韓国スタバ「タンク・デー」炎上 光州事件想起させる販促で不買運動拡大 南北軍事境界線付近に位置し、北朝鮮までわずか1.4キロの場所にあるスターバックス店舗。2024年11月29日の開業時には長蛇の列ができた。(写真/AP通信)
韓国スターバックス(Starbucks Korea)が5月18日に実施した「タンク・デー(Tank Day)」の販促キャンペーンを巡り、批判が拡大している。同社のCEOが辞任に追い込まれただけでなく、韓国近代史における民主化運動の傷痕に触れたとして、大規模な不買運動にも発展している。
実質的な運営を担う親会社・新世界(シンセゲ)グループの鄭溶鎮(チョン・ヨンジン)会長にも刑事責任を問う動きが出ており、光州(クァンジュ)の市民団体は連名で鄭氏の辞任と引責を求めている。
韓国紙『中央日報』などのメディア報道 によると、市民団体「庶民民生対策委員会」はこのほど、鄭氏と韓国スターバックス元CEOの孫貞賢(ソン・ジョンヒョン)氏を、名誉毀損および公然侮辱の疑いで告発した。同団体は、スターバックスの経営陣が「タンク・デー」と銘打った販促活動を通じ、1980年の「5・18光州民主化運動(光州事件)」の被害者や遺族を侮辱したと主張している。
光州事件の記念日に「Tank Day」、批判が殺到 今回の騒動は、5月18日に始まった。韓国小売大手の新世界グループが実質的に運営するスターバックスは、軍事政権による光州民主化運動の武力鎮圧を追悼する記念日に、「タンク・タンブラー(Tank Tumbler)」と名付けた販促商品を発売した。
同社は公式SNSでも商品を宣伝し、画像には「Tank Day」という文言も大きく記されていた。この企画が公開されると、韓国のSNSでは数時間のうちに批判が広がり、スターバックスは商品の販売中止とキャンペーンの打ち切りを余儀なくされた。
韓国スターバックスは5月18日に販促キャンペーンを実施したが、光州事件をめぐる同国社会の深い傷に触れる形となった。(画像/YTNニュース映像より)
批判の理由は、「タンク(戦車)」という言葉が、韓国社会の歴史的記憶を強く刺激したためだ。5月18日は、1980年に全斗煥(チョン・ドゥファン)軍事政権が軍を動員し、戦車や装甲車を光州市街地に投入して、民主化を求める学生や市民を武力で鎮圧し、多数の犠牲者を出した光州民主化運動の記念日である。
さらに批判を強めたのが、宣伝ポスターに添えられた「『Tak!』という音とともに、デスクにかっこよく置こう」という趣旨のキャッチコピーだった。
韓国の市民団体は不買運動を訴えるポスターを手にスターバックス店舗を訪れ、同ブランドが光州事件の歴史的傷痕を軽視したとして抗議した。(画像/YTNニュース映像より)
こうした歴史的発言を想起させる表現が販促コピーとして使われたことに、韓国世論の批判が集中した。事態を受け、新世界グループの鄭氏は公開謝罪し、今回の騒動の責任を負うと表明した。韓国スターバックスを運営するSCKカンパニーのCEOも解任されたが、批判は収まっていない。
現場従業員にも暴言や理不尽な要求 CEO解任という対応だけでは、韓国社会の怒りを鎮めるには至らなかった。現在、韓国各地のスターバックス店舗では不買運動が広がっているだけでなく、第一線で働く若いアルバイトや従業員が、怒った顧客からの暴言や理不尽な要求にさらされている。
SNS上には、ソウルや京畿道(キョンギド)などの店舗で働く従業員からの投稿が相次いでいる。勤務中に顧客から怒鳴られたり、「辞めてしまえ」と言われたり、「なぜこのような企業で働いているのか」と詰め寄られたりするケースがあるという。
中には、「街中で人から白い目で見られたくない」として、使用済みの旧型タンブラーを店舗に持ち込み、全額返金を求める客もいるとされる。
政治問題化し、政府機関の購入停止にも発展 多国籍企業の販促企画が招いた今回の危機は、韓国で最も敏感な歴史記憶の一つである光州事件に触れたことに加え、6月3日の地方選挙を控えた時期と重なり、政治問題化している。
韓国の行政安全相は自身のX(旧Twitter)でスターバックスを批判し、「歴史的な痛みを遊び半分に扱った。この問題は、軽い謝罪だけで終わるものではない」との見解を示した。韓国政府は行政安全省とその傘下の政府機関に対し、スターバックスの商品および商品券の購入を無期限で停止するよう命じており、政府機関による事実上のボイコットに踏み切った形だ。
1980年5月23日、韓国・光州で、光州事件の犠牲となった抗議参加者の棺のそばに集まる市民ら。(写真/AP通信)
一方、韓国国会でも、共に民主党と最大野党・国民の力(PPP)がそれぞれスターバックスへの対応を打ち出している。共に民主党側は、候補者や選挙陣営関係者に対してスターバックスの利用を禁じ、全面的な不買運動を呼びかけている。さらに鄭氏に対し、公の場で謝罪し、国民に許しを求めるよう要求した。
こうした状況について、徳成(トクソン)女子大学の趙鎮萬(チョ・ジンマン)政治学教授は、スターバックスのマーケティング失敗が政治家によって選挙向けの材料として利用されていると指摘した。
趙氏は「スターバックスは愚かな行為に対し、法的・経済的責任を負わなければならない。しかし政治家も今こそ言動を慎むべきであり、憎悪をあおり、これ以上無関係な現場従業員を犠牲にするような行為は直ちにやめるべきだ」と苦言を呈している。
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