日本には「高等専門学校(高専)」と呼ばれる独自の教育機関がある。15歳で入学して5年間の教育を受け、20歳前後で卒業する。1年次から実習が組み込まれ、電子、機械、化学、情報など、徹底した実践的な技術教育が行われている。日本の製造業は数十年にわたり、この高専出身者が支える生産現場の強固な基礎技術に依存してきた。
(注:求人倍率とは、就職市場における需給バランスを示す指標であり、数値が1を超えるほど企業間の人材獲得競争が激しいことを意味する。)
2026年3月卒の大卒求人倍率は1.66倍と見込まれている。だが同時期における高専生の求人倍率は20倍を超えている。つまり、1人の高専生に対して20社以上の企業が競合している計算だ。この大きな落差は、TSMCの九州進出を契機として、日本の製造業全体が「手を動かせるエンジニア」の争奪戦に一斉に乗り出した結果にほかならない。
JASMが採用した高専生は100人、全従業員の4%の重み
TSMCの熊本工場を運営するJASM(Japan Advanced Semiconductor Manufacturing)は、早くも2022年から九州各地の高専のキャリアセンターを巡回してきた。現場の管理職を直接キャンパスに派遣して授業を行い、実際の生産現場を体験させる工場インターンシップも導入している。JASMで人事部門を統括する池山一誠氏は、『日経ビジネス』の取材に対し、高専生の強みは「チームワーク」「論理的思考力」、そして何より「製造現場での実践的な感覚」にあると語っている。
こうした採用戦略の結果、JASMは現在までに約100名の高専卒人材を雇用しており、これは全従業員の約4%を占める。4%という数字は一見すると小さく映るかもしれない。しかし、日本企業にこの「人材パイプライン」の価値を再認識させるには十分なインパクトを持っていた。
高専のコンテストから生まれた企業評価額「7億円」
高専生の潜在能力は、もはや工場技術員という枠組みにとどまらない。2025年5月の「全国高等専門学校ディープラーニングコンテスト2025(DCON)」では、豊田工業高等専門学校のチーム「NAGARA」が、介護施設の人手不足解消を狙ったシステム「ながらかいご」を披露した。これは介護職員が手首に装着するウェアラブルデバイスで、マイクを通じてケア中の会話をリアルタイムで取得し、介護記録を自動生成するというものだ。審査員はこのシステムに企業評価額7億円という評価を下し、同チームは優勝を果たした。2025年7月1日、NAGARAは正式に法人化し、事業運営をスタートさせた。
15歳から実践的に手を動かしてきた高専生たちは、ビジネスの現場で実装可能なAIシステムまで開発するに至っている。 (関連記事: 【張瀞文コラム】ファーウェイが半導体の新法則発表、ムーアの法則から脱却へ TSMC元幹部の予想が現実に | 関連記事をもっと読む )
TSMCの初任給29万円と、大卒との「給与逆転」に踏み切った老舗商社
これまで、日本の伝統的な学歴重視の給与制度は、高専生に対して生涯にわたるコストを強いてきた。大卒より2年早く社会に出るにもかかわらず、労働政策研究・研修機構の試算によれば、高専卒の生涯総賃金は大卒者より約3,600万〜4,000万円低い傾向にあることが示されている(注:退職金含む)。

















































