唯一無二の存在とされる元台北市長・柯文哲氏が、京華城事件を巡って勾留されてから10か月が経過し、検察にとっても極めて扱いにくい被告となっている。台北地方法院では現在、「京華城利益供与事件」の審理が進められており、3月と4月にそれぞれ2回の準備手続きが実施された。5月以降は証人の召喚と取り調べ映像の検証が集中的に行われている。勾留の延長期限は7月末に迫っており、次回の公判は7月15日に予定されている。勾留は来年4月まで延長が可能だが、その可否は未定であり、司法制度への信頼が揺らぐ中で、検察が築いてきた「司法の長城」はすでに大きく崩れているとの見方もある。
京華城事件の構図と法廷の攻防
事件の関係者である柯氏は、卓越した記憶力と強い意志で知られている。通常、起訴された被告は目立つことを避け、審理中に怒りを買わないよう努めるものだが、柯氏はその常識に当てはまらない。多くの場合、罪を認めて交渉を進め、執行猶予や釈放を得るケースが一般的で、これは検察が慣れてきた捜査の常套手段でもある。たとえば、議員の秘書費詐取事件では罪を認める関係者が相次ぎ、同様に台北市副市長も保証釈放を選んだが、その結果、妻が精神的負担に耐えきれず自死するという痛ましい出来事もあった。
勾留から10か月のうち前半は、柯氏にとって特に厳しい状況だった。検察による「鏡検」報告は毎週行われ、捜査や起訴状の内容は次々に外部へと漏洩していた。起訴を正当化するため、京華城事件とは無関係な政治献金や、柯氏のUSBに保存されていた女性の写真といった私的な内容までもが報道対象となった。だが柯氏は、自身のイメージが損なわれることを承知の上で否認を貫き、むしろ北院での審理を通して検察との対決の場と位置づけた。民衆党もこれに歩調を合わせ、徹底抗戦の構えを崩していない。開廷のたびに注目が集まり、実際の陪審員制度は存在しないにもかかわらず、全国民が見守る「もう一つの法廷中継」のような様相を呈している。審理の焦点は柯氏だけでなく、検察や弁護側の振る舞いそのものにも向けられている。
過去2か月にわたる法廷でのやり取りでは、検察側が優勢に立っていたが、核心である「1500万の資金の移動」に関しては、今なお明確な証拠が示されていない。この点は検察の大きな弱点であり、「贈賄・利益供与」事件としての成立に大きな疑問を残す。さらに問題なのは、検察が関係者に対して贈収賄を示唆しながら、長時間の取り調べで自身の見解を調書へと反映させようとした点だ。その手法は公正性に欠けるとして批判も多く、今後の審理での争点となる可能性がある。
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10か月の拘束──特定の「1500万」の行方は依然不明
こうしたなか、検察は「有力な理由」に基づいて柯氏の勾留を続けるため、大量の証人を並べ、法廷は12月初旬まで審理日程を確保する事態となっている。しかし、柯氏と対立関係にある前市発局長や前台北市副市長でさえ、決定的に不利な証言を提供するには至っていない。むしろ柯氏は、高雄市や台南市における類似の容積率奨励事例を持ち出し、京華城案件が都市計画法に準じた合法的な手続きを経ていたことを主張している。
都市計画に関する独自の詳細な提案を提示し、法廷内では検察・弁護側双方による「訴訟経済」をめぐる論争も激しさを増している。もし検察が本当に十分な証拠を手にしていたならば、これほどまでに多くの法的リソースが費やされることはなかっただろう。12月までに審理が続いたとして、さらに柯氏が来年4月まで勾留されたとしても、「1500万」がどの人物の、どのルートによる金銭であるのかが立証される見込みは、いまだ不透明なままである。
最新の展開では、台北市都市計画委員会の前技正・胡方瓊氏が証人として出廷し、「京華城の手続きは完全に合法だった」と明言した。2021年に行われた2回の専門家会議や、第775回都市計画委員会の映像記録も精査され、すでに柯市政時代にオンラインで公開されていたことが確認された。審理上の争点はむしろ、京華城関連の12回の会議や、他の9回に及ぶ関連会合について、検察がこれまで一貫して検証してこなかった点に移りつつある。
これらの会議に共通するのは、京華城の容積率奨励が一人の独断によって決定されたものではなく、専門家、市政府、事業者による議論と公示、都市計画委員会などを経た複雑なプロセスを通じて実現されたという事実である。京華城の案件には都市更新法ではなく都市計画法が適用されており、業者は単に恩恵を受けたのではなく、緑建築やスマート建築といった社会的貢献を行った上で、容積率の奨励を受けていた。
だが検察にとって予想外の痛手となったのは、都市計画の法的論点ではなく、柯氏の弁護人が「京華城関連の会議記録と映像はすでに公開されている」と法廷で明言したことだった。この発言は、コロナ禍の最中に政府が実施した「3+11」政策を想起させるものだった。あのとき、感染症対策指揮センターは会議記録を残さず方針転換を行い、監察院ですら強く追及することができなかった。数百万人の命に関わる問題でさえ、記録も説明も不十分なまま終息してしまったのである。
柯氏は感染症対策について多くを語ろうとはしないが、市民の怒りを買ったのは「3+11」だけではない。総統自らが「内部取引は一切ない」と断言したにもかかわらず、高端ワクチンの利益供与疑惑は、感染症の収束とともに議論から姿を消した。一方で、衛生福利部長や疾管署の幹部が利益供与を受けたと指摘した国民党の李德維立法委員は、最近の一審判決で60万元の賠償命令を受けている(控訴中)。
勾留慣性と司法の従属──崩れる独立性
仮に、会議記録と合議制に基づいた政策決定が「利益供与」に当たるというならば、反対意見書を出さなかった出席者全員が責任を問われることになるはずだ。
さらに検察は、妙天氏や王令麟氏、王尊侃氏(應曉薇氏の友人)を再喚問しない方針を固めている。王令麟氏が提供した500万元や、妙天氏が許芷瑜氏(通称:橘子)を通じてスーツケースで提供したとされる1000万元は、いずれも政治献金に分類されており、京華城事件との直接的な関係性は確認されていない。このうち許芷瑜氏の日本訪問は、一時的に「証拠隠滅の恐れあり」と見なされ、柯氏拘束の根拠の一つとされたが、10か月経った現在では法廷で一切取り上げられていない。
次回の公判は、立法院の「大罷免」投票を10日後に控えたタイミングで行われる。法的には、拘留を続けるか否かは「必要性」と「相当性」に基づいて判断されるべきだが、検察の政治的立場を踏まえれば、司法判断の独立性が問われる局面でもある。
証拠の裏付けが十分とは言えない「贈賄・利益供与」事件が続くなかで、司法が政治に従属しているという印象が強まりつつある。最大の問題は「強制起訴」よりも、比率原則を無視した「強制拘留」にあるとの指摘も根強い。
驚くべきことに、柯氏の拘留以降、政治案件──とくに「大罷免」関連──における拘留率は、詐欺事件や暴力事件を上回る高水準に達している。中には、Facebookに画像を投稿しただけで勾留された例もある。拘留が検察の慣行となり、裁判所がこれに異議を唱えない現状は、司法が権力を監視する役割を果たしていない証左ともいえる。北検は、もはや司法の失敗事例として語られ、民進党の動員力にとっても大きな弱点となっている。この構造的な問題は、誰にも簡単には修復できない状況にある。