成立となり、国民党の朱立倫主席が立法委員と共に支持者へ感謝を示した場面。(写真/蔡親傑撮影)

左氏も住民が「抗中保台」そのものを否定したわけではなく、むしろ今回の罷免ではその概念が誤用されたと受け止めたと強調。「抗中保台」の全面否定と誤解してはならないと述べた。

さらに左氏は、多くの反対票を投じた住民は民進党の一党支配を望んでおらず、分権とバランスを重視していると分析。国会監督と多党競争を維持することこそが、今回の投票の核心的メッセージだと結論づけている。

賴清徳氏は台独寄りで勢力を維持するか?

『風傳媒』は、2018年に蔡英文総統が九合一選挙で敗北した後、対中強硬路線を打ち出して2020年の再選につなげた事例を指摘したうえで、今回の大罷免に直面した賴清徳氏が、党内基盤を固めるために対中政策をさらに過激化させる可能性があるかを問うた。 (関連記事: 台湾が15%の最適関税を獲得の可能性 追加投資と米中交渉の駒リスク 関連記事をもっと読む

これに対し、左正東氏は、蔡氏と賴氏の状況は明確に異なると分析する。蔡政権は2019年まで比較的柔軟で、中国本土との再協議に希望を残していた。蔡氏は九二共識を公に支持してはいなかったが、少なくとも明確に否定はしていなかった。一方で賴氏は現在、極めて強硬な立場を取っているという。

20250726-蔡英文前大統領が大安区建安小学校で投票した様子。(蔡親傑撮影)
2025年7月26日、蔡英文前総統が台北市大安区の建安小学校で投票する様子。(写真/蔡親傑撮影)
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