【論評】トランプ氏の「半導体泥棒」発言に台湾はなぜ沈黙するのか 2026年5月26日、米国のトランプ大統領が「台湾は米国の半導体を盗んだ」と繰り返し主張する中、台湾の卓栄泰行政院長は「これは国際政治の現実だ」と述べるにとどまり、自らの立場を低くして反論を避けている。(写真/AP通信提供)
トランプ米大統領が「台湾は米国の半導体を盗んだ」と繰り返し主張していることに対し、台湾の行政院長・卓栄泰氏は「それが国際政治の現実だ」と述べるにとどまり、反論を控えている。米国が自ら半導体の種を売り、台湾が半世紀をかけてそれを育て上げたのが歴史的経緯である。台湾と米国はパートナー関係にあり、半導体を「盗んだ」事実はないにもかかわらず、台湾総統・頼清徳氏の政権はなぜ沈黙を続けるのか。トランプ氏の「認知戦(情報操作)」に対する無抵抗な姿勢は、いつまで続くのだろうか。
取引の技術を盾に台湾を食い物にする姿勢 トランプ氏は台湾に関して、主に3つの点を頻繁に口にする。第1に「台湾は裕福であり、保護費を支払うべきだ」、第2に「台湾は米国の半導体産業を盗んだ」、そして第3に「米国から遠く離れており、手が届かない」という主張だ。これらは「米国第一主義(MAGA)」に基づく取引型思考を鮮明に反映している。同氏は台湾への武器売却契約を「交渉のカード」と呼び、頼氏に言及する際も「総統」とは呼ばず、「台湾を統治する人物」と表現している。そして最近になり、再び「台湾による半導体窃盗」を強調し始めた。
トランプ氏が台湾を泥棒呼ばわりする根拠はどこにあるのか。台湾の半導体大手、聯華電子(UMC)の創業者である曹興誠氏は、「台湾政府や台湾積体電路製造(TSMC)がこれまで一切の釈明をしていないのは、極めて深刻な職務怠慢だ」と痛烈に批判した。これに対し、卓氏は「国際政治の現実だ」と発言。外交部長・林佳龍氏は立法委員(国会議員)からの厳しい追及を受け、最終的にトランプ氏の発言は「不公平であり、事実に反する」と述べるにとどまった。さらに、立法委員が米国の主要紙に抗議広告を掲載するよう求めた際、外交部北米司は「対米広報予算が削減されており、広告を出す資金がない」と回答している。
「国際政治の現実」とは、当事者意識のない、及び腰の発言である。頼政権は中国に対しては強硬姿勢を貫く一方で、米国に直面すると途端に軟化する。政府高官が表立って強力に反論し、事実関係を正さなければ、「トランプ流の嘘」を甘んじて受け入れ濡れ衣を着せられることになる。やがて嘘も真実として定着し、事情を知らない多くの欧米諸国や、さらには台湾市民までもが、台湾が本当に半導体を盗んだと誤解することになりかねない。
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2026年5月26日、米国のトランプ大統領が「台湾は米国の半導体を盗んだ」と繰り返し主張する中、台湾の卓栄泰行政院長は「これは国際政治の現実だ」と述べるにとどまった。(写真/中央社提供)
覇権衰退と感情的恫喝 台湾のドキュメンタリー映画『造山者――世紀の賭け』が示すように、1976年当時の台湾は依然として農業社会であったが、台湾の工業技術研究院(工研院)は米国のRCA社と10年間の技術移転契約を締結した。台湾は技術移転費とライセンス料を含む350万米ドルを支払い、若手エンジニアを米国に派遣して技術を学ばせた。当時の台湾にとってこの金額は天文学的であり、まさに国家の命運を賭けた世紀の大勝負であった。台湾は半導体を盗んだのではなく、米国が自ら提供した種を正当に購入し、半世紀をかけてそれを育て上げたのが真実である。
