元海上自衛隊の四つ星将官で、前統合幕僚長の武居智久氏が7月21日、台湾・淡江大学で「台湾有事における海上交通保護~日本の視点」と題したオンライン講演を行った。武居氏は冒頭、「地理は人々に歴史を繰り返させる」と述べ、もし西太平洋で大国間の衝突が起これば、その戦域は大東亜戦争とほぼ重なると指摘。台湾情勢が2027年に緊迫化する可能性を見据え、日本は今から備えを進め、軍国主義時代の過ちを繰り返してはならないと警告した。
武居氏は国際関係学者スパイクマンの理論を引き合いに、地理は国家の外交における最も不変の要素であり「歴史は自ら繰り返すのではなく、地理が人をして繰り返させる」と強調した。
日本と台湾、共通するエネルギーの脆弱性
武居氏は、日本が大東亜戦争で敗北した要因は多岐にわたるとしながら、その中でも最も重大だったのは「海上交通路(SLOC)の保護を著しく軽視したこと」だと指摘した。国家の自主性不足、戦略準備の不備、軍政の不統一、科学技術の遅れといった課題があったものの、当時の日本海軍は専門の護衛部隊や護衛戦術を持たず、物資輸送を維持することへの意識が極めて薄かったという。
武居氏は、戦略上の最大の誤りの一つが「船舶輸送と護衛の軽視」にあったと断言。補給が戦争で死活的に重要であると知りながら、封鎖突破能力や護衛能力を十分に発達させなかった結果、エネルギーや食糧を海外から運べなくなり、最終的には兵糧攻めにより敗北したと分析した。
現在も日本の海外資源依存度は減少するどころか増えている。武居氏によれば、2022年の日本のエネルギー自給率はわずか12.6%、2023年の化石燃料依存度は80.8%に達しており、原油の95.3%を中東に依存している。石炭や液化天然ガス(LNG)もアジア・オセアニア地域からの輸入が大半を占める。原油は240日分の備蓄があるものの、LNGは約2週間分しかなく、マイナス162度での冷却保存が必要なため長期保存が難しいと警告した。
武居氏はさらに、台湾も同様のリスクを抱えていると強調。2024年の台湾の発電構成では39.3%が石炭、42.4%がLNGであり、いずれも全量を輸入に頼っている。もし封鎖が起これば、10日以内に45%以上、50日以内には80%以上の電力を喪失し、半導体生産が停止し、社会全体の均衡が崩れると分析した。

海底ケーブルと航路の脆弱性
ロシア・ウクライナ戦争は開戦初期から通信施設への攻撃で始まり、ノルウェー沖の複数の海底ケーブルが破壊された。さらに紅海でも、イエメンのフーシ派が国際海底ケーブルの切断を公然と脅しており、戦争初期における情報戦の重要性が浮き彫りになっている。
武居氏は「海上交通路の保護という概念は、もはや海面上に限定すべきではない。水上・水中・海底まで範囲を拡大する必要がある」と強調。世界の通信インフラを支える海底ケーブルについて、日本と台湾はともに監視・保護能力を強化すべきだと述べた。
