独占インタビュー1》台湾海峡防衛に「断線」リスク 元海上幕僚長・武居智久氏が日米台の新協力案を提言

2025-07-24 12:37
6月11日、武居智久氏が台北政経学院基金会による「2025台湾海峡防衛机上演習」の国際記者会見に出席した。(写真/柯承惠撮影)
6月11日、武居智久氏が台北政経学院基金会による「2025台湾海峡防衛机上演習」の国際記者会見に出席した。(写真/柯承惠撮影)
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元海上自衛隊の海上幕僚長を務めた武居智久が6月、台湾で行われた「台海防衛机上演習」に参加し、台湾側の戦略コミュニケーションに重大な欠陥があると指摘した。7月21日に《風傳媒》の独占インタビューに応じた武居氏は、多くの危機シナリオで真のリスクとなるのは「情報が正確に伝わらないこと」と「誤った判断を修正する時間が残されていないこと」だと率直に語った。日米台の3者が、技術的に実現可能なレベルから暗黙の了解や信頼を積み重ねていくことで、初めて強靭な地域安全保障の枠組みを段階的に構築できるとの見方を示している。

武居氏は今回の兵棋推演や日米台の戦略コミュニケーションの在り方について、詳細な分析を述べた。

コミュニケーションの欠如が招くリスク:机上演習の実例と対応策

質問一:今回の「台海防衛机上演習」(Taiwan Defense TTX)は、台北政経学院基金会(TSEF)と平和安全保障センター(CPAS)が6月に共同開催したものだ。米国のマレン元統合参謀本部議長、ブレア元太平洋軍司令官、日本の岩崎茂元統合幕僚長、そして武居智久氏自身を含む米日台の高級退役軍人が参加した。この演習の過程で、どのような重要情報が即時に伝わらず、その結果として日本側やほかの同盟国側の誤判断や決定の遅れを招いたのか。

武居氏は「日米台の間に常設かつ統一されたコミュニケーションの仕組みがないことが根本的な問題だ」と指摘。

日本前四星海上自衛隊幕僚長武居智久於7月21日於淡江大學發表全英文視訊演說,主題為「台灣有事下的海上交通保護〜日本的視點」(台湾有事における海上交通保護〜日本の視点)。(王秋燕攝)
武居智久氏は7月21日、淡江大学での講演を終えた後、《風傳媒》のビデオインタビューに応じた。(写真/王秋燕撮影)

技術的な課題にとどまらず制度面の抜け穴であり、海域の不審船や空域での異常行動など、緊急の情報が伝わらなければ、対応の正確さや迅速さに直接影響を与えると警鐘を鳴らした。現在、日本と台湾の間には正式な防衛コミュニケーションの経路は存在せず、緊急時であっても双方が信頼し合う直接連絡のメカニズムを欠いていると強調した。急変する戦況下では、こうした「断線」が致命的なリスクになりかねないと述べている。

現下の政治情勢では日台間で公式のチャンネルを整えるのは難しいものの、戦略的価値は大きく、早期の布石が必要だと武居氏は語る。その上で、実現性が高いとする二つの提案を示した:

一つ目は「段階的な対話モデル」だ。まずは学者や退役軍人、シンクタンクが参加する「二軌(Track2)」の非公式対話を重ね、相互信頼を築く。その後、一部の政府関係者を交えた「1.5軌(Track1.5)」の半公式対話へ発展させ、最終的には定期戦略フォーラムなど正式な「一軌(Track1)」の交流プラットフォームを設ける。政治的な敏感さを避けつつ、段階的に理解を深められる手法だとした。

二つ目は「米台既存メカニズムの活用」である。現在、米台間には一定のコミュニケーション体制があり、日本が観察員やデータ共有などの形でその枠組みに参加すれば、日台間の情報流通を間接的に進められる。こうして三者対話の基盤をつくることができると説明。「軍事に関して、これに日本が入って三者関係にするというのは一番実現性が高いと思います」と強調し、軍事協力こそ三者間の情報共有に不可欠だとの見解を示した。

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