アメリカ大統領トランプ氏は最近、中国がフェンタニル流通を抑制する上で「大きな進展」を見せたと公に評価し、これまでの強硬路線を和らげる姿勢を示した。関税を課し、麻薬危機の責任を中国に押しつけてきた従来の姿勢とは対照的な発言である。こうした微妙な変化は、ホワイトハウスが「トランプ・習近平会談」を見据え、広範な貿易交渉を再開するための環境づくりを進めている表れと解釈されている。
しかし、この外交トーンの変化は、政権内の対中政策の温度差を浮き彫りにするだけでなく、台湾の頼清徳総統が南米歴訪の途上でアメリカを経由するとの報道が伝わると、台海問題の敏感な神経を刺激し、米中台関係の行方にさらなる不確実性をもたらした。
トランプ氏:中国がフェンタニル管理で大きく前進
フェンタニル問題は長らくトランプ政権にとってアメリカの麻薬乱用問題の象徴であり、中国がその供給源とされてきた。しかしデータの変化が新たな政策余地を生みつつある。アメリカ疾病予防管理センター(CDC)の推計によれば、2024年のフェンタニル関連死者は4万8422人で、2023年の7万6282人から顕著な減少を見せている。
この減少は過去の犠牲を帳消しにはできないが、対中路線を緩和する「定量的根拠」として活用できる。トランプ氏は17日、ホワイトハウスの大統領執務室で「致命的なフェンタニル取引停止法(HALT Fentanyl Act)」に署名し、「中国はフェンタニルの大部分を供給しており、すべてだと主張する者もいる。メキシコを経て我々に持ち込まれている。20%の関税を課し、彼らは数十億ドルを支払っている。これを解決するため努力している」と述べた。
さらに「中国は支援していると考える。フェンタニルの状況は長年ひどかったが、就任以来、中国と対話を重ねてきた。彼らは大きな進展を見せている。関税の罰を受けつつも、何かをしようとしている」とも語った。
「致命的なフェンタニル取引停止法」(HALT Fentanyl Act)は、フェンタニル関連物質を「規制物質法」のスケジュールIに恒久指定するもので、乱用の可能性が極めて高く医学的価値が認められない薬物として扱い、法的・行政上の厳しい罰則と少なくとも10年の強制的最低刑期を規定している。
美中関税休戦が3か月延長か
フェンタニル管理で中国に柔軟性を見せる一方、トランプ政権は貿易交渉の「関税休戦」も重要なカードとみている。ブルームバーグによれば、アメリカ政府は8月12日に期限を迎える対中関税措置を延長する準備を進めている。期限を過ぎれば最大145%の関税が再び適用されるが、90日の休戦延長が検討されているという。
これは、トランプ氏が「購入協定」を通じて短期的な成果を求め、第一期任期での「迅速な勝利」モデルを再現しようとしており、貿易不均衡の根本問題に取り組む意図は薄いことを示している。 (関連記事: 台湾・賴清徳総統、米国経由で中南米歴訪へ トランプ・習会談が日程に影響も? | 関連記事をもっと読む )
アメリカ財務長官のスコット・ベッセント氏はブルームバーグテレビのインタビューで、対中関税の期限について「柔軟性がある」と示唆した。計画に詳しい匿名の情報筋によれば、トランプ政権は関税休戦期間を3か月延長する方向で調整しているという。興味深いのは、トランプ氏が同時に同盟国を含む他国にも関税を課し、製薬や半導体といった産業にさらなる行動を警告している点で、個別対立を組み合わせる戦略的な論理がうかがえる。