米紙の台湾総統取材で中国が記者追放、米政権は新華社ビザ取消の対抗措置
2026年5月20日、北京で会談する中国国家主席・習近平氏とロシア大統領・ウラジーミル・プーチン氏(写真/AP通信提供)
米中関係は米中首脳会談の前後で明らかな冷え込みを見せているが、報道の自由と台湾問題というレッドラインを巡り、両国間の駆け引きは依然として激しさを増している。中国政府は今年2月、米紙ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)の北京駐在記者であるビビアン・ワン(王月眉)氏を予告なしに追放した。その理由は、同紙が昨年12月に開催したフォーラムにおいて、台湾総統・頼清徳氏のオンライン単独インタビューを実施したことにあった。これに対し、米大統領・トランプ(Donald Trump)氏の政権は、米国で勤務する国営通信社・新華社の中国人従業員1名の査証(ビザ)を取り消すという、異例の報復措置に踏み切った。
頼氏のフォーラム登壇、無関係の北京駐在記者が追放の標的に
本件の発端は昨年末に遡る。ニューヨーク・タイムズが主催した「ディールブック・サミット2025(DealBook Summit 2025)」において、司会を務めるアンドリュー・ロス・ソーキン(Andrew Ross Sorkin)氏がオンライン形式で頼氏の単独インタビューを行った。対談の中でソーキン氏が台湾を明確に「国家」と呼んだほか、頼氏も台湾海峡における中国政府の挑発行為に警鐘を鳴らし、「台湾は自国を守るため、あらゆる必要な努力を尽くす」と明言した。
この一般的な国際ニュースのインタビューは、結果として中国政府の逆鱗に触れることとなった。中国当局は、当該報道に関与していない北京駐在記者のワン氏に矛先を向け、今年2月に事実上の国外退去を命じた。ニューヨーク・タイムズによると、中国当局は以前からワン氏の報道姿勢、とりわけ中国の検閲制度、新型コロナウイルスへの対応、そして国家監視体制の拡大といった極めて敏感なテーマに関する深掘り取材に強い不満を抱いていたという。
この決定を受け、ニューヨーク・タイムズの編集長であるジョセフ・カーン(Joseph Kahn)氏は公式サイトで強い抗議声明を発表した。「中国政府がワン氏を追放した決定は誤りである。彼女の退去により、世界第2位の経済大国に関する正確かつ独立した深い報道を、この極めて重要な時期に世界の読者へ届けることが一段と困難になる」と指摘。さらにカーン氏は、米国の報道機関に所属する記者が中国で生活し、取材活動を行う余地が「急激に縮小」している現状を如実に示していると非難した。
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トランプ政権が異例の介入、新華社への「対等な報復」措置
中国政府の強硬な措置に対し、トランプ政権は今回、沈黙を選択しなかった。米通信社・AP通信および米経済情報機関・ブルームバーグ(Bloomberg)の報道によると、匿名の情報筋と米国務省当局者が事実関係を認め、トランプ政権がニューヨーク・タイムズ記者の追放に対する報復措置として、米国で勤務する新華社の中国人従業員1名の査証を取り消したことが明らかになった。
中国による米紙記者の追放に対し、米政府が直接的な報復行動に出るのは近年では極めて異例である。米中関係の悪化に伴い、米国務省は2020年に中国の主要な報道機関の一部を「外国使節団」に指定し、新華社などを中国共産党および中国政府の代弁機関であると認定した経緯がある。一方の中国政府も当時、米国メディア記者の査証発給を大幅に制限し、その結果、2020年上半期には米紙ワシントン・ポスト(The Washington Post)、ニューヨーク・タイムズ、ウォール・ストリート・ジャーナル(The Wall Street Journal)などの外国人記者少なくとも18名が事実上の国外退去処分を受けた。
