アメリカのトランプ大統領と通商代表のグリア氏は、中国が合意事項を履行していないとして強く非難し、トランプ氏は「もはや穏便には対応しない」と発言した。米財務長官のベッセント氏は1日、中国がレアアースの輸出を妨げていることが、米中協議が決裂寸前に追い込まれた主要な要因であると自ら明らかにした。
ベッセント(Scott Bessent)氏は1日、CBSの政治番組「Face the Nation」のインタビューで、中国が一部の既に合意したレアアースの放出を留保していることを認めた。「体制の問題であるか、あるいは中国が意図的に行っているのかもしれないが、これについてはトランプ大統領と習近平主席が話し合った後でなければ分からない」と述べた。しかし、ベッセント氏は米国が再び貿易戦争を再開するとは述べず、「トランプ大統領と習近平主席が近く通話することを信じている」と語った。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』が複数の関係者の話として報じたところによると、先月ジュネーブで米中が合意に達した際、中国はレアアースをはじめとする重要鉱物の輸出に関して一定の譲歩を行っていた。アメリカが貿易戦争における追加関税を90日間凍結することに同意したのも、中国がレアアースの輸出再開に応じたためだという。今回のジュネーブ合意は、米財務長官ベッセント氏と通商代表グリア(Jamieson Greer)氏、中国側の首席交渉官である国務院副総理・何立峰氏が、マラソンのような協議を重ねた末、最終局面で一致を見たものだった。
合意の発効後、双方は大部分の追加関税を一時停止し、これに対して世界の投資家や企業からは歓迎の声が上がった。ところが、協定の署名後も中国側は、自動車や半導体チップなどの製造に必要なレアアースおよび関連元素の輸出許可をなかなか承認せず、これが米側の不満を招いた。このためトランプ氏は先週、「中国は合意を完全に破った」と不満をあらわにし、グリア通商代表も中国側の履行の遅れを公然と批判。特にレアアース輸出の停滞が最大の問題点だと名指しした。
関係者によると、アメリカ商務省が5月12日、世界各国に対してファーウェイ(HUAWEI)のAIチップ「Ascend」の使用禁止を警告したことを受けて、中国の何立峰副首相はレアアース輸出に関する合意の履行に慎重な姿勢を見せるようになった。北京はこの米側の動きを新たな挑発と受け止め、ワシントンに対して強い不満を表明した。米政府関係者は、この措置は既存政策の再確認にすぎないと説明したものの、中国側を納得させるには至らず、輸出許可の審査は引き続き滞っている。『ウォール・ストリート・ジャーナル』は、ジュネーブ協議が破綻寸前に追い込まれる中、米中双方が関税以外の手段を交渉のカードとして用いようとしていたと伝えている。
現在、米中間のレアアースをめぐる膠着状態は、まずアメリカの自動車業界に深刻な影響を及ぼしている。複数の自動車メーカーがすでに米政府に対し、中国がレアアースの輸出許可をなかなか発給しないことが、自動車部品の供給網の寸断につながりかねないと懸念を伝えている。一部の企業はホワイトハウスに対し、中国側の審査が進まなければ、パンデミック期と同様に工場が再び操業停止に追い込まれる恐れがあると警告している。中国が貿易合意を履行していないことへの対抗措置として、米政府も引き続き中国のハイテク製品に対する輸出規制を強化。これには、中国の商用旅客機「C919」の製造に必要な製品や、中国設計の半導体チップに使われるソフトウェアなども含まれている。
先週、アメリカは在米中国人学生のビザを大規模に取り消すと発表し、両国間の緊張が一段と高まった。中国外交部はこの措置を「政治的かつ差別的な行為」と批判している。北京は、一連の動きはトランプ政権が対中交渉圧力を強化する戦略の一環とみなしており、中国側は依然として米国側の同等の担当者と対話を続ける意向を示しているものの、現時点では双方に譲歩の兆しは見られていない。また、中国共産党中央委員会の権威ある機関誌『求是』も先週、アメリカが交渉の場を離れつつ中国の半導体産業への圧力を強めている状況を批評。貿易問題の解決が一朝一夕にはいかないことを示唆し、両国間の膠着状態が短期間で打開される可能性は低いとの見方を示した。 (関連記事: 半導体サプライチェーン2》ゴールドマン・サックスからマッコーリーまで 米中対立下での台湾投資戦略を法人評価で一文解説 | 関連記事をもっと読む )
編集:柄澤南
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