台湾で大規模に展開された「リコール運動」は失敗に終わった。その後、多くの議論が与野党の勢力バランスや政局への影響に集中しているが、もう一つの重大な影響──経済の側面──が見過ごされつつある。頼清徳政権は、この局面にどう対応するのか。あるいは「強盗のような要求」を突きつけるアメリカに、どう立ち向かうのか。
トランプ大統領が定めた「審判の日」こと7月31日まで、残された時間はわずかだ。この日までに関税協定を結ばなかった国々には、8月1日以降、一方的に米国が定める報復関税が科される見通しで、その税率は極めて高いとされる。台湾はいまだ米国と正式な交渉に入っておらず、少なくとも両政府は結果を公表していない。政治的配慮から「リコール運動への干渉を避けるため」発表を控えていたとの見方もあるが、仮に結果が台湾にとって有利であれば、頼政権はむしろ選挙前に公表していたはずだ。
リコール失敗後、頼政権の「政治的エネルギー」は明らかに損なわれている。「新たな民意」の観点からも、政権の正統性が一部揺らいでおり、これが米国との交渉で台湾の立場をさらに弱める可能性がある。米国の強硬姿勢に抗しうるのか、あるいはエネルギーを失った政権が妥協を強いられるのか──注視が必要だ。
頼政権は交渉内容について情報を伏せているが、いくつかの推測は可能だ。台湾側の要求はこれまで受け入れられてきたため、交渉が長期化したことはほとんどない。今回に限って進展がない背景には、米側の要求に台湾が容易に応じられない事情があると見られる。
近隣諸国、特に日本と韓国の事例は参考になる。アメリカはこれらの国を台湾と同じ「レベルの交渉相手」と見ており、安全保障で米国に依存する「従順な同盟国」、かつ貿易黒字の大きい「取りやすい相手」と認識している。いずれも高所得の先進国であり、外貨準備高の多さもターゲットになっている。
日本は最終的に15%の関税を受け入れた上に、米国へ5500億ドル(約80兆円)の投資を約束させられた。その使い道はトランプ氏の裁量に委ねられ、利益の9割が米国に帰属するという。韓国との交渉は続いており、トランプ氏は4000億ドル(約59兆円)規模のファンド設立を要求しているとされる。台湾も同様の「外貨での投資」「米製品購入(農産品、エネルギー、航空機、兵器など)」を迫られたうえで、15〜20%の関税に応じるよう求められると予想される。
こうした条件は、もはや外交ではなく「経済的恫喝」に等しい。日本がこれを受け入れたことで、戦後の「不完全な国家」という評価を自ら裏付けた形とも言える。韓国は抵抗しているが、最後まで持ちこたえられるかは不透明だ。
台湾について言えば、頼政権はいくら米台関係の良好さや「民主主義同盟」の旗を掲げようと、トランプ氏のような「取引を楽しむ」人物にとっては、そのような理念は意味を持たない。米欧関係さえ脅かされる中、台湾が日本や欧州より良い条件を引き出せるとは思えない。リコール敗北後の政治的弱体化を抱えたまま、頼政権は米国の要求に対し、交渉で主張を通すのか、あるいは膝を屈するのか──岐路に立たされている。
カナダやブラジルのように、理不尽な要求に屈せず、むしろ国民的支持を背景に抵抗した国もある。台湾もまた、主権と経済利益を天秤にかけるならば、関税による損失よりも、屈服による国家的損害の方が遥かに深刻である可能性がある。頼政権は、その判断を誤ってはならない。
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