公益財団法人フォーリン・プレスセンター(FPCJ)は2025年7月11日、オンライン記者ブリーフィングを開催し、中東調査会主任研究員の斎藤正道氏が「イラン・中東情勢の見通しと日本への影響」をテーマに講演を行った。
講演ではまず、1953年のモサデク政権の転覆や1979年のイスラム革命といった近代イラン史の節目を振り返りながら、イランと欧米の対立構造や、現在も続く核問題の背景について丁寧に解説した。
斎藤氏は、2024年以降に発生したイランとイスラエルによる相互空爆に触れ、これまで間接的な応酬にとどまっていた両国の対立が、直接的な軍事衝突に発展した点に注目。イランが保有するとされる濃縮ウランの量や、イスラエルによる核施設への攻撃、さらに停戦に至った経緯についても説明し、「イスラエルの攻撃によって本来解消されるべき懸念は、依然として残されている」と指摘した。
また、2025年3月のイラン大統領選挙で強硬派のジャラリ元駐英大使が当選したことについても言及。事前に候補者が大幅に絞られていた点を踏まえ、「イランの政治体制は形式上は共和制だが、実態としては最高指導者ハメネイ師を頂点とする神権体制であり、大統領の裁量は限られている」との見方を示した。
その一方で、「新政権は国民からの支持が脆弱で、今後の経済制裁の行方や欧米との関係次第では、政治的な安定が再び揺らぐ可能性がある」と述べ、国際社会の動向がイラン内政に及ぼす影響にも警鐘を鳴らした。
記者との質疑応答では、台湾のニュースメディア「風傳媒(The Storm Media)」が日本語で質問。中東地域からのエネルギー供給に大きく依存するという点で日本と共通する台湾にとっても、ホルムズ海峡の封鎖は深刻な影響をもたらし得るとしたうえで、「日本企業がリスク管理を強める中、台湾とのエネルギー安全保障分野での情報共有や連携の可能性についてどう考えるか」と問いかけた。
これに対し斎藤氏は、「危機管理の専門家ではないため、日台間でどのような協力が可能かを明言することは難しい」と前置きした上で、ホルムズ海峡封鎖の可能性について次のように述べた。
「ホルムズ海峡はイラン自身にとっても経済の生命線であり、もし封鎖すれば自国経済に壊滅的な打撃を与える。また、イランは現在、カタールやUAE、サウジアラビアなど湾岸アラブ諸国との関係改善を重視しており、封鎖は友好国を敵に回す行為となる。さらに、ホルムズ海峡を最も多く利用しているのは中国であり、中国はイラン最大の経済パートナーでもある。そうした背景を踏まえれば、イランが中国の利益を損なうような選択を取る可能性は極めて低いと考えられる」。
一方で、「アメリカによる大規模な攻撃を受けた場合には、イランが自暴自棄になり、最終手段として海峡封鎖に踏み切る可能性もゼロとは言えない」と述べつつも、「現時点ではその可能性は非常に限定的である」との見方を示した。
講演ではこのほか、イランの政治基盤の脆弱性や、IAEA(国際原子力機関)との協力停止によって核開発が地下化する懸念、さらにはNPT(核拡散防止条約)体制の崩壊リスクにも言及。斎藤氏は「イランとイスラエルの対立は新たな段階に入った」との認識を示し、国際社会に対して引き続き注視するよう呼びかけた。
また、地政学的リスクが原油価格などに与える影響や、民間企業および政府機関における情報共有の重要性にも触れ、「今後、日本と台湾の双方において、より高い次元での連携と備えが求められる」と強調し、ブリーフィングを締めくくった。
編集:梅木奈実 (関連記事: セブンイレブンが、台湾を「中国」と表記し炎上 神戸市議「極めて無礼」と批判 | 関連記事をもっと読む )
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