調查》台湾の医療に潜む「戦時の弱点」 医薬品の6割が中国依存、レジリエンス体制に懸念

2025-07-07 17:49
台湾は中台間の最前線で武力衝突の脅威に直面する中、医薬品のレジリエンスに5つの欠陥があることが指摘されている。写真は頼清徳総統が社会全体の防衛レジリエンス演習を視察する様子。(写真/全社会防衛レジリエンス委員会提供)
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台湾は地政学的に重要な位置にあるため、中国との対立を背景に、戦争リスクが常に付きまとう。2025年7月に実施された「漢光演習」と「社会防衛レジリエンス演習」を統合した動きは、政府が危機に対する認識を高めている証ともいえる。しかしながら、日米からの軍事支援や兵器の備蓄といった目に見える部分ばかりに注目が集まる一方で、実際に戦争が勃発した際、台湾の医療体制が島内全体の住民をどれほど救えるのかについては、ほとんど議論されていない。

6月19日に立法院の社会福利及び衛生環境委員会で開かれた公聴会「台湾レジリエンス医療整備計画」では、医薬品、制度、人材、法規制、地域医療の5分野において、戦時下での台湾医療の脆弱さが専門家によって指摘された。平時には世界トップレベルとも称される台湾の医療だが、もし戦争が起これば、その土台は一気に崩壊しかねないという。医師でもある頼清徳総統は、この現実をどこまで認識しているのだろうか。

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専門家は台湾の戦時医療における致命的な脆弱性を指摘している。写真は2025年実施の城鎮レジリエンス演習。(写真/張曜麟撮影)

薬品供給の6割が中国頼み 「命綱」は敵の手中に

戦時における医療崩壊の第一の懸念は、薬品供給チェーンの脆弱性だ。台湾の医薬品原料の約8割は輸入に依存しており、そのうち6割は中国から調達されている。もしも軍事衝突や航路の封鎖、経済制裁が発生すれば、最初に打撃を受けるのはこの医薬品供給である。台湾製薬工業同業公会の理事・王惠弘氏は、「今や中国からの命令ひとつで、台湾における複数の薬品の生産ラインが停止しかねない」と警鐘を鳴らす。

学名薬協会の会長・陳誼芬氏も、台湾国内には多くの学名薬が存在するものの、その製造に使う原料は国外調達に依存しており、地元での合成や代替生産の体制が極めて乏しいと説明する。さらに、基礎的な医薬品ですら在庫が1カ月未満という品目もあるという。薬剤師公会の顧問・葉明功氏は、「戦時に求められるのは“量”よりも“即応性”だ」と述べ、例えばモルヒネのような麻酔薬でさえ、複数の人員を介した管理が必要で即時使用が難しくなると指摘。そのうえで、政府に対し「使い捨てペン型鎮痛薬」の導入や、空輸が遮断された事態を想定した配布システムの構築を求めている。

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台湾の医薬品原料の8割以上が輸入に依存しており、そのうち6割を中国に頼っている現状は、医薬品サプライチェーンの脆弱性を特に際立たせている。(写真/顏麟宇撮影)

小規模薬局ばかりで「大波」に耐えられない 求められる国策レベルの薬局

台湾医療の2つ目の致命的な弱点は、製薬業界の構造にある。台湾には150社以上の製薬企業があるが、大半が中小規模で、生産能力や研究開発力に乏しいのが現状だ。台湾製薬工業同業公会の理事長・黃榮男氏は、「台湾の薬局はまるで小さな漁船。大波が来れば全て転覆する」と警告を発する。特に、学名薬においては薬証の重複が多く、結果的に生産量が分散し、全体の効率が下がっていると指摘する。

台湾医薬品法規学会の理事長・康照洲氏も、同一薬品を複数の企業が競って生産する一方で、新薬の研究開発に取り組む企業は少ないと話す。価格競争に巻き込まれた結果、低価格・低利益の薬品しか市場に残らず、技術力の高い戦略的な薬の開発はほとんど進んでいないという。現在の生産ラインは柔軟性にも欠け、たとえ原料が揃っていても、急な増産には対応できない。こうした状況を打開するため、多くの専門家が「統合基金」の設立を提案し、薬局の合併再編を促進。戦時に必要な薬品を安定的に供給できる「国家レベルの薬局」の設置が急務だとしている。