TSMC(台湾積体電路製造)のアリゾナ工場第1期が稼働を開始し、現地報道では歩留まりが台湾・台南工場に近づいていると報じられている。しかし、台湾大学経済学部の名誉教授・陳添枝(ちん・てんし)氏は、アリゾナ工場の本当の成功は、アメリカ人エンジニアがどれだけTSMCの工場勤務に魅力を感じるかにかかっていると指摘。台湾人技術者をいくら派遣しても、限界があると警鐘を鳴らしている。過去の例として、1996年にTSMCが米ワシントン州に投資した工場では、数年後に台湾工場との歩留まりに大きな差が出たと指摘した。
陳氏はラジオ番組『唐湘龍時間』で、TSMCが現在約1万人の台湾人エンジニアをアリゾナに送り込んでいると説明。しかし台湾の半導体製造モデルでは、修士・博士号取得者が50%以上、大学・専門卒が30%、高卒はわずか10%と高学歴技術者が中核を担っている。アリゾナ工場でも、同様に高学歴の米国人エンジニアが半導体製造の現場に参加するかどうかが、成否を分ける鍵になると強調した。
ただし、米国には優秀なエンジニアが多数いる一方で、彼らは伝統的に工場勤務を好まない傾向がある。アップルでハードウェア設計、Googleでソフトウェア開発といった職種を選び、工場には足を運ばないのが一般的だ。これが、米国の製造業が低迷し続ける一因ともなっていると陳氏は語る。現在、製造現場を志望する人材はインテルに集中しており、同社は国内製造能力を維持している数少ない例となっている。
さらに陳氏は、TSMCアリゾナ工場が将来的に産業クラスターへと成長するには、単に人材を集めるだけでなく、製造コストを台湾と遜色ない水準に抑える必要があると指摘。顧客が納得できる価格でなければ、事業の持続は難しいとした。また、政府の補助や圧力で台湾から人材を引き抜くにも限界があるとも述べた。
陳氏は過去の事例として、1996年にTSMCが米ワシントン州でWaferTechを立ち上げた際も、当初は台湾工場と同様の歩留まりを実現していたが、数年後にはその差が広がり、受注も減少。結局、同工場は拡張されず、当時の生産ラインのまま現在に至っていると振り返った。
陳氏は「アリゾナ工場の将来を台湾だけで決めることはできない。米国も中国人エンジニアの採用には慎重姿勢を崩しておらず、選択肢は限られる。今後、もしインテルが製造から撤退し、米国のエンジニアがTSMCで半導体を作る流れが生まれれば、大きな転機になる可能性はある。最終的には、アメリカ政府がどこまで後押しするかが、アリゾナ工場の規模拡大のカギになるだろう」と語った。
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編集:梅木奈実 (関連記事: TSMCの海外移転は不可避? 台湾の専門家「中核技術だけは国内で死守を」 | 関連記事をもっと読む )
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