数日にわたる激しい議論と徹夜の審議の末、米連邦上院は現地時間7月1日火曜日、51対50という僅差で、トランプ大統領が推進した大型税制・歳出法案(「ワン・ビッグ・ビューティフル・ビル法案」)を可決した。この決定的な一票は、副大統領J・D・ヴァンスが投じ、ようやく膠着状態を打破した。しかし、本法案は減税政策の延長、社会福祉の大幅削減、国防費の増額を目的としており、共和党内の深刻な分裂をさらに悪化させるとともに、米国をより深刻な政治的混乱と国債危機へと追い込むものである。
ロイター通信は、「ワン・ビッグ・ビューティフル・ビル法案」がトランプ大統領の第2期任期における重要な立法課題と位置付けられていると指摘している。本法案は、トランプ氏が2017年に署名した減税措置の恒久化を目指すとともに、チップや残業代に対する新たな税控除を盛り込んでいる。歳出面では、軍事費および国境の移民取り締まり予算を大幅に増額する内容である。しかし、その代償として、約9300億ドルに上る医療補助制度および低所得家庭向けの食糧支援計画が削減され、また前大統領バイデン政権下で推進された複数のグリーンエネルギー促進策が廃止されることになる。
非党派の議会予算局(CBO)の試算によれば、本法案は今後10年間で3兆3000億ドルの国家債務を増加させ、既に36兆2000億ドルに達している米国の国債残高をさらに悪化させる見込みである。
上院で深夜の攻防、共和党議員3名が反旗を翻す
この表決の過程は波乱に満ちていたと言える。共和党がわずかな多数で上院を掌握している状況下では、一票一票が極めて重要であった。最終的に、共和党の北カロライナ州選出トム・ティリス氏、メイン州選出スーザン・コリンズ氏、ケンタッキー州選出ランド・ポール氏の3人の上院議員が、全47名の民主党議員とともに反対票を投じ、J・D・ヴァンス副大統領が膠着を破る決定的な一票を投じざるを得なくなった。
「これはひどい過程だった」と、最後の瞬間に賛成に回ったアラスカ州選出リサ・マーカウスキー共和党上院議員は声明で述べている。「虚構の締切に追われて突き進む姿勢は、この機関のあらゆる限界を試すものだった」。マーカウスキー氏の態度転換は、法案にアラスカ州などへの追加食糧支援資金と、Medicaid削減の影響に対応するため地方病院支援の500億ドル条項が盛り込まれた後に起こったものである。彼女は賛成票を投じたものの、本法案には依然として疑念を抱いており、「本法案は両院間でさらなる協議が必要であり、大統領署名に向けてまだ準備が整っていない」と指摘している。
「これは財政責任ではない!」保守派と穏健派の内紛
本法案は現在、共和党が同様に僅差で多数を占める(220対212)下院へ送付されたが、その行方は予断を許さない。下院版の法案は5月にわずか2票差で辛うじて可決された経緯があり、今回の上院版はそれよりも8,000億ドル多い財政赤字を見込んでいることから、下院共和党内で強い反発を招いている。党内の対立は、この法案を通じて一層鮮明となった。
一方で、「下院フリーダム・コーカス(House Freedom Caucus)」を中心とする強硬保守派は、上院版法案の赤字規模が過大であり、政府支出の削減が不十分だと批判している。フリーダム・コーカス所属のチップ・ロイ議員は、「党内には上院版に強い懸念を抱く議員が相当数いる」と述べ、可決への道のりが困難であることを示唆している。
ニュース小辞典:医療補助計画(Medicaid)とは?
Medicaidはアメリカの連邦と州政府が共同で資金を提供する健康保険制度で、主に低所得の成人、子供、妊婦、高齢者、障害者に医療サービスを提供する。広範なカバー範囲と大きな予算規模を持つため、Medicaidの変更は数百万のアメリカ家庭と各州の財政に大きな影響を与え、しばしば党派間の争点となる。
一方で、低所得層が多く居住する選挙区を地盤とする穏健派の共和党議員からは、上院版法案におけるMedicaidの大幅削減に強い懸念の声が上がっている。彼らは、これが地域の病院経営や住民の健康に深刻な影響を及ぼすことを危惧している。北カロライナ州選出のトム・ティリス上院議員は反対を表明した際、この法案は「トランプ氏が有権者にした約束を裏切るものだ」と厳しく批判し、自身は次期選挙に出馬しない意向を表明した。この発言は、当該問題の政治的爆発力を如実に示すものである。
下院議長の苦境、トランプが自ら指揮
党内の分裂を前に、マイク・ジョンソン下院議長も難しい立場に追い込まれている。米政治メディア「ポリティコ(POLITICO)」の報道によれば、ジョンソン議長はかつて下院版法案の可決を得るため、穏健派議員に対し「上院ではMedicaidの削減が緩和される」と密かに約束していた。しかし実際には、上院版では削減幅がさらに拡大される結果となり、ジョンソン氏は党内の不満が高まる中、説明責任を問われている。
それでもなお、トランプ大統領はこの法案の成立に強い意欲を示しており、7月4日の米独立記念日前に署名することを目指している。ホワイトハウスの関係者によれば、トランプ氏は下院共和党議員への働きかけに「深く関与する」方針を固めているという。トランプ氏は火曜日、フロリダ州での集会で「これは素晴らしい法案で、すべての人が恩恵を受けることができる。下院でも順調に進むと確信している」と語った。
マスク氏と民主党の反発
米国メディアは、本法案の減税措置によって主に恩恵を受けるのは所得階層の最上位1%に属する富裕層であると指摘している。一方で、社会福祉の受給資格が厳格化されることで、低所得層の実質所得は減少し、食料や医療の負担が増大すると懸念されている。議会予算局(CBO)は、上院版法案によっておよそ1,200万人が健康保険を失うと予測している。
法案は党内からの圧力に加え、外部からの批判にもさらされている。トランプ氏と距離を置きつつあるイーロン・マスク氏は、同法案が財政赤字を制御不能にすると公然と批判し、来年の中間選挙で共和党議席に挑む候補者を支援する意向を表明したうえで、法案成立の翌日に新党「アメリカ党(American Party)」を立ち上げる構想まで示唆している。
民主党側も法案に対して強い非難の声を上げている。下院民主党のハキーム・ジェフリーズ院内総務は、「これは米国医療制度への史上最大の攻撃であり、栄養支援制度に対する最大規模の攻撃でもある」と激しく批判。上院民主党院内総務のチャック・シューマー氏も「この投票は議会の尊厳を汚した」と述べ、法案が「数百万のアメリカ人から医療を奪い、空腹な子どもたちの口から食べ物を奪うものだ」と糾弾した。