台湾師範大学、女子サッカー部で「血液と単位交換」強要事件 研究名目の強制採血に批判殺到

2025-07-17 15:13
2025年7月15日、民進党の立法委員である陳培瑜氏(左)と范雲氏(中央)、および人本教育基金会の関係者らが、「強制採血の悪質教員は解任されないのか? 台師大の“血と汗の単位”、教育部は黙認か」と題する記者会見を開催した。(写真/柯承惠撮影)
2025年7月15日、民進党の立法委員である陳培瑜氏(左)と范雲氏(中央)、および人本教育基金会の関係者らが、「強制採血の悪質教員は解任されないのか? 台師大の“血と汗の単位”、教育部は黙認か」と題する記者会見を開催した。(写真/柯承惠撮影)
目次

台湾の名門校・国立台湾師範大学の女子サッカー部において、監督が女子学生に対し「研究目的の血液検体を提供しなければ単位を与えない」と強要していたことが発覚し、台湾社会に大きな波紋を広げている。

この事件は2024年末、台湾の立法院(国会)で当時の与党・民進党の立法委員によって初めて公にされた。複数の学生によれば、彼女たちは数年にわたって14日間連続、1日最大3回の血液採取を「実験」として強制され、拒否すれば単位の剥奪、退部、さらには退学をちらつかされたという。採血は、資格を持たない学生や外部の人物によって行われた例もあり、1人あたり合計で1000mlを超えるケースもあったという。

科学研究を名目にした「強制」 補助金や同意書にも不正疑惑

問題の実験は、国の科学技術委員会(国科会)から約2700万台湾ドル(約1億3000万円)の補助を受けたスポーツ科学プロジェクトの一部だった。この研究には台湾師範大学の教員のほか、長庚病院の医師や中央大学の副学長も関わっていたが、学生の同意書が後から補筆されたことや、補助金が選手個人ではなくチーム経費に流用されていたことなど、多くの不正が明らかとなっている。

SNSに被害告白 「血汗単位」「サッカー部は実験室だった」

SNSや記者会見には、現役学生や卒業生が次々と実名で被害体験を告白。「血汗単位(血と汗の単位)」「サッカー部は実験室だった」と訴え、何度も刺された針で腫れ上がった腕の写真や、精神的ショックからPTSDを患った例も共有された。中には学業や競技を断念せざるを得なかった学生もいた。

学内の沈黙と制度の構造問題にも批判

長年にわたる学内の沈黙や、組織的な体質にも批判が集まった。台湾師範大学体育学門は台湾国内で最多の人体実験申請を行っており、監督体制や倫理審査の甘さも問われている。

行政の対応と処分 社会からは「甘い」との声も

事件発覚後、台湾師範大学は監督の職務停止、研究データの廃棄、学生への謝罪を行ったが、当初は教員の解任には至らず、「処分が甘い」「隠蔽ではないか」との批判が噴出。教育部(文科省)、国科会、衛生福利部は合同で特別委員会を設置し、研究主宰者らにそれぞれ50万台湾ドル(約250万円)、大学側には110万台湾ドル(約555万円)の罰金を科した。また、監督の資格剥奪、研究プロジェクトの審査停止、論文の修正命令なども下された。

さらに、行政院(内閣)や北部地検も強制罪の可能性を視野に捜査を開始している。被害学生への心理ケア、再発防止策の策定、独立調査体制の構築も進められている。

なお残る課題と社会的関心

一連の処分が下された一方で、関係者の教員としての正式な処分、類似研究の再調査、被害学生への補償・支援体制の確立など、根本的な解決には至っていない。台湾社会では「加害者が責任を取っていない」「学生の声に真摯に向き合うべき」との声が強く上がっている。

