中国共産党の北部戦区に所属する航空母艦「遼寧(りょうねい)」は、台湾の東南海域に出現し、周辺海域での活動を展開している。日本防衛省統合幕僚監部が5月25日および27日に発表した情報によると、同期間中に中国軍北部戦区の空母「遼寧」を中心とした打撃群が編成され、055型駆逐艦(艦番号101、104)、052D型駆逐艦(艦番号121、122)が参加した。
さらに、東部戦区海軍からも052D型駆逐艦(艦番号131、155)、054A型フリゲート(艦番号599、515)が加わり、東シナ海から日本の宮古島東南にかけての海域で順次活動を展開した。今回の中国軍の海上戦力は極めて強力であり、とりわけ空母による艦載機の離着艦訓練が日本周辺海域で行われたことで、日本の海空自衛隊は高度な警戒態勢を敷いて対応した。
一方、5月27日に中国軍北部戦区の空母「遼寧」が宮古島の南東海域で艦載機の離着艦訓練を実施していたのと同時に、東部戦区の海空戦力は早朝から台湾周辺の海空域において「合同戦備警戒巡回」任務を行っていた。
また、米海軍の空母「ニミッツ」打撃群は、5月26日にマレーシア・ポートクランへの訪問を終えた直後、マラッカ海峡を通過して南シナ海に進入した。現在、中国軍は北部戦区および東部戦区の主力海軍戦力を動員し、台湾と日本の間に位置する第一列島線・宮古海峡周辺海域で演習を行っており、国際社会の強い注目を集めている。
まず、日本防衛省統合幕僚監部が5月25日および27日に発表した中国軍「遼寧」空母打撃群および東部戦区海軍の作戦艦の動向は以下の通りである。
5月25日午前7時頃、中国海軍の空母「遼寧」(艦番号16)および作戦艦4隻(艦番号121、122、515、599)を含む計5隻が、沖縄県久場島(中国名:黄尾嶼)の北約200キロの海域を航行し、艦載戦闘機およびヘリコプターの離着艦訓練を実施した。
同日午後8時頃、「遼寧」と作戦艦3隻(艦番号101、155、599)が久場島の北約240キロの海域で活動を行った。さらに5月26日午後8時頃には、「遼寧」と作戦艦3隻(艦番号101、131、599)が久米島北西約190キロの海域で活動し、この期間中に空母から戦闘機約90機次、ヘリコプター約30機次、合計約120機次の離着艦が行われた。
この「遼寧」打撃群の構成メンバーは、山東省青島に駐屯する第1駆逐艦支隊に所属する055型駆逐艦「南昌」(艦番号101)、同じく055型「無錫」(艦番号104)、および遼寧省大連に駐屯する第10駆逐艦支隊の052D型駆逐艦「チチハル」(艦番号121)、「唐山」(艦番号122)である。
また、これに加えて東部戦区海軍の戦力として、浙江省舟山に駐屯する第3駆逐艦支隊の052D型駆逐艦「太原」(艦番号131)、第6駆逐艦支隊の052D型駆逐艦「南京」(艦番号155)、054A型フリゲート「安陽」(艦番号599)、「浜州」(艦番号515)が協同し、2つの駆逐艦・フリゲートで構成された海上打撃群を形成したものと推定される。
続いて、日本側の発表によれば、5月26日には中国人民解放軍北部戦区海軍の空母「遼寧」と、055型駆逐艦「南昌」(艦番号101)、「無錫」(艦番号104)、遼寧省大連に駐屯する第10駆逐艦支隊所属の052D型駆逐艦「チチハル」(艦番号121)など、少なくとも4隻が宮古海峡を通過し、西太平洋に進出したことが確認された。
さらに27日午前10時には、「遼寧」と作戦艦2隻(艦番号101、121)が、宮古島南東約190キロの海域において艦載機の離着艦訓練を行った。
同日午前11時10分、台湾の国防部は発表を行い、同日午前8時15分以降、中国軍の殲-16戦闘機、空警-500早期警戒管制機などの主力・支援戦闘機および無人機を含む計27機が海上にて活動を展開。そのうち18機が台湾海峡の中間線およびその延長線を越え、台湾の北部・中部・東部・南西空域に侵入し、中国艦艇と連携して「合同戦備警戒巡回」任務を実施したと明らかにした。
加えて、台湾国防部は翌28日午前9時頃に再度発表を行い、5月27日(火曜日)午前6時から5月28日(水曜日)午前6時までの24時間内に、中国軍機31機(うち22機が中間線を越え北部・中部・南西・東部空域に進入)、中国艦艇9隻、公務船1隻が台湾周辺の海空域で活動していたことを確認したと報告した。
また、27日午前8時10分から午後0時45分にかけて、中国軍の支援戦闘機1機が、尖閣諸島北西の空域で活動していたことも確認されている。
5月27日午前7時30分から午後6時50分にかけて、中国軍の主力・支援戦闘機および無人機、計21機が浙江省と福建省の境界付近の東側から福建省東山の南東方向にかけて、台湾海峡西側の広範囲な空域で活動を行った。このうち13機は台湾海峡の中線北部・中部・南部の全域を越えて飛行した。
同日午前6時45分から午後0時40分には、主力・支援戦闘機および無人機計6機が、福建省東山の南東から広東省南澳の南東、さらに台湾防空識別圏(ADIZ)の南端に至る広範囲な台湾南西空域で活動を展開。
