【北京観察】国民党・鄭麗文主席の動画が中国アプリで500万再生、対台湾世論戦の実態

習近平国家主席との会談を終えて台湾に戻った国民党の鄭麗文主席。台湾の政治番組で中国側との友好的な交流について語った(資料写真、AP通信)
習近平国家主席との会談を終えて台湾に戻った国民党の鄭麗文主席。台湾の政治番組で中国側との友好的な交流について語った(資料写真、AP通信)

中国のSNS上で、台湾の野党政治家の発言を切り取ったショート動画が拡散している。中国の官製メディアが台湾人の肉声を用いて親近感を演出し、対台湾世論工作に活用している実態が浮き彫りになった。

4月中旬、中国への訪問を終えて台湾に戻った最大野党・国民党の鄭麗文氏が、台湾のラジオ番組に出演し、習近平中国国家主席と面会した際のやり取りを明らかにした。鄭氏は、習氏が「両岸(中台)は一つの家族」と強調し、台湾の若者の就業問題に関心を示したと紹介。会見は「善意と実務的な姿勢」に満ちていたと語った。

この番組での発言は、中国の官製メディアによって即座にショート動画に編集され、中国の動画投稿アプリ「TikTok」などで拡散された。数日のうちに500万回以上の反応を獲得し、注目を集めている。中国側は自国の公式見解に頼るだけでなく、台湾の政治家の肉声をそのまま用いることで宣伝効果を高めようとしているとみられ、近年こうした手法が目立っている。

鄭氏が番組で明かした習主席の言葉

鄭氏は番組内で、習氏が「国共両党は政治的相互信頼を固め、祖国統一の素晴らしい未来を共に創るべきだ」と改めて表明したと説明した。また、習氏が「台湾の民衆の困難は我々の困難であり、両岸が一つの家族だというのは空論ではない」と述べたことを明らかにした。さらに鄭氏は、与党・民進党政権の対中政策が「台湾の2300万人を危険な瀬戸際に追いやっている」と批判し、イデオロギーを捨てて平和的な交流と対話に回帰すべきだと主張した。

こうした発言は、中国中央テレビ(CCTV)や中国新聞社などによって切り取られ、「台湾の国民党主席が暴露:習主席はこのように台湾を気に掛けている」といった字幕を付けた動画として配信された。中国のネット上では、鄭氏の発言に対し「論理的で真実を語っている」と称賛するコメントが相次いだ。一部の動画には穏やかなBGMが付けられ、公式な政治宣伝色を薄めた「温かい物語」として演出されている。

台湾政治家の発言を活用する中国メディア

台湾の政治家の動向が中国のSNSで注目される事例はほかにもある。蔣萬安・台北市長が給食費の無償化計画を発表した際、関連する動画が抖音で1000万回以上の「いいね」を獲得した。コメント欄には蔣氏の行政手腕などを評価する声が寄せられ、幅広い年代の関心を集めている。

今年第1四半期(1〜3月)、抖音上で配信された台湾関連の官製メディア動画の数は、前年同期に比べて大幅に増加した。これらの動画は中国内で拡散された後、再編集されて台湾側のフェイスブックやユーチューブなどにも流入している。中国側は民進党政権の政策への不信感を煽り、「防衛費に資金を投じるよりも直接平和を話し合うべきだ」という世論を形成しようとしているとの指摘がある。中国政府の当局者が直接語るよりも、台湾の政治家の発言を用いる方が影響力が大きいとみられている。

世論工作に対する台湾内の反応

中国のSNSでは、台湾の風景や生活を紹介する動画も人気を集めており、一般市民が台湾を知る窓口となっている。かつての中国側主導による強硬な主張に比べ、台湾の政治家や退役軍人の言葉を用いた発信は親しみやすさがあり、台湾社会の分断を招きやすいとの見方が出ている。

こうした動きを巡り、国民党側は、中国訪問は政党間交流の伝統を引き継ぐものであり、台湾の民衆のために経済的利益と平和をもたらすことが目的だと強調している。鄭氏自身も「台湾の草の根の民意を北京に伝え、両岸関係に好影響を与えたい」との認識を示している。一方、民進党や台湾の対中政策を所管する大陸委員会は、中国側の世論工作が台湾社会の結束を損なっていると批判し、演出された情報に惑わされないよう警戒を呼びかけている。

編集:佐野華美

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