台湾株式市場は8月1日、ドナルド・トランプ米大統領が発表した新たな関税方針の影響を受けて大きく下落した。加権指数(加重平均指数)は108.14ポイント(0.46%)安の23,434.38ポイントで取引を終え、外国人投資家など三大法人による売越額は59億800万台湾ドル(約296億円)に達した。
台湾先物市場では、夜間取引でさらに売りが加速。記者発稿時点で180ポイントの急落となっており、投資家の間では昨年8月の株式市場崩壊の記憶がよみがえっている。
法人投資家の動きと市場の見通し
終値後の統計によれば、三大法人の内訳は、外国人投資家が70.65億台湾ドルの売越、投信が7.88億台湾ドルの買越、自営商(自己売買部門)が3.72億台湾ドルの買越であった。
「鉅亨買基金」の総経理である張榮仁氏は、「米台間で関税に関する協議が進展し、関税問題はほぼ収束を迎えつつある。市場の不確実性が後退し、今後は企業業績や経済指標といったファンダメンタルズに注目が戻る」と述べたうえで、「AIが次世代のテクノロジー・資本収益の主戦場となる中、相場の揺れをチャンスと捉え、台湾株ファンドへの投資を検討すべき」と指摘している。

今夜の難関は「米雇用統計」
市場関係者によれば、関税をめぐる国際協議はひとまず一段落したものの、ここ数日、米国株の勢いが鈍化しており、台湾市場にも波及する可能性があるという。
さらに注目すべきは、今夜発表される7月の米非農業部門雇用統計(日本時間午後9時30分)。市場予想では、就業者数は前月の14.7万人から11万人へと減少し、失業率も4.1%から4.2%へわずかに上昇する見通しだ。
もしこの予測通りであれば、米労働市場の減速傾向が鮮明となり、パンデミック下の2020年を除けば、2010年以降で最低水準の雇用成長となる。
パウエルFRB議長は先日、「雇用の伸びは確かに鈍化しているが、労働供給も同様に減少しており、労働市場はおおむね均衡している。今後の注視ポイントは失業率だ」と述べていた。
雇用指標の信頼性にも疑問符
6月の米国失業率は予想外に低下したが、同時に労働参加率も下がった。専門家は「移民政策の大幅な見直しにより、米国の失業率は経済指標というより統計的な現象に変質している」と指摘している。
また、最新の調査では、米企業の多くが雇用に対して慎重姿勢を強めており、大規模な人材採用に消極的だという。これは米中間の貿易戦争における関税政策があまりにも不透明で、企業が中長期的な経営判断を下せないためとされる。
NerdWalletの上級エコノミスト、エリザベス・レンター氏は「経済の見通しが不確実な状況では、企業は雇用の拡大にも削減にも慎重にならざるを得ない。予測が毎週変わるような環境では、情報が揃うまで様子見となるのは当然だ」と述べている。
「昨年8月の悪夢」再来の可能性は?
市場関係者の間では、今夜の雇用統計が市場予想を上回り、たとえば15万人を超える強い結果となれば、ドル高がさらに進行し、FRBの年内利下げ観測が後退するとの見方が出ている。
一方、就業者数が10万人を下回り、失業率も上昇した場合には、労働市場の弱体化が明らかとなり、ドルは下落。これが金価格の反発材料になる可能性もある。
株式市場については、利下げ期待で買いが優勢となる可能性もあれば、景気後退懸念が強まって下落に転じる可能性もある。どちらの「ストーリー」が選ばれるかで、相場の方向性が分かれる。
思い起こされるのは、昨年8月初旬の金曜日夜に発表された非農業統計が予想外に低調だったことだ。その直後、急激な円高が進行し、裁定取引の巻き戻しが発生。週明けには「史上最悪レベルの株価暴落」が発生した。
もちろん、当時とは政治・経済情勢が異なるため、同様の展開になるとは限らない。ただし、変化の激しい国際情勢下では、リスク管理と資金管理が生き残りのカギとなることを忘れてはならない。 (関連記事: 20%関税で台湾株1.2兆台湾ドル蒸発 国家安定基金が緊急介入 | 関連記事をもっと読む )
編集:梅木奈実
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