世界の半導体業界はかつてない緊張感に包まれている。トランプ米大統領は再び関税を掲げ、今回の標的は台湾の半導体大手、TSMC(台積電)だ。業界関係者によると、トランプ政権は台湾製半導体に最大25%の懲罰的関税を課すことを検討しており、その背景にはTSMCがインテルの救済を拒んだことがあるという。
政治とビジネスが絡むこの駆け引きは、両社の運命だけでなく、世界の半導体供給網全体の再編につながる可能性を秘めている。トランプ政権の「アメリカ優先」戦略のもと、TSMCは前例のない戦略的選択を迫られている。
TSMCがインテル救済に慎重な理由
台経院産経データベースのディレクターでAPIAA理事の劉佩真氏は、TSMCの現状を「進退両難」と評した。彼女は、インテルは長年の重要顧客ではあるがパートナーではなく、救済に踏み切れば企業の独立性に影響し、将来的に株主への説明が難しくなると指摘する。さらに、技術支援は潜在的な競合相手を育てることを意味する。
インテルはIDM 2.0戦略を推進し、設計と製造を一体化したIntel Foundry Services(IFS)を展開しており、TSMCと先端製造市場で直接競合する体制を整えている。TSMCが支援すれば、自らの「不可欠性」を損なうリスクがあるため、慎重姿勢を崩せない。
25%関税の狙いと米国の思惑
フィナンシャル・タイムズなどの報道によれば、25%関税の脅威は台湾との交渉で想定される「ボトムライン」と一致している。商務省のルース・ニック氏は、「1962年貿易拡大法」第232条に基づく半導体の国家安全保障調査結果を2週間以内に公表すると明言。調査対象はシリコンウェハー、製造装置、下流半導体製品まで幅広い。
トランプ政権の狙いは、高関税の脅しでTSMCなどの海外半導体メーカーに米国内投資を加速させ、輸入依存を減らすことにある。さらに経済圧力を通じて、TSMCにインテル再編への積極関与を迫る思惑もある。
1,650億ドル投資が米国にもたらすもの
トランプ政権による関税圧力を受け、台積電は過去最大となる米国投資を約束した。2025年3月、同社会長はホワイトハウスで 追加1,000億ドル(約15兆円) の投資を発表。既に約束していた 650億ドル(約10兆円) と合わせ、総額は 1,650億ドル(約24兆円) に達した。
投資計画の内容は以下の通りである。
- アリゾナ州に新たに3つのウェハー工場を建設し、州内の工場を計5拠点に拡大
- 先進的な封装施設を2カ所建設
- 主要研究開発チームの拠点となるセンターを設立
台積電の公式資料によれば、この投資は今後4年間で約4万件の建設雇用を生み、先端チップ製造や研究開発分野で数万件の高給職を創出する見通しだ。また、10年間でアリゾナ州および全米に2,000億ドル以上の間接的な経済効果をもたらすと予測される。
(関連記事: 米国が台湾半導体に25%関税?「半導体232調査」報告で業界に緊張走る | 関連記事をもっと読む )
一方で、劉佩真氏はこの投資を「短期的には不利だが、長期的には有利」と評している。台積電の顧客の約7割は米国企業であり、現地拠点の拡大は商業的に合理的としつつも、受動的な巨額投資は中長期的には利益圧迫要因になり得ると指摘した。