トランプが「アメリカを再び偉大に」という名目で世界を圧迫している最中、台積電(TSMC)CEO魏哲家は3月3日、ホワイトハウスでアメリカへの大規模な投資案を発表した。隣に立つトランプは満足げであるが、台湾社会はこの優位な産業がアメリカに奪われるのではないかと懸念している。米国IBMワトソン研究所で30年間研究開発に携わった経験を持つ引退技術者の張一飛は《風傳媒》でのインタビューに答え、TSMCのアメリカへの投資は必ずしも悪いことではなく、問題はその決定が自発的かどうかにあると指摘した。
成功大学電機系を卒業した張一飛は、米国のロドアイランド大学で電機博士号を取得後、最初の就職先としてIBMの半導体工場でエンジニアとして働いた。彼の専門的な視点から見ると、TSMCのアメリカへの投資は、一種の拡張と解釈することができ、必ずしも悪いことではない。しかし、もし会社の決定が自らの意志ではない場合、利点にはならない。TSMCのような技術付加価値の高いファウンドリー企業は、市場・人材・技術・動向など多くの要素を考慮に入れる必要があるからである。
米台の文化の差異、大きく将来予測が難しい
張一飛は、1969年にIBMエンジニアとして書いた研究論文を振り返る。当時、半導体生産の鍵は歩留まりであり、その良し悪しを決定する最大の要素が空気中のイオンであると指摘していた。もし工場内の空気が汚染されていれば、半導体の感光製造プロセスが歩留まりを損なうことになる。このため、TSMCがアメリカに工場を設置するなら、空間環境を非常に清潔に保つことが歩留まり向上の前提条件となる。
他方で、TSMCの製造プロセスには従業員の訓練とその質が関わっている。張一飛は、TSMCエンジニアは宇宙飛行士のように包まれ、清潔さや職務の厳守精神を追求していると述べた。iPhoneの例を引き合いに出し、インド製造と中国製造では品質が違うことを指摘した。今、TSMCアリゾナ工場を設置するにあたり、従業員の質や習慣が台湾で訓練した標準に達するかどうかを問うている。
張一飛は、台湾人は温和で仕事に対して責任感を持ち、態度が真面目であることは、中国人一般の長所だと主張した。「しかし、アメリカではそうとは限らない。アメリカの東西間での文化差異が大きく、エンジニアの基準が果たして達成できるか、これはTSMCの経営陣が最も心配している問題だと思う。」彼は例として、中国のある自動車ガラス工場がアメリカ西部へ投資した際、アメリカと中国製造業の文化の溝がすぐに露呈したことを挙げた。「ファウンドリー技術の複雑さは非常に高く、アメリカでいずれどのような状況が生じるか、確かに予測は難しい。」 (関連記事: TSMCアリゾナ工場の成否は? 台湾大教授「カギは米国人エンジニアの確保」 台湾からの引き抜きには限界も | 関連記事をもっと読む )

TSMCのアメリカ企業化、米国の体制の欠陥を浮き彫りにする
TSMCアメリカ展開は、台湾に大きな影響を与える。張一飛は、第一に理工系卒業生の就職機会が減少し、人材の流出を招くと分析する。次に外貨の流失がある。アメリカに進出すれば、外国から得た利益が台湾に送られなくなり、経済成長にも影響を及ぼす。そして政治や国防も関連してくる。TSMCの3ナノメートル以下の高度なファウンドリー技術は、先進軍事産業に重要で、台湾が失うのは「抑止力」である。