その後、米中両国は米国メディアが少数の記者を中国本土へ派遣することを認める一時的な合意に達した(ワン氏もその一人であった)。しかし現在、この脆弱な合意は再び試練に直面している。特筆すべき点として、ニューヨーク・タイムズは米政府に対し、いかなるメディアの査証取り消しや記者の活動への介入も要求していないと強調したうえで、両国政府に対して「記者の取材権限が悪化している現状を改善する」よう求めている。
中国政府が引いた「最大限の圧力」という新たなレッドライン
ワン氏追放事件の背後には、台湾を孤立させるために中国政府が取る「最大限の圧力」の手法が浮き彫りとなっている。長年にわたり、中国国家主席・習近平氏は外国政府と台湾の公的な外交接触に強く反対してきた一方、台湾の指導者が国際メディアの取材に応じることについては、概ね容認する姿勢を示していた。しかし今回、ニューヨーク・タイムズによる頼氏のインタビューが同紙記者の追放を招いたことは、中国政府が新たなレッドラインを設定したことを示唆している。すなわち、「台湾独立分裂分子」と位置づける頼氏の発信を徹底的に封じ込めようとする意図が透けて見える。
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こうした圧力はメディアに対するものに留まらず、外交および軍事の領域にも拡大している。今年に入り、中国はインド洋の3カ国に対して頼氏の専用機が領空を通過することを拒否するよう異例の要求を行い、同氏の国交樹立国・エスワティニ(Eswatini)への訪問阻止を図った。最終的に頼氏は、エスワティニ国王・ムスワティ3世(King Mswati III)のプライベートジェットに搭乗することで訪問を実現させた。さらに、これに先立って北京で開催された米中首脳会談において、習氏はトランプ氏に対し、「台湾問題が適切に処理されなければ、米中両国は衝突、あるいは交戦に至る可能性がある」と直接警告した。トランプ氏は台湾に対する140億ドル規模の武器売却案を一時凍結し、これを交渉カードとして扱う姿勢を見せている。また、「シャングリラ・会合(アジア安全保障会議、Shangri-La Dialogue)」の開幕演説において、出席した米国防長官・ピート・ヘグセス(Pete Hegseth)氏も台湾について一切言及しなかった。
報道の自由が交渉カードに、一段と狭まる外国メディアの活動空間
ニューヨーク・タイムズが直面した事態は、中国に駐在する他の欧米メディアの間にも疑心暗鬼を巻き起こしている。中国では、すべての外国人記者が報道活動を行う際、中国外務省(外交部)の認証を義務付けられているためだ。中国政府は過去にも査証政策を武器として頻繁に活用し、自らの意に沿わない外国人記者を排除してきた。ニューヨーク・タイムズやウォール・ストリート・ジャーナルなどの主要紙も、「中国政府を不快にさせる」報道や論評を掲載したことを理由に、駐在記者が就労査証の更新を拒否され、国外退去を余儀なくされた前例がある。
今日、外国人記者が中国で直面する環境はさらに過酷さを増している。記者が自ら中国政府の不興を買う記事を執筆しなくとも、所属するメディアが台湾総統に取材するだけで、中国における取材権限を失うリスクに直面する。駐華外国記者協会(Foreign Correspondents' Club of China, FCCC)は今年4月に発表した声明で、台湾問題には直接言及しなかったものの、短時間の身柄拘束、査証の取り消し、取材対象者への脅迫など、今年2月以降に中国政府が行ってきた「報道の自由に対する一連の攻撃」を強く非難した。
ニューヨーク・タイムズのカーン氏が指摘した通り、「全世界がこれまで以上に中国を理解する必要に迫られている現在、中国での取材を許可された米国メディアの記者数は、憂慮すべき低水準にまで減少している」のが実情である。米中間の大国間競争が報道の自由を交渉カードとして弄ぶなか、そのしわ寄せを最終的に受けるのは真実を知ることを渇望する世界の読者であり、台湾の外交空間と国際舞台におけるプレゼンスも一段と縮小を余儀なくされている。
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