アメリカのドナルド・トランプ大統領は7日夜、独自のSNS「トゥルース・ソーシャル(Truth Social)」において、石破茂首相宛ての書簡を公開し、8月1日から日本からの全輸入品に対して25%の懲罰的関税を課すと発表した。この動きは日米貿易交渉の緊張を一層高め、日本国内で政府から民間まで大きな衝撃を引き起こした。経済学者は、日本経済が不況に陥るリスクが明確に50%を超えたと警告している。
NHKやロイターの報道によれば、トランプ氏のこの行動は現行の貿易交渉に対する極限の圧力と見られている。書簡には強硬な言葉が並び、この「一紙通告」により日本の政界は驚愕と怒りに包まれた。日本政府は8日午前、すべての内閣メンバーが参加する緊急対策会議を開き、対応策を協議した。世界市場も息を詰め、この貿易の嵐がどのように展開するかを注視している。
「近江牛の涙」:食卓から産地への衝撃波
NHKの報道によれば、今回の関税ショックの最前線で打撃を受けているのは、近年アメリカ市場の開拓に力を注いできた日本企業である。滋賀県の特産品「近江牛」の輸出を手がける「オカキブラザーズフーズ(Okaki Brothers Foods)」はその代表例だ。
同社は2021年以降、海外で高まる和牛人気に着目し、米国西海岸の高級レストラン市場への参入に成功。直近1年間(2024年7月〜2025年6月)には、アメリカ向けの輸出量が3.1トンに達し、数千万円規模の売上を記録。これは同社全体の輸出額の3割を占めるまでに成長した。
しかし、こうした成果は今、危機に直面している。同社の岡山和弘社長は、「米国の顧客との信頼関係を築くのに4年半かかりました。それなのに今、顧客から『トランプ大統領の動向次第では、いつでも注文をキャンセルするかもしれない』と言われ、不安で仕方がありません」と苦しい胸の内を明かす。
現在、アメリカ向けの和牛にはすでに36.4%の関税が課されており、仮にそこへ追加で25%が上乗せされれば、現地での販売価格は消費者にとって手の届かない水準に跳ね上がり、売上の急減は避けられないとみられる。
こうしたリスクに備え、同社は今年2月から中東市場への進出を模索し、ドバイなどへの販路拡大に乗り出している。岡山社長は「ほかの輸出先を見つけるしか生き残る道はない」と語り、打開策を模索する厳しい現状をにじませた。
自動車業界に警鐘――すでに点火された関税の時限爆弾
農産品に比べ、日本経済の屋台骨である自動車産業は、すでに関税の影に覆われている。実際、今年5月以降、アメリカは日本製の一部自動車用主要部品に25%の追加関税を課している。東京に本社を置く自動車用照明機器大手「小糸製作所(Koito Manufacturing)」はその被害企業の一つである。
アメリカは同社の主要市場であり、現地子会社の昨年度売上高は2200億円に達し、グループ全体の売上の約4分の1を占めている。小糸製作所は米国内に4つの組み立て工場を持つものの、生産に必要な部品の約半数は日本やタイなどから輸入している。25%の関税により、同社の年間コストは最大で100億円増加すると見込まれている。
同社専務兼CFOの大嶽孝仁氏は「自動車関税問題がもっと早期に解決すると考えていたが、予想以上に長引いている。最終的には日本に有利な結果を望んでいるが、自動車産業としては現地調達と現地生産の推進を余儀なくされるだろう」と語る。しかし、米国内で顧客の厳しい品質基準を満たす供給先を見つけるのは容易ではなく、業界は難しい局面に直面している。
経済学者の警告:GDP低下0.85%、不況の可能性は半分以上
トランプ前大統領が発表した25%の対等関税に対し、野村総合研究所のチーフエコノミスト、木内登英氏は厳しい見通しを示した。同氏によれば、現時点で米国が実施している関税措置は、すでに日本のGDP(国内総生産)に対して1年以内に0.47%の下押し圧力を与えているという。もしトランプ氏の25%の全面関税が実現すれば、その影響は倍増し、1年で日本のGDPを0.85%押し下げることになる。
木内氏は「これは日本経済にとって非常に大きなマイナスの衝撃である。一旦実施されれば、2026年には日本経済が景気後退に陥る可能性が50%を超えるだろう」と分析する。
さらに木内氏は、この影響が段階的に広がると指摘する。「体力のある大企業は耐えられるかもしれないが、その負担は最終的に下請け企業や中小企業に転嫁される。結果として雇用環境の悪化や賃金の凍結が起きるだろう。来年の春季労使交渉(春闘)では、大企業の賃上げ率も大幅に抑えられる可能性が高く、その影響は我々の生活の隅々にまで及ぶことになる」と語った。
石破茂氏の反応:柔軟でありながら毅然とした姿勢、国益を守る決意
トランプ氏の衝撃的な関税発表を受けて、日本の石破茂首相は8日に開かれた緊急閣議で、軟中にして強硬な姿勢を示した。石破首相は対外的に「トランプ氏の発表は遺憾であるものの、事実上、交渉期限を8月1日まで延長したものと受け止めている」と述べ、関係閣僚に対して「国益を守ることを前提に、引き続き米国側と協議を継続し、双方にとって有益な解決策を模索せよ」と指示した。石破首相は「これまで合意に至らなかったのは、日本政府が安易な妥協を避け、守るべきものをしっかり守ってきたからだ。この期間の厳しい協議も決して無駄ではなかった」と強調した。さらに、米側からは「日本側の対応を踏まえて、関税引き上げに関する書簡の内容を再検討する用意がある」との提案があり、交渉の早期進展を望んでいることも明かした。
経済産業大臣の武藤容治氏は、自動車など主要産業の利益を守るため、全国に約1000カ所の相談窓口を設置し、これまでに4200件を超える企業からの支援要請を受けていると説明した。農林水産大臣の小泉進次郎氏は、農林漁業者から約500件の意見を集めており、多くが現行より高い関税が課されれば影響は避けられないと見ていると指摘した。財務大臣の加藤勝信氏は、影響を受ける企業に対し資金繰りなど金融支援を提供し、国内産業の安定を図ると約束した。
与党の強い不満:「一通の書簡による通告は非常に無礼!」
内閣の慎重な対応とは対照的に、与党・自民党はより強い感情をあらわにしている。自民党の政務調査会長、小野寺五典氏は党内対策会議で怒りを隠さず、「これは全く受け入れられない内容だ。一通の書簡で通告するとは、同盟国への極めて失礼な対応であり、強い憤りを覚える」と述べた。小野寺氏は、政府に対して緊急対応策の即時発動を促すとともに、影響を受ける企業への支援を行うよう求めた。また、政府の交渉を強力に支持し、毅然とした姿勢で粘り強く交渉を続け、8月1日までの合意成立を目指す意向を示した。