世界各国がAI(人工知能)開発の主導権をめぐって激しい競争を繰り広げる中、韓国では自国の立ち位置が揺らぎかねないという危機感が強まっている。
背景には、AIチップ開発の世界的企業・NVIDIA(米エヌビディア)のジェンセン・ファンCEOが、台北に本社を設立し、同地で初のAIスパコン構築に着手すると発表した動きがある。台湾国内では今後、チップ設計や量子コンピューティングの研究に一層の資金と人材が投入される見通しで、韓国メディアはこれに強い警戒感を示している。
21日付の韓国紙《中央日報》の社説は、今回の計画が単なる企業単独の動きではなく、台湾の国家科学技術委員会(NSTC)、半導体大手TSMC、電子機器製造大手の鴻海(Foxconn)などが連携し、台湾全体を自立可能なAIエコシステムへと進化させようとする国家規模の戦略だと指摘した。
さらに同紙は、台湾が半導体設計からハードウェア製造までを一貫して担える強固なサプライチェーンを持っていることにも言及。MediaTek(AIプロセッサ製造)、Quanta ComputerやWistron(AIサーバー製造)といった世界的企業もすべて台湾発であり、その存在感は日増しに高まっている。
As Taiwan rises as an AI hub, South Korea faces urgent calls for reform to escape stagnation and reclaim its future amid economic and social challenges.#Taiwan#AI#SouthKorea#Tech#Economyhttps://t.co/d8rahOGiuh
— The Chosun Daily (@EnglishChosun)May 22, 2025
NVIDIAのファンCEOも「台湾には150社の関連企業があり、このエコシステムがなければ我々の設計は製品化できない」と述べ、台湾の重要性を強調した。
韓国、インフラ整備の遅れで「下請け国家」へ転落の懸念
一方で、韓国にとってはこの状況が大きな脅威となる。AI開発を支える基盤インフラが不足していることで、自国企業がいずれ単なる下請けに甘んじるのではないかという懸念が広がっている。
韓国企業は依然として高帯域幅メモリ(HBM)などで優位性を持つものの、設計、ソフトウェア、パッケージング、データセンター、電力供給といったAIインフラ全体では課題が山積している。中央日報は、サムスン電子やSKハイニックスといった主要企業の将来に対し、「今のままではグローバルなAI供給網の中で“補助的役割”に陥る恐れがある」と警鐘を鳴らす。

6月に控える韓国大統領選挙を前に、各候補者がAI産業に関する公約を掲げているものの、具体的な実行計画や包括的な戦略は乏しいとの指摘もある。これに対し、台湾では国家規模での戦略的な投資が進むなど、明確な差が生まれつつある。
韓国が今後AI分野で競争力を維持するためには、規制緩和や電力網の強化、研究開発人材の育成といった基礎インフラの整備が不可欠だと同紙は強調。産官学の連携によって、持続可能なAIエコシステムを構築する必要があると訴えている。
経済成長の減速が続く中で、AI産業は韓国経済を再び成長軌道に乗せる起爆剤になり得る。中央日報は社説の中で、各政党に対して次期政権が具体性と実効性を伴った戦略を持ち、韓国の技術的強みを最大限に活かす施策を打ち出すよう求めている。台湾が急速に存在感を高める今、韓国にも早急な対応が求められている。
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編集:田中佳奈
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