国民党・鄭麗文氏の訪米に暗雲、親韓派華僑の反発招く波乱の様相 訪米日程の開始を控える国民党主席・鄭麗文氏。(写真/陳品佑氏撮影)
台湾の最大野党・中国国民党(以下、国民党)主席・鄭麗文氏が4月8日、中国大陸を訪問した。国民党トップによる訪中は過去10年間で初となる。10日には北京で中国共産党総書記・習近平氏と正式に会談(以下、鄭・習会談)し、両者は13秒間にわたり握手を交わした。鄭氏は、戦争を回避するための「制度的な解決策」を模索すると表明し、台湾海峡を「外部勢力が介入する」チェス盤にはさせないと強調した。鄭氏の台湾帰任後、「鄭・習会談」の成功を受け、党内における同氏の求心力は高まりを見せている。
これに続き、鄭氏は6月1日から2週間の日程で米国を訪問する予定だ。しかし、出発前から物議を醸している。台湾メディア『風傳媒』の過去の報道によると、鄭氏は「鄭・習会談」で北京を宥めたとし、さらに米国でワシントンを納得させれば「選挙戦を有利に進められる」と発言したとされる。また、国民党中央が訪米日程において現地華僑からの接待(費用負担)を求めているとの報道や、同党の華僑向け夕食会に台湾系だけでなく中国大陸系の華僑も歓迎するとの噂が浮上。これに対し、台湾の僑務委員会委員長・徐佳青氏は「極めて異例だ」と疑問を呈した。一方、『風傳媒』の取材では、先日、国民党副主席・季麟連氏が武器調達案を巡り立法院長(国会議長に相当)・韓国瑜氏を痛烈に批判したことで、華僑社会における鄭氏の訪米に対する熱烈な歓迎ムードに根本的な変化が生じていることが明らかになった。
鄭麗文氏(左)は中国国家主席・習近平氏(右)と北京で「鄭・習会談」を行い、その後訪米を予定している。(写真/中央社提供)
米国華僑コミュニティと台湾との「温度差」 季麟連氏の騒動が尾を引く 関係者によると、「鄭・習会談」後、国民党中央は現地の華僑や華僑コミュニティとの折衝を進めてきた。当初、米国の華僑社会は鄭氏を強力に支持しており、その熱量は今年3月に訪米した台中市長・盧秀燕氏を遥かに凌ぐと伝えられていた。ある華僑は「過去数代の国民党トップは中国大陸と対話する勇気を持たなかったが、鄭氏だけが習氏と面会する勇気を示した。さらに、面会後も与党・民進党が宣伝するような国民党のイメージ悪化や選挙への悪影響は生じておらず、両岸(中台)の平和はやはり国民党に頼るべきだと証明された」と強調した。また、鄭氏の次期総統選出馬を支持し、今回の訪米をかつて韓氏が総統選に出馬した際と同様の厚遇で迎えると宣言する華僑もいたという。
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しかし、季氏が韓氏を批判し、党籍剥奪をチラつかせたことで、この圧倒的な勢いに変化が生じた。華僑関係者は、台湾国内ではこの騒動はすでに「過去のこと」かもしれないが、米国の華僑社会は台湾ほど情報が迅速に伝わらないため、5月中旬になってようやく強い反応が表れ始めたと指摘する。同関係者によれば、現在も鄭氏を支持する層は存在するものの、かつて「韓流」ブームを巻き起こして高雄市長選を制し、総統候補にもなった韓氏を熱烈に支持する「韓粉(韓国瑜ファン)」と呼ばれる層も確実に存在している。華僑社会に分断が生じる中、鄭氏の訪米が現地で得られるはずだった勢いは大きく削がれる可能性が高い。
4月29日、国民党副主席・季麟連氏(右)が武器調達案を巡り韓国瑜氏の党籍剥奪を示唆。この騒動は米国の華僑社会でも波紋を広げている。(写真/蔡親傑撮影)
節約重視の朱立倫氏、江啓臣氏に対し 鄭氏の訪米は異例の大規模・長期化 一方、党トップの外遊事情に詳しい関係者によると、下野後の国民党は各種資金が逼迫している。外遊は不可欠とはいえ多額の費用がかかるため、歴代トップの多くは可能な限り経費削減に努めてきた。例えば、親米派として知られる国民党元主席・江啓臣氏や国民党元主席・朱立倫氏の場合、江氏は1日に2都市を飛び回り、機内で睡眠を取って宿泊費すら節約したと自負していた。また、朱氏の訪問団も規模が非常に小さく、目立たないよう配慮したことに加え、経費削減が大きな理由であった。これに対し、鄭氏の今回の訪米は14人規模で予定されており、下野後の国民党トップとしては過去最大規模と言える。
ただし、鄭氏を擁護する華僑関係者の声もある。今回浮上した「現地での接待要求」という噂については、双方のコミュニケーション不足による誤解に過ぎないという。これまでも外遊の際には華僑コミュニティで夕食会を開き、併せて党への寄付を募るのが通例であり、華僑側は1〜2食分の費用を負担する可能性があるものの、交通費や宿泊費はすべて国民党が自費で賄ってきた。寄付金が集まれば当然「全額接待」という問題は生じないため、一連の騒動は新トップ陣営の経験不足による単なる行き違いと見られている。
訪米日程については、米国政界に詳しい国民党関係者によると、鄭氏はニューヨーク、ボストン、サンフランシスコ、ロサンゼルス、テキサス州の各都市を歴訪し、ハーバード大学およびマサチューセッツ工科大学(MIT)での講演も予定しているという。ただし、誰が招待し、どこで主催するかについては最終調整待ちの段階だ。さらに、6月の訪米はすでに夏休み期間に入るため、そもそも米国に留学している台湾の学生数は中国大陸の学生よりも少ない上、夏休みで帰郷する学生も多い。そのため、鄭氏の講演会場では台湾人学生よりも中国人留学生の方が多くなる事態も予想される。
国民党歴代トップの訪米は、経費削減を重視するケースが多かった。写真は2022年に訪米団を率いた国民党元主席・朱立倫氏。(写真/国民党提供)
米高官との面会なるか 軍事費巡り駐米代表が一時苦戦も さらに同関係者は、米政府機関との接触について、鄭氏は戦略国際問題研究所(CSIS)で講演を行うほか、ワシントンでは米国在台協会(AIT)を訪問する見通しだと明らかにした。当初はテキサス州訪問時に同州知事との面会も希望していたが、現時点で調整に進展は見られず、鄭氏と米行政部門との接触レベルは想定を下回る恐れがある。
一方で、米連邦議会の上下両院議員との面会については、一定の成果が上がっている模様だ。台湾の武器調達案が難航していた時期、国民党は「正式なオファーレター(発効済みの契約書)がある3800億台湾元の軍事予算案のみ承認する」との姿勢を固めていた。このため、選挙区の圧力を受ける多くの米上下両院議員が、国民党駐米代表・秦日新氏に不満を表明し、一時は鄭氏の訪米に向けた調整が難航していた。しかし、最終的に国民党が7700億台湾元の予算案を承認したことで、少なくとも米議会側は同党に対する姿勢を軟化させたとされる。これにより、鄭氏の6月の訪米では多くの米上下両院議員との面会が実現する見通しだ。
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