今回の台湾での大規模リコール運動では、聯電(UMC)の創業者である曹興誠氏が先頭に立ち、「抗中保台(中国に抗し台湾を守る)」を掲げて市民団体を結集させた。曹氏は2025年初頭、国民党の立法委員・徐巧芯氏のリコール推進を打ち出し、短期間で「ブルー(国民党系)」と「ホワイト(第三勢力系)」の連携に反対する全国の市民組織を束ねた。春節後はリコールの第2段階に積極的に参加し、「反共護台聯盟」を設立。潤沢な財力と明確な政治スタンスを背景に行動を呼びかけた。
同年4月に台北で行われた「拒絶統合戦・護台湾大会」では、「不適任な立法委員は家に帰らせるべきだ」と会場で訴え、大きな支持を集めた。
曹氏は台湾半導体産業の重鎮として知られ、かつては国民党寄りの姿勢を示したこともあった。2008年総統選では馬英九氏に投票したが、近年は国家安全や両岸関係に深い関心を寄せ、公共課題に積極的に関わるようになった。2022年以降は「抗中保台」を強く提唱し、国防訓練資源を私費で寄付。
さらに「反共護台志工聯盟」を立ち上げ、市民を政治的に動員するネットワークを築いた。企業家から市民運動のリーダーへと転じた曹氏は、資金力やメディアへの影響力、はっきりした政治的立場を武器に、リコール運動の中心的存在かつ象徴的存在として一気に台頭した。

徐巧芯リコールの発起人として 曹興誠氏の動員力は大政党並み
リコール発起人として徐巧芯氏とテレビ討論で激しく論戦を繰り広げた曹氏は、立法院で強行された法案を「手続きの正義を無視している」と批判し、国民党の立法委員を「親中で台湾を売る勢力」と糾弾した。一方、徐氏は曹氏を「政治的なクズだ」と罵った。また別の街頭演説では「私は納税者だ。なぜ納税者の金で給料をもらう者が、納税者を侮辱するのか」と訴え、支持者の共感を呼んだ。
曹氏はリコール活動で、既存政党に引けを取らない動員力を見せつけ、「市民には不適任な立法委員を送り返す責任がある」と主張。全国のボランティアネットワークを活用し、運動を一選挙区の枠を超えた広がりに導いた。総統府の社会防衛韌性委員会の前顧問を務めた経歴も、運動の信頼性を高めた。ボランティアへの資金援助も積極的で、民進党との交渉においても独自性を維持した。

リコール運動が築いた政治的影響力 民進党との補選めぐる緊張
2025年初頭からリコールボランティアは北から南へと浸透し、戸別訪問で支持を広げた。ネット発信から現地活動へと波及し、反リコール派からの言論・身体的な妨害や、国民党の執政県市・立法委員による圧力を受けながらも勢いを増した。こうした対立は次第にエスカレートし、運動は全国規模の波となった。
リコール活動が第三段階に入ると、曹氏とリコール団体は街頭動員にとどまらず、組織的な政治的影響力を築き始めた。民進党ももはや傍観者ではいられない状況となった。 (関連記事: 台湾「7・26リコール投票」反対多数で否決へ 全選挙区で罷免不成立の見通し、結果一覧はこちら! | 関連記事をもっと読む )
2025年6月5日、リコール団体は記者会見を開き、徐欣瑩チームの余筱菁氏、板橋「大削元」スピーカーMolly氏、台北「削除薇害」陸上隊長・蔡卡羅氏、江啟臣リコール発起人の廖芝晏氏、台北「削除薇害」スピーカー阿美氏、馬文君リコールチームの戴綺儀氏という6名の女性スピーカーチームを発表した。彼女たちはこれまで選挙に出馬する意志を表明していなかったが、もし国民党の議員がリコールされれば、その補選をめぐり外部で憶測が飛び交った。
