世界初の時価総額3兆ドル突破企業として、アップル(Apple)は単なるテクノロジー企業の枠を超え、国際情勢における政治的プレーヤーとなっている。同社の資源規模は小国に匹敵し、他国の産業政策にさえ影響を与える力を持つ。しかし軍隊を持たないため、大国間の駆け引きにおいては他国のルールに従わざるを得ないのが現実だ。
『ワシントン・ポスト』は24日、『アップル・イン・チャイナ』(Apple in China: The Capture of the World’s Greatest Company)の書評を掲載し、ティム・クックCEOが国際政治の動向を見極めながら多額の資金を投じて「赤いサプライチェーン」を構築した過程を分析した。本書では、アップルのトップエンジニアたちが長年中国で働いた末、テキサスの工場で問題が発生した際に中国に助けを求めるという皮肉な状況が描かれている。
『アップル・イン・チャイナ』は英国『フィナンシャル・タイムズ』のテクノロジー記者パトリック・マギー(Patrick McGee)の新刊で、アップルがいかにして中国で設計・製造の巨頭へと成長したかを詳細に描いている。数千億ドル規模の巨大利益とサプライチェーンへの依存度増大を指摘し、中国が今やアップルにとって世界第2位の消費市場となった経緯を明らかにしている。
マギー氏は、過去20年にわたりスティーブ・ジョブズ氏とクック氏の指導下で進められた中国市場への投資が、地政学的出来事に匹敵するほど重要だったと分析している。一方でこの変革は数年をかけて進行し、厳格な秘密保持契約とメディア統制のためあまり知られていなかった。
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— Joseph Hurtado - Founder Granata Consulting (@josephfounder)May 22, 2025
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この賭けによってアップルの生産プロセスは完全に変革され、いわゆる「赤いサプライチェーン」が誕生し、中国のテクノロジー産業の台頭を促した。マッギー氏は、アップルが「夢遊病状態」で新たな現実に足を踏み入れ、無意識のうちに国家建設を実施し、中国の安価な労働力、脆弱な法治、巨大なスケールメリットを利用したと表現している。投入された資金は戦後のマーシャル・プランを上回る規模だという。
台湾から中国への展開
アップルは最初に台湾、次に中国に進出し、電子製造大手の鴻海(Foxconn)などのパートナーと協力して「田畑を工場に変える」という奇跡を起こした。わずか数ヶ月でゼロから生産基地を建設できる体制が整ったのだ。台湾と中国の企業はアップルとの協力を求め、損を覚悟で受注することさえあった。鴻海創業者の郭台銘氏が語ったように、「アップルとの協力の価値は学ぶことにある」のだった。
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アップルは単純に生産を中国にアウトソースしただけではない。その関係は外部の想像以上に複雑だ。アップルは大量のエンジニア、デザイナー、管理者、その他の専門家を派遣し、中国のパートナーと共に新たな製造プロセスを「共同開発」した。クック氏によると、アップルは中国で500万人の雇用を創出したという。両者の関係は密接で、ユナイテッド航空がサンフランシスコから中国の工業都市への直行便を開設するきっかけにもなった。マギー氏は、新型コロナ流行前、アップルは毎日サンフランシスコから上海へのビジネスクラス50席を購入していたと指摘している。