現在も「血論文」問題や内部告発に対する報復、教員間の責任転嫁などが指摘されており、教育行政・大学制度の在り方が厳しく問われている。

本件は、台湾の高等教育機関における人権意識と制度的ガバナンス、そして若者の権利保護の在り方を再考させる大きな契機となっている。

台湾ニュースをもっと深く⇒風傳媒日本語版X:@stormmedia_jp

最新ニュース
トランプ氏、FRB議長に圧力 利下げと改修案でパウエル氏を追い詰め「従順な後任」狙う
トランプ貿易戦争で米国財政は兆ドル級の増収『フィナンシャル・タイムズ』が分析:各国が対抗せず懐柔を選ぶ理由とは
天気予報》台湾周辺で台風6号(ウィパー)発生か 午後にも形成予測「海上警報の恐れ」 6日続く豪雨に厳重警戒
舞台裏》台湾師範大・女子選手に採血強要 告発から処分まで、8か月前の警鐘を教育部は無視
イスラエル軍がシリアを大規模空爆 土地奪取ではなくドゥルーズ族保護を主張
教皇レオ14世、台湾の台風4号被災者に祈りと支援指示 外交部が感謝表明
「7月5日大災難」予言外れた?香港LCCが「私が見た最低価格」日本行き航空券を発売
調査》日本の『防衛白書』は台湾に何を伝えているのか? 防衛省が台海戦略の要点を明らかに
調査》中国は何を計画しているのか?「台湾有事」に留まらない 日本『防衛白書』が示す異常な動き
トランプ、ゼレンスキー氏に「モスクワを攻撃できるか」と問う通話が流出 ホワイトハウスの対応に注目
フジロック、今年もAmazonで無料配信!完売チケット続出、熱気を自宅で体感 3日通し券&土曜券は完売
サニーサイドアップグループ、福利厚生「32の制度」を刷新 育児・介護・家族支援を強化
【SoftBank World 2025】孫正義氏が「AIエージェント10億体構想」発表 「進化を疑う企業は未来を制限する」
台湾関税はまだ発表されず 学者「税率よりTSMCリスト提出が深刻な問題に」
台風被害から10日 台南・嘉義の通信障害続く インフラ耐性と頼清徳総統発言に注目
防衛白書2025発表:台湾周辺の中国軍活動に強い懸念、平和維持を再確認
台湾・賴清徳総統、米国経由で中南米歴訪へ トランプ・習会談が日程に影響も?
NVIDIA・フアンCEO、H20禁輸を突破 米中狭間で台湾の立ち位置が浮き彫りに
「移民・外国人政策が選挙の主役に」──東大・林泉忠氏が語る2025年参院選と社会の分断
独占インタビュー》中国人からの妨害にも屈せず――「反送中」第一人者・平野雨龍氏、日台注目の2025参院選に最年少で挑む
李忠謙のコラム:米「優先論者」、トランプ政権に提言―「世界の警察」をやめ、台湾のために中国を挑発すべきでない
米国が台湾と本格軍事連携へ RIMPAC招待「強く推奨」法案可決
MLBオールスター先発メンバー発表 大谷翔平がナ・リーグの先頭打者に
「暗号通貨週間」到来 ビットコイン12万ドル維持、米国は立法で覇権狙う
『鬼滅の刃 無限城編』公開記念、鬼殺隊が台湾に!台湾発ドリンクチェーンと夢のコラボ、全17種デザインが登場
「軍なきNATO加盟国」アイスランドに転機 ロシアの脅威とトランプ氏の圧力で防衛見直しへ
トランプ氏「和平合意なければ100%関税」 プーチン政権に50日間の猶予
松本零士の世界に浸る夏 『銀河鉄道999』50周年展、東京シティビューで開催中 限定グッズも人気
「日中は切り離せない隣人」中国高官が訪日中に発言 その真意は?
六本木ヒルズ展望台で「天空の星まつり」 七夕と宇宙を楽しむ夏イベント
台湾民意基金会世論調査》国民党議員の安定?過半数が「罷免反対」意向 游盈隆氏「前例ない緊張」
宣仲華の見解:米国が世界を失った日 中国の台頭とアメリカ神話の崩壊
トランプ政権、日韓に最大25%関税案 交渉期限まで3週間の攻防
中東情勢が緊迫化 「ホルムズ海峡が封鎖されたら?」日本と台湾に迫るエネルギー危機
「監督になれる特撮ルーム」が新宿に誕生!ホテルグレイスリー新宿「ゴジラVSキングギドラルーム」期間限定で登場
台湾・台南で25歳男性が父親を銃撃 逃走直後に単独事故で死亡
台湾・高雄の電池工場で爆発火災 消防隊含む11人負傷、市が操業停止命令
米、台湾有事に備え日豪に役割明確化を要求 「三方面作戦」回避へ優先戦略
2016年・蔡英文の就任演説に中国が反発 「未完成の答案」発言の舞台裏とは
台湾のスーパーが「防空訓練」に参戦 頼政権と全聯が共闘へ
日中外相会談で台湾海峡も議題に 岩屋外相「力による現状変更に反対」と初めて明言
トランプ大統領、手紙で世界を動かす──ネタニヤフのノーベル推薦が話題に
同胞か、それとも敵か──台湾籍日本兵の過去を描いた衝撃のドキュメンタリー映画『島から島へ』日本公開
DeepSeekが危機的状況に 使用率50%から3%まで急落、新AIモデルの発表は未定のまま
【台湾旅行】台東の星空・稲穂・初日の出を満喫 2025年下半期おすすめイベント特集