7月26日に行われた大規模リコール投票の結果、国民党所属の立法委員である羅廷瑋氏、廖偉翔氏、黄健豪氏は、台中市長・盧秀燕の直弟子として知られる3人で、全員がリコールの危機を乗り越え議席を守り抜いた。
3人の「盧ママの子どもたち」は、選挙戦初期には「支持者からもリコール賛成の声が多い」というプレッシャーにさらされていたが、国民党の組織的な動員、国民党と民衆党の協力、そして盧秀燕氏による「母鶏がヒナを率いる」戦略によって、最終的に流れを逆転させ、リコールの波を退けた。
台中市長・盧秀燕氏は、台中リコール選戦の大きな鍵を握る存在となった。(写真/劉偉宏撮影)
台湾の揺れ動く州 盧秀燕氏の「訓練生」たちが警戒を鳴らす 台中市は全国で2番目に人口が多い都市で、都市部と農村部が混在する構造を持ち、選挙区も多様で競争が激しい。市内の11の立法委員選挙区は国民党と民進党の勢力がほぼ拮抗し、わずかな風向きや中央政府の動きが結果を左右する、いわば「全国の風向きが映る地域」とされている。
特に廖偉翔氏と羅廷瑋氏 の選挙区は、台中市の中でも人口密集地で、若年層や中産階級が多く、過去の選挙では「風向き投票」の傾向が強く見られた。民意が少し揺らぐだけで情勢が変わるため、国民党は2024年の立法委員選挙で勝利した後も神経を尖らせていた。ここで議席を失えば、単なる議席数減にとどまらず、2026年の市長選や台中の政権基盤そのものを揺るがしかねない。盧秀燕氏 にとっても、自身の政治的未来を左右する重要な戦場だった。
羅氏 と廖氏 は2024年初頭に当選したばかりで、まだ地元の基盤が固まっていなかった。リコールが提起されたきっかけは、国会開会後、彼らが賛同したいくつかの法案だった。
羅氏 は「防災法」改正案に署名し、「集会の自由を制限する」との批判を受け、民間団体から「言論の自由を抑圧する立法委員」として名指しされた。
一方、廖氏 は「立法院職権行使法」修正案を支持し、国会軽視への罰則強化を主張したことで、「メディアを萎縮させる」「ネット映え狙いの議員」「実務を欠いた若手」といったレッテルを貼られた。
廖偉翔氏(写真)と羅廷瑋氏は、それぞれ国会での活動中にリコールの「突破口」となる動きを見せた。(写真/柯承惠撮影)
盧秀燕氏は傍観者ではない 「盧ママの三子」を守り抜く 羅廷瑋氏と盧秀燕氏の関係に目を向けると、両者は台中市の国民党陣営の主流派に属し、かつて市政と議会の連携を通じて強固な信頼関係を築いてきた。彼は盧氏の市政チーム外においても最も安定した政治的盟友のひとりであり、2024年の選挙戦では盧氏自ら選挙区の動員と資源の調整を後押しし、羅氏の当選を後押しした。一方、廖偉翔氏は中央政治と産業界の背景を持つ新世代の「空降型」候補で、2022年の市長選の際に盧氏の全面支援を受けて地元で紹介され、「盧系の若手戦士」「盧ママの三子」の一人と位置づけられた。
弟子たちがリコールの危機に立たされた際、盧秀燕氏は決して傍観者ではなかった。6月以降、羅廷瑋氏や廖偉翔氏とともに地方を訪れ、街頭での訴えや説明会を精力的にこなし、彼らを全面的に支えた。7月19日に行われた「台中再勝利」の夜の集会では、土砂降りの中にもかかわらず盧氏はステージに立ち、傘を差したまま熱弁をふるい、民進党を「内輪揉めをしている」「リコールを選挙の代わりにしている」と激しく批判。与党が社会を分断していると訴えた。この集会には2万人以上が詰めかけ、若者や軍公教の家族、地域の里長たちの姿も多く見られた。
リコール投票前の19日、国民党は台中で「台中でもう一度勝つ」を掲げ、台中の国民党陣営立法委員のための集会を開催した。(国民党公式フェイスブックより)
