一年に一度行われる「漢光41号演習」が、過去最多となる10日間の日程で先週終了した。副総統の蕭美琴氏は18日の外国メディアとの記者会見で、中国本土の侵略的な姿勢が台湾に脅威を与えていると述べた。しかし、台湾・中国本土・香港に精通する元日本の高官は、台湾にとって最大の脅威が本当に中国の武力行使なのかについて、別の見方を示している。
2021年に退任した安倍晋三元首相は「台湾有事は日本有事」と発言し、日本が台湾海峡の安全を自国の安全と強く結びつけていることを示したとされる。しかし、この元高官は「台湾有事」が必ずしも中共による「武力統一」だけを意味するわけではないと考えている。

エネルギー問題、軍事より深刻
約40年の外交経験を持ち、中国語に堪能で、台湾・香港・中国本土での駐在経験を持つ元駐中国大使の垂秀夫氏は、2024年に蔡英文前総統から勲章を授与された。だが先週、東京大学で開かれた新書発表会「日中外交密録:駐華大使垂秀夫の奮闘」で、垂氏はこう語った。台湾では多くの人が「台湾問題」を中共の「武力統一」と見なしているが、その考え方には問題がある、と。
垂氏は「台湾米国商会」の年度報告を例に挙げ、米国企業にとって台湾の地政学的リスクは以前より低下し、順位も1位から4位に下がったと指摘。その一方で、2025年のアメリカ商工会の報告では「米国企業が最も懸念しているのは台湾のエネルギー不足」であり、「エネルギーが臨界点に達している」と警告していることを紹介した。また、台湾政府が5月17日に最後の原発を停止したことによるリスクにも言及した。
「私は台湾に住んでいないので選挙で誰に投票するかは関係ない」としながらも、日本政府が昨年末に原発回帰へ舵を切ったことを挙げ、責任ある政府がこのエネルギー問題に適切な決断を下さなければ、台湾の将来に不確実性が生まれ、中共が軍事行動を起こさずとも台湾は揺らぎかねないと強調した。
垂氏はまた、台湾政府関係者とエネルギー問題について話したエピソードを紹介。台積電が日本投資を決めた際、最終的に九州・熊本を選んだ理由として「半導体製造には水と電力が不可欠であり、九州は水資源が豊富で、原発も稼働している」と説明し、「自分自身も現地を視察した」と述べた。

中国が軍事統一をするとは限らない
台湾の将来の安全について、垂氏は台湾を「日本式の堅固な城」に例え、通常の状況で外部からその城を崩すのは難しいと指摘。中国は力を持ち、演習や準備を進めているものの、実際に攻撃すれば大きなリスクを伴うことを中国当局も理解していると述べた。
仮に解放軍の軍事行動が失敗すれば、多くの外資系企業が中国から撤退し、中国経済がデフレに直面する可能性がある。また、ロシアがウクライナ侵攻後に経済制裁を受けた例を挙げ、中国もそのリスクを意識しているとした。
さらに、中国軍が台湾の港を封鎖し原油輸送を止めれば、台湾経済は麻痺しかねないとし、「それは容易に達成できる」と述べた。だからこそ「台湾問題」は単なる軍事の問題ではなく、中国は平和的な手段で台湾を取り込む可能性も狙っていると強調した。
日本における「台湾有事は日本有事」という見方については、「日本政府がそうした立場を取っても、1972年の日中共同声明と矛盾しない」と説明。日本は当時、中国の立場を「理解し尊重する」と述べたが、台湾への立場を支持したわけではなく、「矛盾は存在しない」とした。

中国の「ワクチン外交」は成功している
垂氏は長年の台湾への友好姿勢や、コロナ禍での日本政府によるワクチン提供への感謝から「大綬景星勲章」を授与された。しかし発表会では「私はワクチン提供の責任者ではない」と謙虚に述べ、「台湾は日本に深く感謝してくれているが、私は直接指揮を執ったわけではない」と語った。
そして、中国の不活化ワクチンについても言及。西側諸国では評価が低かったものの、中国はそれを第三世界の国々に提供し、結果として多くの国々が感謝を示したと指摘。欧米や日本もこの現実を直視すべきであり、「この点で中国は非常によくやっている」と評価した。
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