アメリカのCNNは8日、トランプ氏が「台湾を攻撃すれば、北京を爆撃して粉々にする」と習近平氏に語ったとする音声を公開した。この発言自体は以前から知られていた内容であり、新味はないものの、台湾国内では再び大きな注目を集めている。ただし、CNNの報道の主眼はトランプ氏の発言の一貫性のなさにある。というのも、同氏はこの共和党系資金集めの晩餐会で「プーチンに対しても、ウクライナに侵攻すればモスクワを吹き飛ばすと伝えた」と語っていたが、いまだロシア・ウクライナ戦争を収束させられず、プーチン氏の撤兵も実現しておらず、モスクワを爆撃することもなかったからである。
この音声を公開したのは『ウォール・ストリート・ジャーナル』の調査報道記者ジョシュ・ドーシー氏と、『ワシントン・ポスト』の記者アイザック・アーンズドルフ氏であり、両氏はCNNのインタビューで次のように語った。トランプ氏は昨年、ニューヨークで自身に最も多額の献金を行う支援者らを前に演説し、プーチン氏との「非常に良好な関係」を誇示する一方で、自らが「プーチンに直接対峙し、脅すことも厭わない」と豪語していたという。
しかし現実には、プーチン氏はトランプ氏の言葉に耳を貸さず、ロシアによるウクライナ侵攻も止まっていない。トランプ氏は今なお戦争を終結させることができず、プーチン氏の攻撃を止める力も持ち得ていない。実際、プーチン氏がトランプ氏を恐れた形跡はなく、「良好な関係」というトランプ氏の主張も何ら効果を発揮していない。こうした経緯から、現在トランプ氏は再びウクライナへの軍事支援を打ち出し、ロシアに対する追加の経済制裁も示唆している。
トランプ氏が「台湾を侵略すれば北京を徹底的に爆撃する」と習近平氏に直接警告したとする発言は、2024年5月に『ワシントン・ポスト』が最初に報じたものである。報道によれば、この発言はトランプ氏が資金集めの場で支持者に向けて語ったもので、出席者の間に衝撃を与えたほか、中国国防部からも厳しい批判を受けた。また、米下院外交委員会のマイケル・マッコール委員長も、トランプ氏が政権末期に「台湾を攻撃すれば習近平を粉砕する」と発言していたことを明かしている。
一方、CNNが公開した音声記録によれば、トランプ氏は同じ場で「プーチンも習近平も、自分の脅しを本気にしていないようだった」と語っており、「だが彼らが10%でも、いや5%でも信じれば十分だ」とも述べていた。トランプ氏は、自らを「言ったことは必ず実行する強硬派の大統領」と印象づけようとしたようだが、習近平氏やプーチン氏がわずかにでも不安を抱けば、戦争を回避できるとする彼の論理は、今回音声を公開した記者たちの揶揄や皮肉の対象にもなっている。
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トランプ氏が台湾防衛を強調する発言、本物か虚構か
このような文脈を踏まえると、果たしてトランプ氏は習近平氏に対する強硬な発言を本当に実行に移すのだろうか。実際、台湾の中央通信社は昨年、「中国が台湾を攻撃すれば北京を爆撃すると警告したかと思えば、台湾に防衛費を支払わせようとする――トランプ氏の発言の一貫性のなさは日常茶飯事であり、彼の国際観は価値より実利を重んじるものだ」と指摘している。
元大統領補佐官(国家安全保障問題担当)のジョン・ボルトン氏は『ジョン・ボルトン回顧録 トランプ大統領との453日(The Room Where It Happened)』において、トランプ氏の対中姿勢は台湾への関心を大きく上回っていたと述べている。ボルトン氏によれば、中国からの投資で利益を得ているウォール街の金融関係者と会話した後、トランプ氏は台湾に対して特に「消化不良」(dyspeptic)な態度を見せたという。彼が最も好んでいた比較は、マーカーペンの先端を指して「これが台湾」、大統領執務机全体を指して「これが中国」と語ることであった。ボルトン氏は「アメリカがもう一つの民主主義同盟国に対して持つ責任と義務など、所詮この程度だ」と述べている。