最も安定と見られた黄健豪氏も揺らぐ 盧秀燕氏・韓国瑜氏・江啓臣氏が全力支援 予想外の展開となったのは、台中市第5選区の立法委員・黄健豪氏だった。北区と北屯区を地盤とするこの選挙区は、台中でも最も国民党陣営色が強い地域であり、盧秀燕氏の本拠地でもあるため、当初は選情が安定していると見られていた。ところが選挙前に変化が起きた。民進党の前立法委員・庄競程氏が行政院中部聯合服務センター執行長を辞任し、リコール陣営のボランティアに参加。リコールが成功すれば庄氏が補選に出馬する可能性が高いとされ、民進党陣営の士気が一気に高まった。
これを受け、7月22日には立法院長の韓国瑜氏と副院長の江啓臣氏が黄氏を支援するため街頭を回り、盧秀燕氏も黄氏の危機を察知し、リコール投票前日の7月25日夕方には全面的に支援に立ち、台中市の「F3」と呼ばれる3議席を死守し、国民党陣営の防衛線を守り抜いた。
盧秀燕氏(左)の本拠区である黃健豪氏(右)は後半の選情が一時危険となり、韓国瑜氏、江啓臣氏も現地に入り救援した。(黃健豪氏フェイスブックより)
黄国昌氏が応援演説 国民党・民衆党の大物が羅廷瑋氏・廖偉翔氏を後押し 国民党関係者によれば、盧秀燕氏が意志と体力を総動員したことで、今回の戦いはもはや立法委員の個別の自己防衛ではなく「台中を守る戦い」へと変わり、彼女が国民党内で「戦う総司令」としての存在感を確立する結果となった。
一方、羅廷瑋氏と廖偉翔氏は6月末からほぼ毎日街頭に立ち、一日5〜10回の説明会をこなして地域を回り、住民と1対1で対話を重ねた。彼らは地元の支持を固めるとともに、中立層や無党派層に接触し、国民党・民衆党連携を象徴する陣容を形成。民衆党主席・黄国昌氏の応援演説、国民党主席・朱立倫氏、台北市長・蔣万安氏の応援が選挙戦終盤に続々と投入され、クライマックスを迎えた。
一方、廖偉翔氏はテクノロジーに強い「若手イメージ」を前面に出し、SNSを活用してライブ配信やストーリー、インフルエンサーとのコラボで支持を広げた。批判に対してはその場で反論し、逆襲するスタイルで「姿を見せない候補」というイメージを払拭しようとした。
国民党立法委員の羅廷瑋氏は元議員で、リコールに対して「逐里説明」戦術を採り、市場や寺院の前で直接ビラを配布した。(写真/顏麟宇撮影)
羅廷瑋氏と廖偉翔氏の前線 盧秀燕氏の大統領選への布石 盧秀燕氏は3人の戦いを統合する中心人物で、重要な場面には必ず姿を見せ、個人の政治資源を惜しみなく投じてネットワーク・資金・選挙ボランティアをまとめあげた。今回の戦いは地方選の枠を超え、国民党が全国規模で動員する縮図ともなり、盧氏にとっては自身の全国的な政治力を試す場でもあった。彼女はこれまでも「救う人」として選挙戦を引っ張ってきたが、今回の反リコール戦は市長の立場を超え、国政レベルの指揮官としての存在感を強めた。
この戦いの成果は、将来、国民党主席選や次の大統領選に挑む際の強力な政治資産となるだろう。羅廷瑋氏、廖偉翔氏、黄健豪氏は最後まで踏ん張り抜いたが、その背後には終始、盧秀燕氏の戦略的な支えがあった。
このリコール戦は単に議席を守るためだけではなく、新人政治家たちにとっての極限の試練でもあった。羅廷瑋氏、廖偉翔氏、黄健豪氏は高度に政治化した嵐の中で、メディア戦や組織動員、政策防御といった実践力を急速に学び、有権者の目には、彼らがプレッシャーに耐え抜けるかどうかが、個人の資質を超えて「野党がどこまで監視役を果たせるのか、民主主義の強靭さを示せるのか」の象徴となって映っていた。