「台湾有事は日本有事」―元統合幕僚長・武居智久氏、海上交通の脆弱性を警告 日台のSLOC共同防衛を提言

2025-07-23 17:41
元海上自衛隊幕僚長で四つ星将官の武居智久氏が、7月21日に淡江大学で全て英語でのオンライン講演を行い、「台湾有事における海上交通保護〜日本の視点」をテーマに語った。(写真/王秋燕撮影)
元海上自衛隊幕僚長で四つ星将官の武居智久氏が、7月21日に淡江大学で全て英語でのオンライン講演を行い、「台湾有事における海上交通保護〜日本の視点」をテーマに語った。(写真/王秋燕撮影)
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元海上自衛隊の四つ星将官で、前統合幕僚長の武居智久氏が7月21日、台湾・淡江大学で「台湾有事における海上交通保護~日本の視点」と題したオンライン講演を行った。武居氏は冒頭、「地理は人々に歴史を繰り返させる」と述べ、もし西太平洋で大国間の衝突が起これば、その戦域は大東亜戦争とほぼ重なると指摘。台湾情勢が2027年に緊迫化する可能性を見据え、日本は今から備えを進め、軍国主義時代の過ちを繰り返してはならないと警告した。

武居氏は国際関係学者スパイクマンの理論を引き合いに、地理は国家の外交における最も不変の要素であり「歴史は自ら繰り返すのではなく、地理が人をして繰り返させる」と強調した。

日本と台湾、共通するエネルギーの脆弱性

武居氏は、日本が大東亜戦争で敗北した要因は多岐にわたるとしながら、その中でも最も重大だったのは「海上交通路(SLOC)の保護を著しく軽視したこと」だと指摘した。国家の自主性不足、戦略準備の不備、軍政の不統一、科学技術の遅れといった課題があったものの、当時の日本海軍は専門の護衛部隊や護衛戦術を持たず、物資輸送を維持することへの意識が極めて薄かったという。

武居氏は、戦略上の最大の誤りの一つが「船舶輸送と護衛の軽視」にあったと断言。補給が戦争で死活的に重要であると知りながら、封鎖突破能力や護衛能力を十分に発達させなかった結果、エネルギーや食糧を海外から運べなくなり、最終的には兵糧攻めにより敗北したと分析した。

現在も日本の海外資源依存度は減少するどころか増えている。武居氏によれば、2022年の日本のエネルギー自給率はわずか12.6%、2023年の化石燃料依存度は80.8%に達しており、原油の95.3%を中東に依存している。石炭や液化天然ガス(LNG)もアジア・オセアニア地域からの輸入が大半を占める。原油は240日分の備蓄があるものの、LNGは約2週間分しかなく、マイナス162度での冷却保存が必要なため長期保存が難しいと警告した。

武居氏はさらに、台湾も同様のリスクを抱えていると強調。2024年の台湾の発電構成では39.3%が石炭、42.4%がLNGであり、いずれも全量を輸入に頼っている。もし封鎖が起これば、10日以内に45%以上、50日以内には80%以上の電力を喪失し、半導体生産が停止し、社会全体の均衡が崩れると分析した。

日本の前統合幕僚長で海上自衛隊四つ星将官の武居智久氏が7月21日、淡江大学で全編英語によるオンライン講演を行い、台湾のエネルギー状況について説明した。(王秋燕撮影)
元統合幕僚長で海上自衛隊四つ星将官の武居智久氏が、7月21日に淡江大学で行われた全て英語によるオンライン講演で、台湾のエネルギー状況について説明した。(写真/王秋燕撮影)

海底ケーブルと航路の脆弱性

ロシア・ウクライナ戦争は開戦初期から通信施設への攻撃で始まり、ノルウェー沖の複数の海底ケーブルが破壊された。さらに紅海でも、イエメンのフーシ派が国際海底ケーブルの切断を公然と脅しており、戦争初期における情報戦の重要性が浮き彫りになっている。

武居氏は「海上交通路の保護という概念は、もはや海面上に限定すべきではない。水上・水中・海底まで範囲を拡大する必要がある」と強調。世界の通信インフラを支える海底ケーブルについて、日本と台湾はともに監視・保護能力を強化すべきだと述べた。

日本の前統合幕僚長で海上自衛隊四つ星将官の武居智久氏が講演で、ウクライナ戦争を教訓として日本、台湾の対応策について説明した。(王秋燕撮影)
元統合幕僚長で海上自衛隊四つ星将官の武居智久氏が、7月21日、淡江大学での全て英語によるオンライン講演で、「台湾有事」の状況における海上迂回の可能性のあるシナリオについて解説した。(武居智久氏提供統合幕僚長で海上自衛隊四つ星将官の武居智久氏が講演の中で、ウクライナ戦争を教訓として日本と台湾の対応策について説明した。(写真/王秋燕撮影)
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