国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)のクリスチャン・ソンダース事務局長代理は2026年5月22日、日本記者クラブで記者会見を行い、パレスチナ自治区ガザなどにおける深刻な人道危機とUNRWAが直面する財務状況について説明した。35年以上にわたり人道支援に携わり、今年3月のフィリップ・ラザリーニ前事務局長の退任を受けて4月に現職へ就任したソンダース氏は、国連の年次総会への出席と日本政府との協議のために来日した。同氏は、国連加盟前から73年間にわたり、万人の平等な権利を重んじる信条のもとでパレスチナ支援を続ける日本の姿勢に深い感謝の意を表明した。
ガザで深まる人道危機、活動制限下でも医療・教育支援を継続
現在、UNRWAを取り巻く環境は極めて厳しくなっている。イスラエル政府は2025年1月に国内でのUNRWAの活動を禁止する法律を施行した。さらに2026年1月には東エルサレムにあったUNRWA本部施設を破壊・解体し、同敷地に軍事施設を建設する計画を承認した。ソンダース氏はこれを国連の特権と免除に対する重大な違反であると指摘した。ガザ地区ではイスラエルが50パーセント以上の地域を占領・管理しており、住民の多くがテントや破壊された危険な建物での生活を余儀なくされている。清潔な飲料水や電気、ガスが不足し、ネズミ駆除剤や発電機用の燃料など軍民両用とされる物資の搬入も制限されている。
このような極限状況下でも、UNRWAはガザ、ヨルダン川西岸、レバノン、シリア、ヨルダンにおいて、政府や自治体が担うべき教育、保健、上下水道などの基本的な公共サービスを提供し続けている。ガザ地区では提供されるプライマリーヘルスケアの40パーセントをUNRWAが担い、1300人以上の医療スタッフが毎日1万2000件以上の医療相談に対応している。教育面では28万人以上の子どもが遠隔学習を受け、7万人が教室での対面授業に復帰した。公衆衛生の分野でも約150万人に清潔な水を提供し、4月の2週間だけで7000トンの固形廃棄物を処理した。西岸地区でも毎月7万件の医療相談を行い、4万8000人の子どもが学校に通っている。シリアではパレスチナ難民の90パーセントが貧困線以下の生活を送っており、周辺国を含めた広範な支援が継続されている。イスラエルとの直接的な協力は現在の法律下では不可能となっているが、UNRWA側はサービス提供のための調整には開かれた姿勢を保っているという。
資金不足と偽情報に直面、日本に追加支援と外交的関与を要請
一方で、UNRWAは極めて深刻な財政難に直面している。収入は15年前の水準まで落ち込み、サービスの実行時間を20パーセント削減し、現地職員の給与を削減するなどの緊縮財政を強いられている。2026年には1億ドル(約160億円)を超える資金不足が見込まれている。さらに、UNRWAの信用を失墜させるための偽情報キャンペーンが組織的に行われているとソンダース氏は指摘した。パレスチナ難民の帰還の権利を定めた国連決議194号と、UNRWAの設立を定めた決議302号を意図的に混同させ、UNRWAへの資金提供を停止するよう各国の政治家に働きかける動きがあるという。ソンダース氏は、2000年代のイラクにおける公務員排除(脱バース党化)がもたらした混乱を引き合いに出し、医師や教師など約3万人のパレスチナ人スタッフは将来のパレスチナ国家の公務員の中核となる人材であり、彼らを排除してはならないと強調した。
UNRWAは組織の中立性確保にも全力を挙げている。カトリーヌ・コロナ氏による独立レビューの勧告50項目のうち、すでに80パーセントにあたる40項目を完了し、2026年末までに残り5項目を完了する予定である。教育面では昨年だけで570冊、7万ページに及ぶ教科書の見直しを行い、問題が特定された1.37パーセントの記述に対して優先的に対処した。職員の行動規範についても、国連の制裁リストに基づく年2回のスクリーニングを実施し、中立性に関する対面トレーニングを3000人以上、オンライン研修を1万人以上の職員が修了している。違反があった場合は厳格な懲戒措置をとる方針を徹底している。
会見の最後にソンダース氏は、パレスチナの状況を変えるためには和平プロセスの加速が不可欠であると訴えた。その上で日本に対し、約1億ドルの資金不足を補うための追加拠出に加え、国際協力機構(JICA)などと連携した人道・復興支援、そして国際社会で高く評価されている日本の外交力を活かした和平プロセスへの積極的な関与を強く要請した。
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編集:小田菜々香















































