2025年5月16日、公益財団法人フォーリン・プレス・センター(FPCJ)のオンライン・プレス・ブリーフィングで、京都大学人と社会の未来研究院 副研究院長・教授であり、現役の僧侶でもある熊谷誠慈氏が、「仏教はAIとともにどう歩むか?」をテーマに講演を行った。寺院の消滅が進む日本で、仏教と人工知能(AI)を融合させることで信仰の未来を切り拓けるのか。その可能性について、学術的・実践的な視点から多角的に語られた。
熊谷氏は、仏教経典を学習させたチャットボット型AI「BuddhaBot」を開発した第一人者だ。講演では、仏教AIの開発背景、ARによる社会実装、「仏教×メタバース」の構想まで、仏教とテクノロジーの交差点における取り組みが詳細に説明された。
仏教離れと社会実装の課題
冒頭、熊谷氏は「私たちは彼らの願いを叶えることを目的として」という言葉を繰り返し強調し、仏教が本来持つ悩みへの寄り添いの機能を、AIがどう補完し得るのかを問題提起した。
2021年に訪れたブータンで、仏教が生活のあらゆる場面に組み込まれ、僧侶が尊敬を集めている現状を目の当たりにし、日本とは対照的な「社会実装の成功例」に着目。ここから仏教の普遍的価値を捉え直す概念として「グロス・ユニバーサル・ハピネス(GUH)」を提唱した。
AIは仏陀の代弁者になり得るか?
仏教AIの開発は、東京都東伏見の寺院関係者から「AIと仏教で何かできないか」と相談を受けたことから始まった。当初は、スッタニパータの問答をQ&A形式に整理し、非生成型AIに学習させるという仕組みを構築。経典そのものを出力することで、AI特有の誤情報(ハルシネーション)を回避した。
しかし、質問の意図と回答がずれるという課題に直面し、生成AI「ChatGPT-4」を補足説明用に組み込んだ「BuddhaBot Plus」へと進化。まず経典の言葉を提示し、続けてGPTが現代語でわかりやすく解説を加える二層構造をとっている。
たとえば、「SNSを始めてもよいか?」という質問には、経典が「何者にも執着せず、余計なものを持たぬ人が素晴らしい」と答え、ChatGPTが「必要な情報だけに集中することが重要」と補足することで、仏教的価値観と実生活の判断を結びつける役割を果たしている。
ARアバターとメタバース構想
仏教AIはテキストにとどまらず、AR(拡張現実)技術を導入した「Terra Platform AR」も開発。スマートフォンを通じて仏陀のアバターと対話できる仕組みで、視覚・聴覚・触覚によるマルチモーダルなコミュニケーションを実現した。 (関連記事: 李忠謙コラム:AIテクノロジーは自由民主主義の味方か、それとも専制政権の共犯者か? | 関連記事をもっと読む )
さらに、仏教的サイバースペース「テラバース(Terraverse)」の構想も発表。これは仏教データを基盤とした仮想宇宙で、今後は他宗教や企業倫理なども統合し、「伝統知のプラットフォーム」として拡張していくことを目指すという。