台湾の名門校・国立台湾師範大学の女子サッカー部において、監督が女子学生に対し「研究目的の血液検体を提供しなければ単位を与えない」と強要していたことが発覚し、台湾社会に大きな波紋を広げている。
この事件は2024年末、台湾の立法院(国会)で当時の与党・民進党の立法委員によって初めて公にされた。複数の学生によれば、彼女たちは数年にわたって14日間連続、1日最大3回の血液採取を「実験」として強制され、拒否すれば単位の剥奪、退部、さらには退学をちらつかされたという。採血は、資格を持たない学生や外部の人物によって行われた例もあり、1人あたり合計で1000mlを超えるケースもあったという。
科学研究を名目にした「強制」 補助金や同意書にも不正疑惑
問題の実験は、国の科学技術委員会(国科会)から約2700万台湾ドル(約1億3000万円)の補助を受けたスポーツ科学プロジェクトの一部だった。この研究には台湾師範大学の教員のほか、長庚病院の医師や中央大学の副学長も関わっていたが、学生の同意書が後から補筆されたことや、補助金が選手個人ではなくチーム経費に流用されていたことなど、多くの不正が明らかとなっている。
SNSに被害告白 「血汗単位」「サッカー部は実験室だった」
SNSや記者会見には、現役学生や卒業生が次々と実名で被害体験を告白。「血汗単位(血と汗の単位)」「サッカー部は実験室だった」と訴え、何度も刺された針で腫れ上がった腕の写真や、精神的ショックからPTSDを患った例も共有された。中には学業や競技を断念せざるを得なかった学生もいた。
学内の沈黙と制度の構造問題にも批判
長年にわたる学内の沈黙や、組織的な体質にも批判が集まった。台湾師範大学体育学門は台湾国内で最多の人体実験申請を行っており、監督体制や倫理審査の甘さも問われている。
行政の対応と処分 社会からは「甘い」との声も
事件発覚後、台湾師範大学は監督の職務停止、研究データの廃棄、学生への謝罪を行ったが、当初は教員の解任には至らず、「処分が甘い」「隠蔽ではないか」との批判が噴出。教育部(文科省)、国科会、衛生福利部は合同で特別委員会を設置し、研究主宰者らにそれぞれ50万台湾ドル(約250万円)、大学側には110万台湾ドル(約555万円)の罰金を科した。また、監督の資格剥奪、研究プロジェクトの審査停止、論文の修正命令なども下された。
さらに、行政院(内閣)や北部地検も強制罪の可能性を視野に捜査を開始している。被害学生への心理ケア、再発防止策の策定、独立調査体制の構築も進められている。
なお残る課題と社会的関心
一連の処分が下された一方で、関係者の教員としての正式な処分、類似研究の再調査、被害学生への補償・支援体制の確立など、根本的な解決には至っていない。台湾社会では「加害者が責任を取っていない」「学生の声に真摯に向き合うべき」との声が強く上がっている。
現在も「血論文」問題や内部告発に対する報復、教員間の責任転嫁などが指摘されており、教育行政・大学制度の在り方が厳しく問われている。
本件は、台湾の高等教育機関における人権意識と制度的ガバナンス、そして若者の権利保護の在り方を再考させる大きな契機となっている。
編集:梅木奈実 (関連記事: 舞台裏》台湾師範大・女子選手に採血強要 告発から処分まで、8か月前の警鐘を教育部は無視 | 関連記事をもっと読む )
台湾ニュースをもっと深く⇒風傳媒日本語版X:@stormmedia_jp