評論:台湾・賴清徳総統が「米軍との協力すべて公開」と明言 対中緊張さらに高まる恐れも

2025-07-04 15:59
頼清徳総統が1日夜に「団結国家十講」の第4講「国防」を行った。(総統府公式サイトより)
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台湾の賴清徳総統が1日夜に行った「団結国家十講」の第4では「国防」がテーマとなったが、内容は台電の補助金や軍人の待遇、さらには航空業界の反発を招いた出世ルールの話など多岐にわたり、波紋を呼んだ。中でも注目を集めたのが、台米軍事協力についての踏み込んだ言及だ。総統自らが協力内容を「すべて明かす」姿勢を見せたことで、「抗中保台」の政策強化か、あるいは台湾海峡の不安定化を助長する火種かという評価が分かれている。

台米の連携強化がもたらす「自爆」リスク

賴氏は演説で、「米軍との協力、訓練、交流は世界一流だ」と述べ、就任後に国防予算をGDPの3%以上に引き上げたことを強調。米国が台湾に販売した兵器や、両国間の軍事訓練計画の具体例を紹介し、2024年には米国の軍需企業26社が台湾を訪問し、共同の防衛供給チェーンを構築しつつあることを明かした。

ただし、米台の共同防御条約は断交によりすでに無効化されており、公式な軍事協力関係は存在しない。現在の関係は台湾関係法およびレーガン政権時代の「六つの保証」に基づいているにすぎない。米国はアジア太平洋への戦略的回帰を進めており、台湾を「不沈空母」として位置づけていることから、台湾側がより受動的な立場に置かれているとする指摘もある。

賴政権の発足以降、両岸関係の緊張は高まりを見せている。北京当局は、台湾を通じて米国が中国沿岸地域への軍事的圧力を強めていると警戒しており、一方で台湾与党は、米国の「台湾カード」を戦略的に活用することで、自国を軍事的な「ハリネズミ」として位置づけている面も否定できない。2025年2月の「漢光41号演習」では、国防部長の隣に米軍高官の名札が写り込んだ写真が発表され、その後、名札部分が削除された修正版が再公開された。これにより、米軍将校が台湾に駐在している可能性が強く示唆され、透明性の欠如や与党の安保戦略に対する懸念が高まった。

《軍聞社》が発表した2月21日の漢光演習高級幹部図上演習の写真に、米軍印太司令部高官の名札が写っているとして、その後新たな写真が名札を削除して公開された(軍聞社サイトより)。
《軍軍聞社》が2月21日に公開した漢光演習の高級幹部図上演習の写真では、上写真の赤丸で示された部分に米インド太平洋軍司令部高官の名札が見られた。しかし、その後公開された新しい写真では、その名札は削除されている。(軍聞社サイトより)

軍事依存が招く「終わりなき戦い」への懸念

賴氏が演説で触れた米国軍需企業の訪台については、当時メディアへの公開は控えられていたが、今回の強調により「公然の秘密」としての性格を帯びてきた。これは米国による台湾支援の構築を印象づける狙いと見られる。ただし、トランプ氏の復帰に伴って浮上している「台湾放棄論」により、台湾社会では米国への疑念が増しており、支援への信頼も以前ほど確かなものではない。

バイデン政権下でのウクライナ支援は実質的な軍事派遣を伴わず、米国製武器が十分な効果を発揮していないことが台湾市民の間で不信を呼んでいる。米国が構想する「非対称戦争」や台湾海峡での「ウクライナ再現」は、台湾にとって自主的な防衛戦略の構築を妨げる結果となっている。

過去の印パ間の空中戦や、イスラエルとイランの衝突における「鉄のドーム」システムの突破は、台湾にとって米国製防衛装備の再評価を促す契機にもなっている。イスラエルのテルアビブでは、2025年6月15日にイランのミサイル攻撃によって建物が破壊され、鉄のドームの限界が露見した。

2025年6月15日、イスラエルのテルアビブで「鉄のドーム」がイランのミサイルによって突破され、建物が破壊された様子(AP通信)。
2025年6月15日、イスラエルのテルアビブでイランのミサイルが建物を破壊した様子。「アイアンドーム」システムの欠陥が露呈した。(AP通信)

防衛費の数字が問われる中、広がる疑念

こうした背景から、賴総統の強気の発言はかえって信頼性を損なう結果となっている。トランプ氏が大統領選挙中に主張した防衛費の「GDP比10%」や、米国防長官ヘグセス氏がシャングリラ会議で提示した5%という数字は、台湾政府の3%目標を上回るものであり、社会福祉削減と引き換えの軍備拡張に対する国民の懸念は根強い。

石破茂首相が「防衛費は自国で決めるべき」と主張したように、他国の要求に従う姿勢には限界がある。台湾においても、国防における真の選択が問われている。

総じて、米国の軍事的庇護に過度に依存し続けることは、台湾を「終わりなき戦い」へと導くリスクを孕んでおり、賴氏の「国防」講演は、そのジレンマに無意識のうちに触れてしまった可能性がある。スローガンの「団結必勝、侵略必敗」は、実際には社会の不安と脆弱性を反映しているのかもしれない。

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​編集:田中佳奈