1年以上にわたって署名活動や街頭での訴えを続けてきた、台湾史上最大規模のリコール運動が7月26日に投票を迎えた。立法院の権限拡大に反対する市民の声を起点に始まり、発端となったのは立法院前に集まった若者たちによる抗議行動「青鳥行動」だった。この動きは全土へと広がり、民進党支持層にとどまらず、市民団体や学生、地域の自主組織も多数参加。民主的な制度を守ろうとする運動と位置付けられていた。しかし、25件すべてが否決されるという結果に終わり、多くの参加者が深い落胆を味わうこととなった。
投票結果が発表された後、民進党の歴代3人の総統経験者が相次いでコメントを発表した。蔡英文氏は、街頭ボランティアや帰省して投票した市民、「空港のヒーロー」などを挙げて感謝の意を表し、「これは台湾の民主主義の歴史に刻まれる一歩であり、困難なときほど団結が必要だ」と呼びかけた。落胆する支持者に寄り添う姿勢がにじんでいた。
陳水扁氏も過去の演説映像を引用し、「涙を拭い、強くなり、あきらめず、再び立ち上がり、必ず成功する」と呼びかけた。短いながらも力強いメッセージは、再起を促す内容だった。

さらに、前行政院長の蘇貞昌氏もSNSを通じて意見を発信した。「台湾の民主主義の道は決して平坦ではなかったが、私たちは決してあきらめなかった。歩き続ければ、道は開ける」と綴り、簡潔ながらも前向きなメッセージを送った。失敗に直面しても立ち止まらずに進むよう促すその言葉は、民進党幹部の中では数少ないリコール運動の担い手たちに寄り添った表現となった。
これに対し、現職の頼清徳総統のコメントは、より抑制されたものだった。863字に及ぶ長文で、「今日の結果は、ある陣営の勝利でも、もう一方の敗北でもない」と冒頭に述べ、憲法に基づく権利の行使の重要性を語ったうえで、結果の尊重と与野党の団結を呼びかけた。内容は理性的で落ち着いたものであり、国家元首としての立場を反映したものではあるが、街頭で汗を流し、長期にわたり活動してきたボランティアたちにとっては、「ご苦労さま」や「皆さんの思いは伝わっている」といった一言すら見当たらず、どこかよそよそしさを感じさせるものだった。
2012年に蔡英文氏が大統領選で敗北した際、「私たちは負けたが、台湾は負けてはならない」と語ったことはいまも多くの人々の記憶に残っている。今回のリコール失敗に際しても、蔡氏は支持者に寄り添い、陳水扁氏は情熱をもって再起を促し、蘇氏は温かな励ましを届けた。それに対し、頼氏の言葉は制度の高さを強調したものだったが、温かみには欠けたという印象が拭えない。リーダーとしての視座が必要なのは確かだが、心情に寄り添う姿勢を欠けば、かえって距離を生みかねない。 (関連記事: 民進党秘書長の林右昌氏が辞意表明 「リコール敗北の全責任を負う」 | 関連記事をもっと読む )

さらに深刻なのは、民進党上層部から今なお具体的な反省の言葉が聞かれないことだ。今回のリコール運動は市民による自発的な取り組みだったとはいえ、民進党はまったく無関係だったわけではない。多くの党所属議員が公開で支持を表明してきたにもかかわらず、結果がこれほど厳しいものとなった今、党として何らの説明もないことに、落胆の声が広がっている。唯一、立法委員の沈伯洋氏がSNS上で短く謝罪を表明したが、その言葉はあまりに孤立しており、重みを支えるものとはなり得なかった。