台湾の前立法委員である郭正亮(かく・せいりょう)氏は、自身が出演するネット番組『亮話天下』において、台湾の対米関税交渉に関する政府の対応を強く批判した。郭氏によれば、アメリカが日本との貿易協議により関税を15%に引き下げると発表したのに対し、台湾は同様の成果を得られておらず、頼清徳(らい・せいとく)政権は交渉の主導権を失っているという。
郭氏は「頼政権は、TSMC(台湾積体電路製造)をはじめとした対米投資を交渉カードとして十分に活用できなかった」と主張。仮に関税を15%に抑えたいのであれば、アメリカに対して総額3000億ドルの追加投資を約束する必要があると述べた。
さらに郭氏は、米台間でこれまでに3回の関税交渉が行われたものの、いずれも進展が見られず、現在は鄭麗君(てい・れいくん)副院長が第4回交渉に臨んでいると説明。6月下旬に実施された第1回交渉では、アメリカ側が通商拡大法232条を適用する意向を示し、安全保障に関わる製品に対し25〜50%の関税を課す可能性があると通告されたという。
この232条の対象には、台湾の主力輸出品であるICT(情報通信技術)および半導体製品が含まれており、台湾経済に深刻な影響を及ぼす恐れがあると警告。また、アメリカ側は台湾に対し、国防予算をGDP比5〜10%まで引き上げるよう求めたが、頼政権はこうした要求を国民に明かしていないと批判した。
7月7日の第2回交渉では、アメリカが台湾に対し、孫正義氏の「クリスタル計画」への3000億ドル投資を要請。このプロジェクトはAI関連のハードウェア生産を主目的とするものだが、台湾側は2000億ドルまでしか拠出できないと回答したという。郭氏は「TSMCによる既存の1500億ドル規模の対米投資は、結果的に“無償提供”のようなものだ」と述べた。
また、アメリカは当初7月12日に台湾への関税引き上げを通知する予定だったが、在米台湾外交機関が親台派の上院議員を通じて第4回交渉の機会を確保し、通達の一時延期にこぎつけたとされる。
郭氏は「本来、日本との協議が台湾にとって圧力緩和の材料になると期待されたが、実際は逆に台湾への圧力を強める結果となった」と述べた。日本はアメリカへの投資額を当初の4000億ドルから5500億ドルに増額、しかも利益配分が9:1で日本側にわずか1割しか還元されない内容にもかかわらず合意したことが、台湾にとって大きなハードルとなっているという。
郭氏は、頼政権の交渉姿勢を「論理破綻」と非難。「TSMCとアラスカ天然ガスという2つの重要カードを何の見返りもなく差し出したにもかかわらず、アメリカは台湾に対して非協力的な姿勢を崩していない」と批判した。
さらに、郭氏は「アメリカと日本の交渉はまさに“強奪”であり、関税という圧力をテコに投資を引き出すものだ」と指摘。内閣制を採る日本と異なり、大統領制を持つ台湾では交渉戦略に制限があり、与党民進党が立法院(国会)で過半数を維持する限り、頼政権への歯止めが利かず「台湾はアメリカに搾取されるだけになる」と警鐘を鳴らした。
編集:柄澤南 (関連記事: 「TSMCの1000億ドルは前菜?」 トランプ氏「5500億ドル対日合意」に台湾経済専門家が懸念 | 関連記事をもっと読む )
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