台湾が「危機のスパイラル」へ?ワシントンの警鐘──トランプの曖昧さ、中国の誤算を招く恐れ

2025年5月5日、月曜日。アメリカ大統領トランプ(ドナルド・トランプ)は、2027年のNFLドラフトがナショナルモールで開催されると発表する。(AP)

4月2日の「解放日」以降、国際社会の台湾海峡情勢への懸念は、トランプ前大統領による関税の話題によってすっかりかき消された。しかし、5月20日の台湾総統就任1周年を前に、『フォーリン・アフェアーズ』誌は「北京の懸念が致命的な誤算を招くかもしれない──台湾海峡の危険性が高まっている」と題した論文を掲載した。ワシントンのシンクタンクに所属する3人の研究者は、トランプ政権に対し、中国に米国の意図を誤解させてはならないと警告し、今後数年間の台湾海峡におけるさらなる不安定化を懸念している。

戦略国際問題研究所(CSIS)中国パワー・プロジェクト主任のボニー・リン(Bonny Lin)氏、副主任のブライアン・ハート(Brian Hart)氏、ブルッキングス研究所ジョン・ソーントン中国センターのジョン・カルバー(John Culver)氏は、賴清徳が2024年1月の総統選で勝利する以前から、中国は彼に強く反発し、「分離主義者」「戦争の扇動者」と批判してきたと指摘する。そして事実、この期間において台湾海峡の情勢はさらに緊張を深めた。

直近数カ月間、中国は台湾への圧力を一段と強化している。3月中旬には、国務院台湾事務弁公室の報道官が、賴清徳は「両岸の平和を破壊する者」であり、「台湾を危険な戦争の瀬戸際に追いやっている」と非難した。その2週間後、中国は台湾周辺で大規模な軍事演習を開始し、人民解放軍東部戦区の公式WeChatアカウントでは、賴清徳を「虫」に見立てた侮辱的な風刺漫画が掲載され、「毒を孕んだ殻の台湾」「空虚な殻の災いの台湾」「孵化して破壊される台湾」などと揶揄したうえ、最終的には燃え上がる台湾から箸で彼を摘み出す描写までされた。

解放軍東部戦区が発表した賴清德を中傷する漫画。(微信公式アカウントからの引用)
解放軍東部戦区が発表した賴清德を中傷する漫画。(微信公式アカウントからの引用)

リン氏らは、このように賴清徳を「非人間化」するやり方は、中国が現在の両岸関係の行方に対して深刻な懸念を抱いていることの現れだと分析している。特に中国は、賴清德が台湾独立を推し進める意図を持っていると見なしており、蔡英文前総統と比べても、より強硬で反抗的な姿勢を取っている。今年3月には、賴清徳が北京を「境外敵対勢力」と位置づけ、台湾を中国の浸透から守ることを目的とした包括的な「統一拒否17条」政策を発表している。

3人の研究者は、中国による賴清徳への批判は、およそ20年前に中国が陳水扁に対して行った対応と酷似していると指摘する。当時、中国は陳水扁を「頑迷な分裂主義者」「トラブルメーカー」と呼び、「彼はすでに崖っぷちに立っており、一切ブレーキをかける様子がない」と非難していた。中国は台湾の野党と連携して、陳水扁の政治的アジェンダを挫こうとし、2008年には台湾に対して武力を直接行使する寸前まで至った。もしも当時の住民投票で陳水扁が台湾国民からより多くの支持を得ていたなら、中国は本当に行動に出ていた可能性がある。 (関連記事: 論評:賴清德の価値選択、トランプ政治家に密着するのか? 関連記事をもっと読む

リン氏らは、中国が現在賴清徳を陳水扁と同じ「破壊者」として見ており、それに応じた戦術を取っている点に、米ワシントンは強い懸念を抱くべきだと述べる。賴清徳が総統に就任して以来、中国の「文攻武嚇」(言論による攻撃と軍事的威嚇)は激しさを増しており、20年前と比べても、中国は台湾に対して武力を行使する準備がより整っているように見える。こうした中で、トランプ政権内部における台湾政策を巡る意見の不一致は、リスクをさらに悪化させている。