在韓米軍司令官「韓国は中国の玄関口に浮かぶ空母」 台湾有事で韓国安保に懸念の声広がる

米軍空母カール・ヴィンソン(CVN 70)真珠湾到着後、2024年の環太平洋演習(RIMPAC)に参加準備。(米国海軍公式サイト)

在韓米軍のブランソン司令官は今月15日、米陸軍主催のセミナーで講演し、アジア太平洋地域における陸軍の重要性を強調。朝鮮半島を「中国に近い空母」と表現し、その地政学的な価値に言及した。この発言は韓国メディアでも大きな注目を集めている。

ブランソン司令官は、ハワイで行われた講演において、「地図を見れば、朝鮮半島の位置が際立っている。米軍の大規模な部隊が駐留し、第一列島線内に位置するこの場所は、北京に最も近い同盟国であり、戦略的に重要だ」と指摘。加えて、衛星画像などを引き合いに「韓国は夜間、まるで日本と中国大陸の間に浮かぶ空母のように見える」と述べ、朝鮮半島を“固定された空母”になぞらえた。

さらにブランソン氏は、「現在、我々の重点は北朝鮮の抑止ではなく、より広範な地域全体における戦略行動にある」と述べ、駐韓米軍の役割が対北朝鮮にとどまらないことを強調した。

米軍機関紙『星条旗新聞』によれば、現在、約2万8500人の米兵が韓国に駐留しており、多くがソウル南方の平沢(ピョンテク)・ハンフンフリーズ基地に配置されている。主な任務は北朝鮮からの防衛だが、中国牽制の役割も兼ねているとされる。

2017年には、アメリカが高高度防衛ミサイル(THAAD)を韓国に配備。中国政府はこれに対し「地域の安定を損なう」と抗議し、韓国製品への不買運動など、経済的な報復措置を講じた経緯もある。

ブランソン氏はまた、韓国、日本、フィリピンが“国家の三角形”を形成し、米国との同盟関係を基盤に「自由の前庭」を構築していると説明。「前方展開によって、我々は敵の反介入・接近阻止戦略(A2/AD)に対抗し得る存在になっている」との見解を示した。

こうした中、韓国メディア『朝鮮日報』は17日付の社説で、米国の対中戦略が再構築される中、在韓米軍の“戦略的柔軟性”が一段と高まっていると指摘。エルブリッジ・コルビー前米国防副次官補の「韓国は自らの防衛責任を果たすべきだ」との発言を引用し、在韓米軍が将来的に中国抑止の任務に重点を移し、台湾有事の際には他地域への派遣が想定されていると警鐘を鳴らした。

さらに同紙は、大統領選で支持率トップを走る李在明(イ・ジェミョン)氏(共に民主党)に対し、安保政策への姿勢が不十分だとして批判。「米国にも中国にも『ありがとう』と言い、台湾についても『干渉しない』という態度を取ることは、韓国の国家的リスクを見落としている」と警告している。

同紙は、もし中国が台湾に軍事侵攻した場合、韓国内の米軍基地が標的となる可能性があること、さらに北朝鮮の挑発が誘発される恐れがあることを挙げ、「その際、もし米軍が韓国を離れるようなことがあれば、安全保障の空白が生じる」と強く懸念を示した。

李氏はそうした批判に対し、これまでのところ具体的な対案を示しておらず、「国家利益に基づいて対応する」と述べるにとどまっているという。

一方で、対立候補のキム・ムンス(国民の力)は「北朝鮮の核抑止力強化」を訴えるが、それ以上の踏み込んだ議論は見られていない。

『朝鮮日報』は、大統領候補者らに対し、台湾有事や在韓米軍の再編に伴う安全保障上のリスクを直視し、「もはや『ありがとう』と言うだけでは済まされない」として、より具体的な危機管理策の提示を求めている。

​編集:田中佳奈