米国政府が、台湾積体電路製造(TSMC)などの半導体大手に対し、中国での半導体製造に関してこれまで認めていた例外措置を撤廃する方針であると、海外メディアが報じた。一部の報道では「影響は限定的」との見方も示されているが、この判断は当該措置がもたらす影響を過小評価している可能性がある。
米国メディアによると、米商務省で輸出管理を所管するジェフリー・ケスラー副長官は6月下旬、TSMC、サムスン電子、SKハイニックスの3社に対し、米国技術を用いた中国国内での製造に対する例外措置を撤回する方針を通達したという。早ければ今後数カ月以内にも実施される見通しである。アナリストの中には、韓国企業への影響は大きい一方で、TSMCは中国において先端製造プロセスを展開しておらず、影響は限定的であるとの見方もある。
現時点でこの政策は正式に発表されておらず、実際に実施されるかどうかは今後の動向を見守る必要がある。しかし、仮に正式に発表・実施された場合、産業や企業への個別の影響はさておき、米中間の不安定で脆弱な関係に対しては、確実に大きな打撃となる。
過去にも、米中間の関税交渉においては、ジュネーブでの合意後も関係改善には至らず、むしろ一層の緊張を招いた。米国が合意後に、ファーウェイのAIチップに対する第三国の使用禁止や、米国のEDA企業による中国向けサービスの提供禁止といった新たな制裁措置を講じたことが原因である。これに対し中国は、レアアースの輸出制限という対抗措置を採り、その後に行われたロンドン会談によって、ようやく一時的に対立が沈静化した経緯がある。
こうした背景を踏まえると、米国がこのタイミングで台湾・韓国の半導体大手に対し、中国国内での製造活動に制限を課し、米企業のサービス提供を禁じるとなれば、たとえ具体的な制裁対象や範囲が不明であっても、新たな制限の導入そのものが「停戦合意の破棄」と受け取られかねない。実施時点で米中間に正式な合意が存在するか否かにかかわらず、両国を再び報復と対立の連鎖に引き戻す可能性が高い。
産業および企業への影響も避けられない。韓国のサムスン電子およびSKハイニックスは、中国国内でのメモリー生産比率が高く、たとえばサムスンはNAND型フラッシュメモリの約20〜30%、DRAMの約40〜50%を中国で生産している。SKハイニックスも無錫工場で全体の約40%のDRAMを生産しており、両社は世界のメモリー市場を支える主要企業である。仮に米国が例外措置を撤廃し、生産の縮小や将来的な技術更新が困難となれば、供給不足や価格高騰が発生するのは避けられない。TSMCは中国における生産比率が低く、かつ成熟プロセスに限定されているものの、新たな制限の影響を受ければ、同様に業界全体にとって負の影響を及ぼすことは明らかである。
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台湾および韓国の半導体大手が中国で生産を続けられる例外措置は、バイデン政権が中国に対して先端半導体製造技術の輸出制限を導入した際、台韓両国からの反発を抑え、自国企業への影響を最小限にとどめる目的で設けられたものである。この特例により、台湾・韓国の半導体企業は中国国内での既存生産および設備のアップグレードを制限されることなく続けることが可能となっていた。
しかし今後、この「全面的な豁免措置」が撤廃されれば、台韓の半導体企業は中国における製造設備の導入やアップグレードに際し、米国製の半導体装置を使用・輸入するたびに、個別に米商務省の審査・許可を得る必要が生じる。
率直に言えば、これは台湾・韓国の半導体産業にとって、中国国内の工場の存続や稼働が米国政府の裁量に左右される構図を意味する。米国が許可を迅速に出せば生産は問題なく継続できるが、審査を意図的に遅延させれば、企業活動は容易に停滞しうる。これは、かつて中国が米国企業に対してレアアースの輸出許可を出さなかったケースと類似している。
ホワイトハウス高官は、「これは新たな貿易摩擦の激化ではなく、むしろ中国のレアアース管理体制と同様の許可制度を設けることで、相互主義と公平性を確保するものだ」と説明した。この発言には、いくつかの含意が見て取れ、注目に値する。
米中間のハイテク戦争は、事実上「レアアース」と「半導体」の二つの軸を中心に展開されている。中国は世界のレアアース生産の9割以上を握り、一方で米国は最先端の半導体技術および製造装置の多くを掌握している。いずれも、両国の経済および産業の中核を成す不可欠な要素である。
米国が中国に対し先端半導体の輸出を制限したことで、ファーウェイは甚大な打撃を受けた。一方、中国がレアアースの輸出を制限した際には、米国の自動車工場の生産が一時的に停止した。今後、米中の主導権争いは、これら重要資源に関する許認可や禁輸措置の駆け引きへと移行していくとみられる。ただし、状況は変化しつつある。中国は国家主導で半導体への巨額投資を行い、米国に依存しない体制構築を目指しており、欧米諸国も中国以外のレアアース供給源の確保に動いている。ある研究によれば、2040年までに中国のレアアース市場シェアは2割台にまで低下し、もはや支配的ではなくなる見通しだ。最終的には、レアアースや半導体における「依存の鎖」からいち早く脱却した側が優位に立つことになる。
また、米国が台湾および韓国の半導体企業に対する例外措置を撤廃しようとしている点は、米国が覇権確保や安全保障の観点から、企業の利益や損失を顧みずに政策を遂行し始めていることを示している。当初は企業への影響を和らげるために特例措置や調整期間が設けられていたが、現在ではそのような配慮はほとんど見られない。代表的な例がAI半導体分野で圧倒的シェアを持つNVIDIAである。同社は米国の対中禁輸措置によって55億ドルの損失を計上し、売上高も150億ドル減少した。禁輸がさらに拡大すれば、最大280億ドルの売上が失われる可能性があるという。
米政府はすでに「企業利益を損なわないよう配慮する」という段階を超えており、今や強硬策をためらわない姿勢を見せている。米中対立の渦中にある企業は、いかなる瞬間でもその矛先が自らに向けられる可能性を念頭に置くべきである。
最後に、米国の対中半導体規制が段階的に強化されている背景には、過去の制裁措置が期待したほどの効果を上げていないという現実がある。実際、ファーウェイの例を見ても明らかである。同社が開発したスマートフォン向けチップが7ナノメートル製造プロセスで製造されたとされ、米国の封鎖を突破したとの見方が広がっている。さらに、創業者の任正非氏は最近のインタビューで「米国に比べ世代的には遅れているが、チップを重ね合わせ、クラスター化することで最先端水準に匹敵する性能を実現できる」と述べており、AI分野での中国封じ込めは米国にとって容易ではないことを示唆している。