台湾は神秘的な島であり、幻想のような国家である。ある朝目を覚ましたとき、もう自分は台湾人ではなくなっているかもしれない──そんな事態を誰が想像しただろう。かつてなら「そんなはずはない、中国大陸に長期滞在し居住証を取得した学者だけが『台湾人資格を失う』」と言い切れた。しかし今、民進党総召集人の柯建銘氏は断じる。「リコールに行かなければ、あなたは台湾人ではない」と。
「史詩級の民意」の実態は小さな数字
7月26日の投票に行かなかった人、あるいは不同意票を投じた人は、柯氏の言う「非台湾人」なのか。さらにリコール選挙区外の約1300万人の市民は台湾人と見なされるのか――その基準はもはや曖昧だ。74歳の柯氏は「偉大な台湾人が立ち上がった。これは“史詩級(歴史的規模)”の民意だ」と高らかに記したが、今回のリコールで投票資格を持つのは約680万人にすぎない。全有権者の35%にも満たない数字で「大民意」と称するのは、あまりに小さい。
重要なのは実際に「リコール同意」に回る票がどれほどかだ。仮に柯氏の思惑通り24議席すべてがリコールされても、成立ラインは25%。つまり同意票が不同意票を上回ったとしても、その規模はおよそ165万票――これを「偉大な民意」と呼ぶのだろうか。これこそ柯氏が賴清徳総統に献策した「絶地大反攻」であり、自らが言う「小をもって大を打つ」戦法である。
賴総統は約4割の支持しか得ていないのに全権を握ろうとし、わずか25%で6割(国民党・民衆党陣営)の得票を覆そうとしている。総統選からわずか2日後の会談で既に決めていた。「民衆党が無条件で協力しないなら、1年後に全面リコールを仕掛ける」と。
算盤にまったく根拠がないわけではない。だが残念なのは、賴清德氏、卓榮泰氏、柯建銘氏という三人の「凡人」から、真の諸葛亮のような策士が生まれるはずもないことだ。仮に賴氏が25%の票を基準に国会をひっくり返すことに成功したとしても、「四割の民意で選ばれた総統」は瞬く間に「二割五分の総統」に変わり、その政策や訴えが、わずか25%の民意で押し戻される影響を免れられない。
リコール団が党を振り回す 「神」とされた曹興誠氏
柯建銘氏の「小を以て大を打つ」という算段のため、賴清徳氏と民進党は一年間、青い鳥リコール団という「大きな尻尾」に振り回される犬のような存在となった。リコールの成否を問わず、民進党はこの尻尾に振り回され続け、すでに「尻尾が犬を振る」構図が出来上がっている。民進党と青い鳥は互いを慰め合いながらも足を引っ張り合い、柯建銘氏、賴清徳氏、曹興誠氏の誰もがリコール終盤で、控えめに言えば失言を、率直に言えば妄言を重ねている。
曹興誠氏は今回の「大リコール」を「台湾を愛する者と台湾を売る者の対決だ」と位置づけ、沈伯洋氏と共に「我々を罵る者は皆親中売台派だ」と言い切った。大リコールは本来、民主政治の常態とは言えないが、彼は「これほどの大政党が国会で国家を裏切るのも常態ではない。だから非常態には非常態で対抗するしかない」と主張する。そして最後には「国民党の立法委員を追い出し、正常な国会を取り戻す」と呼びかけた。
だが、曹興誠氏の目に映る「正常な国会」とは野党のいない国会だ。それは蒋介石時代を思わせるような一党独裁の構図に限りなく近い。彼はもはや「迅速検査」ではなく「神」となり、批判は許されず、異を唱えれば悪魔、すなわち親中売台派とされる。神と悪魔の境界を曖昧にし、そこに近づいているのだ。より恐ろしいのは、賴清徳氏が国家元首でありながら、この論理を信じている点である。
「雑質を打ち壊す」「より大きな民主」「多数決だけでは駄目」――どの言葉も耳を疑うものだ。賴氏は「リコールと反リコールがあるからこそ台湾は独裁ではない」と語るが、その一方で司法機関は上からの指示を仰ぎ、多くの反民進党派ボランティアを拘束し、投票前まで釈放しなかった。リコール団が国民党の「幽霊署名」を批判しつつも反省しないとしても、拘禁という手段に訴えるべきではない。しかも検察はリコール団の偽造署名に関する告発を放置し、相手にもしない。国民党と民進党で異なる競争条件が与えられている時点で、賴氏の言う「民主の深化」などではない。司法が政治に奉仕し始めた時、それは「独裁への道」だ。これは決して大げさな警告ではない。投票前、民進党高層が検察人事を調整する会話が再び暴露された。これを「蔡英文政権後期のことだ」と責任逃れしてはならない。民進党が司法・検察・警察の人事を動かしてきたことは、決して途絶えたことがない。ましてや国営企業やその関連会社の人事においてはなおさらだ。
民進党全党が「大成宮」に取り込まれる 賴清徳氏は柯建銘氏に説明を求めるのか
曹興誠氏は「国民党の議員は毎日立法院で爆弾を投げ、暴力でめちゃくちゃな法律を強行している」と糾弾した。しかし現実には、身近な場所で児童虐待事件や詐欺事件、殺人事件といった「現実の爆弾」が頻発している。民進党側を放置し、国民党側を拘束する蔡・賴体制の司法は、高額保釈金を課した詐欺犯を何度も逃亡させ、一方で児童虐待致死の刑罰加重法案には民進党議員がそろって反対票を投じた。社会に「爆弾を投げている」のは一体誰なのか。
さらに滑稽なのは、この一年間で賴氏、卓氏、柯氏が覆議や憲法解釈を求めた法案の大半が、もともと民進党自身の主張だったという事実だ。実際には99%が民衆党の堅持から出たものであり、しかし民衆党には地域区の議員がいないため、民衆党と手を組んだ国民党だけが攻撃の標的にされた。柯建銘氏は以前こう言った。「民衆党が無条件で協力しないなら、1年後に国民党の立法委員を全面リコールする」と。ここに問題の本質がある。民衆党が「民進党・民衆党合作」を拒めば、なぜか「国民党・民衆党合作」の国民党が罰せられる。それは政治的な論理ではなく、単なる政治的算盤である。
このような「大リコール」にどんな正当性があるのか。ましてや「憲法に基づく権利」という賴氏の言い回しも、結局は口実にすぎない。柯建銘氏はまだ正直だが、賴氏は一度も自らの政治計算を認めない。なぜ民進党全党がこれほど混乱した「反攻計画」に陥るのか。さらには「大成宮」なるものに翻弄されているのか。選挙のとき王義川氏が憑依したように振る舞い、敗北後も柯建銘氏が憑依を続け、党全体が「大成宮」に迷い込んだ。国民党を「義和団より義和団的だ」と罵ったが、この「大成宮」こそ白蓮教よりも白蓮教的ではないか。一体誰が、自らを滅ぼす神風特攻を演じているのだろう。
24時間後、私たちは依然として台湾人である。しかし、この民主の傷跡は癒えない。民進党が憑依から目を覚まさなければ、民主は再び動き出せず、国家の軸も定まらない。台湾はトランプ氏の関税すら防げず、まして世界の前で中国を食い止めることなど到底できない。そして現状の議席数では、賴氏に説明を求めても大統領リコールには届かない。せめて柯建銘氏に説明を求めることくらいは、できるはずだ。