特に注目されるのは、「遼寧」空母打撃群が尖閣諸島(中国名:釣魚島)の北約200キロの海域で演習を実施した点である。これはまず日本側に対する示威行動として、同海域に展開する中国海警船隊による釣魚島主権維持の後ろ盾であることを示す狙いがあったとみられる。その後、空母打撃群は宮古海峡をゆっくりと通過し西太平洋に進出、さらに宮古島南側の海域へと移動し、日本の南西諸島に対する威嚇の姿勢を強めた。
中国軍北部・東部戦区が連携し、台湾および日本に対して示威行動を展開。(写真/ルー・ウェンハオ提供)振り返れば、中国外交部の王毅外相は3月7日、中国の全国人民代表大会(全人代)と全国政治協商会議(政協)の期間中に開催された外交記者会見において、日本国内の一部勢力が「台独(台湾独立)」勢力と結託していると非難し、「台湾有事は日本有事」と唱えるのではなく、「台湾を利用して騒ぎを起こせば、それは日本に災いをもたらすことになる」と警告していた。
こうした文脈を踏まえると、「遼寧」空母打撃群の戦術的展開は、日本と台湾の双方に対する抑止と圧力を同時に行う「一石二鳥」の戦略といえる。
最後に、5月27日の気象予報によると、当日は東北季節風が弱まり、各地で気温が上昇した。このタイミングに合わせるように、中国人民解放軍東部戦区の海空戦力は、台湾周辺の海空域において「合同戦備警戒巡回」任務を展開した。
5月28日以降、華南地域で前線が形成され、次第に台湾に接近する見込みとなっている。水蒸気が増加することで、未明には一時的な雨が降り、午後にはにわか雨や雷雨の範囲が拡大すると予測されている。夜間からは前線が台湾に近づき、各地で曇りや一時的なにわか雨、雷雨となる可能性がある。深夜には北西部を中心に降雨が次第に強まりそうだ。
端午の連休初日となる5月30日(金)には引き続き雨が予想されるが、端午節当日の31日(土)および翌6月1日(日)には天候が回復し、晴れ間が広がる見込みである。
一部メディアは、「軍関係者の分析によると、遼寧艦を中心とする空母打撃群が端午節の連休にあわせて、台湾に対し『合同戦備警戒巡回(Joint Combat Readiness Patrol)』を実施する可能性がある。これにあわせて、内陸部から出動する戦闘機や艦艇と連携し、海空統合演習を展開。台湾側の軍事対応と政府の危機管理能力を試す狙いがあるとみられる」と伝えている。
筆者の長年の観察によれば、中国軍は「艦艇が先行し、航空機が後続、演習が始まる」という行動原則を一貫して採用している。すなわち、艦艇はすでに台湾周辺の海域に常態的に配備され、あるいは先に指定海域に到達して待機。その後、航空機が出動して海空合同演習の地点に到達し、演習が開始されるという流れである。
東部戦区が「合同戦備警戒巡回」を実施する場合、5月中の傾向を見ると、実施日は日曜日が多い傾向にある。また、天候条件に左右される可能性もあり、例えば5月11日午後2時48分のように、台湾島内の広範囲で降雨があったタイミングや、翌日に天候が回復する状況を狙って、海空合同の戦備巡回が行われるケースも考えられる。
さらに、米海軍の空母「ニミッツ」打撃群は、5月26日にマレーシア・クラン港での訪問を終え、マラッカ海峡を経て南シナ海へと戻った。米空母のこうした動きは、中国軍にとって全行程を監視対象とする重要な動態であり、もしバシー海峡周辺海域を通過することになれば、人民解放軍による「合同戦備警戒巡回(Joint Combat Readiness Patrol)」を誘発する可能性が常にある。
振り返れば、日本防衛省統合幕僚監部は5月16日、中国人民解放軍東部戦区海軍が遠洋訓練のため、東シナ海から宮古海峡を通過して西太平洋に進出したと公表している。これには、浙江省舟山を拠点とする第3駆逐艦支隊の052D型駆逐艦「蘇州」(舷号132)、054A型フリゲート「舟山」(529)、「徐州」(530)および、上海の虯江埠頭を母港とする第5揚陸艦支隊の075型強襲揚陸艦「安徽」(33)、071型ドック型揚陸艦「龍虎山」(980)などによる遠洋両用特遣部隊が含まれていた。
筆者が5月28日午前10時時点で締め切った時点では、これら艦隊が西太平洋から宮古海峡を通過して東シナ海の所属基地へ戻ったという日本側の報告は確認されていない。そのため、筆者は今まさに軍事的緊張の「火薬の匂い」が漂っているのを感じざるを得ない状況にある。
もし米空母「ニミッツ」が南シナ海から西太平洋へと移動を開始した場合、あるいは5月25日に日本・横須賀での半年間の冬季整備を終えて出港した「ジョージ・ワシントン」空母が西太平洋で展開を開始する場合、さらに「アメリカ」強襲揚陸艦が沖縄東方海域で活動する場合などには、中国軍北部戦区(遼寧号)、東部戦区(安徽号)、南部戦区(山東号)それぞれの海軍による空母・両用打撃群の合同演習が誘発される可能性があり、各方面からの大きな注目を集めることになるだろう。