世界の高等教育をめぐる競争が激しさを増す中、日本の名門・東京大学はこのほど、工学系研究科の授業を大幅に英語化する方針を打ち出した。この動きは、アジアの大学が直面する国際化への圧力を浮き彫りにすると同時に、日本国内では「母語による教育を犠牲にするのではないか」との疑問を含む議論を呼んでいる。
東大工学系研究科の英語化宣言
東京大学工学系研究科は2024年度末、在学生向けに「大学院の授業の英語化について」と題する文書を発表し、大学院課程の英語化を正式に開始することを明らかにした。文書では、英語が工学分野における国際的な共通言語となっている現状を強調し、海外の一流大学においても大学院の授業は主に英語で行われていると指摘している。現在、東大工学系の授業の約4割が英語で実施されているが、多くの科目はいまだ日本語で行われている。こうした状況を踏まえ、同研究科は2025年度中に英語による授業の割合を6割に引き上げ、2026年度には8割まで拡大する方針である。
この計画は、東京大学工学系研究科副研究科長の津本浩平教授が主導している。津本教授は東京大学を代表する研究者の一人で、生物工学およびタンパク質科学を専門とする。1993年に東京大学大学院工学系研究科で修士号を取得し、その後、東北大学で助手を務める傍ら、ドイツへの短期留学も経験している。
自身の経験が英語化推進の原動力となった。留学当時、英語での意思疎通に苦労したことがきっかけで、繰り返しの練習を通じて徐々に自信をつけたという。この経験から、英語は単なる道具ではなく、研究者や職業人にとって不可欠なスキルであると認識するようになった。
津本教授は毎日新聞の取材に対し、「この変革は一朝一夕に実現できるものではない」と述べている。東大の教員陣には一定の英語力があるものの、「読む・書く・話す・教えるの各技能は異なる」とし、授業の質を担保するために小テストで学生の理解度を確認し、学生からのフィードバックも収集する方針である。制度の整備には数年を要する見通しだ。
東大の危機感:世界大学ランキング28位
日本メディアの分析によれば、東京大学が今回の施策に踏み切った背景には、国際化の遅れに対する強い危機感があるとされる。英国の教育専門誌『Times Higher Education』による2025年版世界大学ランキングにおいて、東京大学は第28位にとどまり、研究の質、国際性、教育環境などの指標で評価された。一方、文部科学省所管の科学技術・学術政策研究所が2024年8月に発表した報告書では、被引用数上位10%の論文数で日本は世界13位にとどまり、国際的な研究評価は期待を下回っている。
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こうした状況を踏まえ、津本浩平教授は取材に対し、日本の学生は英語の読解や文章作成には長けているが、口頭でのコミュニケーション訓練が不足しており、それが研究の国際的な可視性に影響を与えていると指摘した。その打開策として、東大では近年、国内の学会でも英語による成果発表を奨励し、研究職を目指す大学院生には英語で議論する能力を求めている。