米トランプ政権はアジア諸国に対して新たな高関税を課す方針を進めているが、台湾への具体的な適用内容はまだ決まっていない。最終決定が8月1日までに下されるかも不透明なままだ。しかし複数の専門家は、税率の高低よりも、台湾経済が抱える長年の構造的リスクに目を向けるべきだと警鐘を鳴らす。指摘されているのは、過大な経常収支黒字、新台湾ドルの長期的な低水準為替政策、そして生命保険業界が内包する潜在的な金融リスクの3点である。これらは交渉の変数となるだけでなく、台湾経済の脆弱性そのものを示すものだという。
ハドソン研究所は7月22日、学者や元政府高官を招いたオンライン会議を開き、米台貿易の今後を討議した。司会を務めたのは元立法委員で同研究所上級研究員の許毓仁氏。参加したのは、シカゴ大学教授の謝長泰氏、元行政院政務委員で経済貿易交渉総代表を務めた鄧振中氏、元米財務省副次官補で現外交問題評議会(CFR)上級研究員のセッサー氏、そしてハドソン研究所上級研究員のウォルターズ氏らである。
米元財務省高官 半導体生産50%を米国へ移転し関税緩和を提案
セッサー氏は「焦点は関税率の高低ではなく、台湾がどのような構造的対応策を示せるかだ」と強調した。そのうえで、台湾が先進プロセスの半導体生産能力の50%を米国に移し、その見返りとして米国が半導体分野の関税を緩和するという選択肢を提案した。また同氏は、台湾積体電路製造(TSMC)が米国市場での障壁引き下げを求めながら、米国の高い労働コストを批判し続けるなら、交渉上の立場を弱めかねないと指摘。「台湾が為替政策によって国内賃金を抑えている現状では、そのような主張の説得力は限られる」と述べ、構造問題を直視した戦略が必要だと訴えた。

15%の経常収支黒字と金融リスク 生保業界が爆発点となる恐れ
謝長泰氏は、真に注目すべきリスクは関税よりも台湾内部の不均衡だと強調した。半導体やAIサーバーなどは世界市場で代替が乏しいため、たとえ関税が課されても経済全体への衝撃は限定的かもしれない。
しかし台湾は長年にわたり巨額の経常黒字を抱え、為替政策が資源配分を歪めてきたうえ、生命保険業界はリスクを抱えた米ドル資産を大量に保有し、為替変動で潜在的な資産縮小リスクが高まっているという。監督当局は多くの場合、ルールの微調整で「帳簿上の辻褄合わせ」を行うにとどまり、根本的な構造問題を放置していると批判した。
謝氏は「もし台湾ドルがさらに10%、20%上昇すれば、生命保険業界は実質的に破綻しかねず、その時は政府が救済せざるを得ない」と警告した。

鄧振中氏:中継貿易と市場アクセスは交渉の余地あり
ウォルターズ氏は、トランプ政権の交渉スタイルは不確実性に満ち、同盟国にも相手国にも同様の圧力をかける特徴があると分析した。 (関連記事: 「TSMCの米国投資は“タダ同然”」 台湾・郭正亮氏が頼政権の対米交渉を痛烈批判 | 関連記事をもっと読む )
台湾が現時点で正式な通告を受けていないことは「むしろ好材料かもしれない」と述べ、過度な抗議や強い言辞を避けるべきだと助言した。台湾は協力的な姿勢で米国とコミュニケーションを重ね、自らを交渉の矢面に立たせないことが肝要だと指摘。争点は経済にとどまらず政治的操作性を帯びており、外交上のリズムとシグナル管理が重要だとした。