米国のドナルド・トランプ大統領が再任から100日を迎えた中、TSMC(台湾積体電路製造)が先月、米国への投資を1,000億ドルに拡大すると発表した直後、米商務長官のハワード・ラトニック氏がアリゾナ州にあるTSMCの半導体工場を視察した。在米の学者である翁履中氏は本日(29日)、この行動について「トランプ陣営が米国製造戦略を掌握していることを象徴するものであるだけでなく、『CHIPS法(半導体補助法)』の監査であり、非常に強いメッセージが込められている」と分析した。さらに、翁氏は「TSMCの経験を理性的に受け止め、困難を正直に直視し、実情を共有することこそが、台湾産業が世界の舞台で戦うために必要な戦略的成熟と団結である」と強調した。
翁氏は自身のフェイスブックで、ブルームバーグなどの海外報道を引用し、ラトニック長官がフェニックスにあるTSMCの建設現場を直接視察し、「これはトランプ政権が関税政策によって得た投資の成果だ」と述べたことを紹介。さらに、「今後、半導体への補助金は撤廃される可能性がある」と強調し、「補助金よりも関税が原動力である」という政策方針を明確に打ち出したと指摘した。ラトニック氏はまた、TSMCによる1,000億ドルの追加投資は補助金なしで獲得した外資であり、米国史上最大規模の外国製造業投資であると称賛した。しかし、翁氏は「この投資の裏には、単なる政策成功例には収まらない複雑な現実がある」として、より深い理解が必要だと述べた。
翁氏は具体例として、TSMCが米国での工場建設に際して、現地労働者の訓練不足やコスト高騰など多くの課題に直面したとし、特に第1工場の稼働時には台湾からの技術者に大きく依存したことで、現地労働組合から「米国人労働者の差別だ」と抗議を受けたと説明。これにより、TSMCは現地の人材育成のために訓練プログラムを設立するなど、見えにくいコストを負担することとなったと述べた。
翁氏は、今回のラトニック氏の視察が「米国製造の主導権を握るというトランプ陣営の姿勢を示す象徴であると同時に、TSMCが『有言実行』しているかを注視する米側の姿勢の現れである」と指摘。「CHIPS法補助金の精査」であると同時に、「米国はTSMCの対米投資を単なる祝賀行為ではなく、米国産業の安全保障への実質的な従属であることを望んでいる」との強いメッセージが込められていると語った。
また、ラトニック氏が「追加投資は関税が引き出した成果だ」と主張し、補助金廃止の可能性を示唆したことについて、翁氏は「これは地政学的圧力を企業に転嫁し、市場アクセスを戦略ツールとして用いるものだ」と指摘。「TSMCの華やかな表面ばかりを見るべきではなく、その裏には多くの苦労がある。たとえば米国人労働者の差別という批判を受けた結果、訓練計画の設立という追加的な負担を負うことになった。これは帳簿に現れない損失であり、制度や文化の摩擦が生んだ隠れたコストである」と述べた。
翁氏は最後に、「TSMCは多くの『授業料』を支払ったが、その経験は将来の台湾企業にとって貴重な教訓となる。もしこの挑戦を正直に見つめ、『成功モデル』として過剰に装飾せず、単なる『グローバル展開』と謳うだけで終わらせなければ、これらの経験は台湾の対外投資におけるリスク管理資産として生まれ変わる」と語った。そして、「誤った神話こそが企業のリスク判断を誤らせ、台湾企業の競争力を真に弱体化させる根源である」と警鐘を鳴らした。
編集:梅木奈実 (関連記事: インタビュー》TSMC法人説明会の背後にある戦略的思考 IC権威アナリスト陳慧明:「半導体ドル」が形成される | 関連記事をもっと読む )
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