また、米国の有力シンクタンク「外交問題評議会(CFR)」の研究員デイヴィッド・サックス氏は、2023年10月に発表した論考『トランプは台湾を見捨てるか』の中で、トランプ氏にとって両国間の経済関係が外交姿勢を決定づける主要因であり、地政学的な懸念は後回しにされがちであると指摘している。台湾に関しても、同氏は台湾が経済的に米国に依存しているとの見方を持っており、それが台米関係全体に影響を与えている可能性があるという。さらにトランプ氏は一貫して同盟国の価値を疑問視し、むしろ「ただ乗りしている存在」と捉えている傾向がある。彼の発想では、仮に米国が台湾防衛を放棄すれば、日韓など他の同盟国が自ら安全保障の責任を負うようになり、それは米国にとって「好ましい展開」とさえ言えるのかもしれない。なぜなら、そのような状況下では同盟国からの要求が減ると考えているからである。
ワシントンのシンクタンク研究者:台湾は自力で備えるしかない
台湾の戦略的な位置や経済的重要性、さらには米国が台湾防衛を放棄した場合に国際秩序や米国と同盟国との関係に与える悪影響を踏まえ、多くの人々は「米国は中国による台湾侵攻を必ず阻止し、抑止が失敗した場合には台湾を防衛する」と信じている。しかし、米シンクタンク「外交問題評議会(CFR)」の研究員デイヴィッド・サックス氏は、「トランプ氏がそのような理屈を説得力あるものと考える可能性は低い」と指摘し、「米国が台湾を防衛しない選択をすれば、同盟国が自ら安全保障の責任を負うようになる」との見解を示している。
そもそもトランプ氏は、台湾が米国の半導体ビジネスを奪ったと非難したことがあり、米国が台湾を守る能力を疑問視し、「台湾は我々に何も与えていない」と不満を述べたこともある。過去にはメディアから「中国が台湾を侵略した場合、米軍を派遣するのか」と問われた際も、トランプ氏は明言を避け、「交渉での立場を不利にしたくない」として回答を拒否した。彼の言葉によれば、「この件については話したくない。なぜなら、将来の交渉時に不利になるからだ。ただ一つ言えるのは、私が大統領だった4年間、一切の脅威はなかった。もし私が大統領であれば、そんな事態は起きない」という。
こうした曖昧な態度により、中国は「米国は台湾を守らず、台湾海峡の現状変更にも抵抗しない」と受け取り、軍事的・経済的・政治的圧力をさらに強め、地域の安定を損なう恐れがあるとサックス氏は警鐘を鳴らす。
同氏はまた、台湾が直面する課題として、軍事力を強化し続ける中国の存在に加え、米国内で勢いを増す孤立主義や保護主義の潮流を挙げる。トランプ氏の外交方針は彼個人の見解にとどまらず、多くの米国民の感情を反映している点にも注意が必要である。
たとえ台湾が米国の10大貿易相手国の一つであり、世界のサプライチェーンにおいて重要な役割を担っていたとしても、トランプ氏が重視するのは二国間の貿易収支であり、それを経済関係の「公平性」を測る物差しと見なしていた。サックス氏は、トランプ氏が台湾に対し対米貿易黒字の縮小を求める可能性があると早くから指摘していた。
さらに、2024年の米大統領選挙を前に、サックス氏は「トランプ氏が2025年1月にホワイトハウスへ復帰すれば、米国の同盟国やパートナーは厳しい選択を迫られる」と警告していた。とりわけ台湾は米国の正式な同盟国ではないため、安全保障上の選択肢が極めて限られており、他国に頼ることも、中国の侵略を単独で抑止することもできない。
そうした状況を踏まえ、サックス氏は「米国の地域関与が今後縮小する可能性に備え、台湾は日本との安全保障パートナーシップを強化すべきだ」と提言する。それが、国際情勢への関心が薄れつつあり、かつ予測困難な米国との関係において、台湾がより安定した対応をとる一助となると述べている。