その後、台湾は「ファウンドリ(半導体受託製造)」という新たなビジネスモデルを確立し、顧客と競合しないという戦略的イノベーションによって市場の空白を埋めることに専念した。この信頼に足るパートナーシップがあったからこそ、アップル(Apple)、エヌビディア(NVIDIA)、アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD) 、クアルコム(Qualcomm)といった米国企業は急成長を遂げ、世界を席巻することができた。台湾は米国の雇用を奪ったのではなく、米国の巨大IT企業が世界トップの地位を維持するための基盤を築いたのである。
強固な実力を持つ台湾、自らを縛るべきではない 現在の世界経済を俯瞰すれば、台湾の存在感は極めて大きく、決して自らを過小評価する必要はない。第一に、米商務省の最新データによると、米国の台湾からの輸入総額が初めて中国を上回った。この変化は、トランプ政権が推進した関税政策による貿易フローの変化と、世界的なAIブームに伴うハイテク製品への旺盛な需要が主な要因である。台湾の対米輸出の急増は、AI関連企業による半導体やサーバー供給の大規模な拡大を反映しており、台湾の経済規模は約1兆米ドルに迫り、世界で最も成長著しい経済体の一つとなっている。
第二に、台湾の株式時価総額がインドを抜き、世界第5位の株式市場に躍り出た点だ。これは主に、世界最大のファウンドリであるTSMCの驚異的な株価上昇に牽引された結果である。台湾市場の時価総額は4兆9500億米ドルに達し、インド市場の4兆9200億米ドルを上回り、米国、中国、日本、香港に次ぐ世界第5位の市場へと成長した。
台湾の人々にとって到底理解し難いのは、TSMCをはじめとするサプライチェーンが米国へ大規模な投資を行っているにもかかわらず、トランプ氏から泥棒呼ばわりされ、それが米ワシントン政界において共通の認識となりつつあることだろう。「台湾が半導体産業を盗んだ」という言説が米国で浸透し続ければ、最終的に多くの米国民の間で既成事実として定着し、対台湾政策にまで影響を及ぼしかねない。そうなれば、後から釈明してもその認識を覆すことは極めて困難になる。
2025年3月、トランプ米大統領はホワイトハウスで、TSMCの魏哲家董事長の同席のもと、TSMCが米国で1000億ドル規模の追加投資を行うと発表した。(写真/ホワイトハウス公式サイトより)
トランプ氏の虚偽を暴き、台湾の活路を開く 嘘も千回言えば真実になる。「台湾が米国の半導体の雇用を奪った」という主張が繰り返されれば、単なるデマから共通認識へと変化し、ひいては政策に影響を与える可能性が高い。台湾にとってこれは、将来的な圧力が中国共産党の軍事的脅威からだけでなく、サプライチェーンの主導権を巡る米国の強硬な介入からももたらされる可能性を意味している。
元米国家安全保障担当高官の一部からは、台湾が米国の半導体産業を「盗んだ」かどうかでトランプ氏と論争するよりも、次世代半導体の超大国を目指す米国を台湾が支援する姿勢を強調すべきだとの提言が出ている。しかし現実には、事実関係を明確にすることと、米国の半導体産業の発展を支援することは両輪で進めることが可能であり、決して相反するものではない。
米政府が経済安全保障を理由に最先端の製造拠点を米国本土へ移転するよう台湾に求め、「シリコンの盾」が徐々に薄れつつあるなか、トランプ氏は台湾を略奪者として貶めている。台湾をまるで使い捨ての消耗品のように扱い、片方の手でサプライチェーンの安全を奪いながら、もう片方の手で泥棒のレッテルを貼るような振る舞いは、台湾国民の感情を深く傷つけるものである。
トランプ氏による「半導体泥棒」という非難は、単なる失言ではなく、同盟国を中傷し歴史を歪曲する重大な道義的告発である。台湾は米国の一般社会に対して、「台湾は何も盗んでおらず、半導体技術は合法的かつ正当に購入したものだ」という歴史的事実を明確に発信しなければならない。そして、トランプ氏がこれ以上デマを拡散し、認知戦を継続することを断じて許してはならないのである。
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