台湾人学習者の間で高い知名度を誇る日本語教育系YouTuber・Amberさんが、風傳媒のインタビューに応じた。SNSを通じて長年にわたり日本語学習のコツを発信し、幅広い支持を得ている彼女は、チャンネル開設から6年を迎え、登録者数は10万人を超える。最近ではフリーランスとして独立し、日本語教育、教材設計、講座開発といった分野に注力している。インタビューでは、台湾での学び、日本への留学、日本企業での勤務、そしてメディア運営に至るまでの軌跡を振り返り、言語研究に裏打ちされた独自の教育スタイルについて語った。
日本語教育に特化したYouTuber、Amberさん。多くの台湾人学習者に知られている存在だ。Amberさんは台北出身。東呉大学日本語学科を卒業後、日本台湾交流協会の奨学金を受け、日本の神戸大学大学院人文学研究科・文化構造国文学専攻へ進学した。専門は日本語教育文法。大学院修了後は日本企業に就職し、その後、自身のYouTubeチャンネル「Amber.L」を立ち上げた。チャンネルでは日本語学習に役立つコンテンツを発信し、登録者数は10万人以上、総再生回数は300万回を超えている。また、オンライン日本語学校「日本語舟」も設立し、実践的な日本語教育に取り組んでいる。
大学時代、「日本語文法專題(特別講義)」の授業を通じて、文法研究の奥深さに引き込まれた彼女は、さらなる理解を深めるため、2016年に神戸大学の研究生として日本に渡った。神戸大学大学院人文学研究科・文化構造国文学専攻には日本語教育や文法研究において著名な教授が多く在籍しており、それが進学を決めた大きな理由でもあったという。
日本語教育に特化したYouTuber、Amberさん。多くの台湾人学習者に知られている存在だ。研究生として神戸大学大学院の教員審査を経て、正式に人文学研究科へ進学。言語学や日本語教育理論を深く学びながら、複雑な概念を学習者にわかりやすく伝える力を養っていった。この時期に、自らの教育理念の礎が形づくられたという。
大学院修了後は博士課程には進まず、日本の大手企業「三菱地所レジデンス」に入社。6年間勤務し、安定した職場環境には恵まれていたが、専門分野と異なる業務内容に葛藤を感じる日々もあった。そんな中で自信を失いかけたが、自分を取り戻すきっかけとなったのが、趣味だった写真と文章を活かしたブログだった。そしてその活動がやがてYouTubeへと広がっていく。YouTuberとして活動する親戚の勧めも大きな後押しになったという。
日本語教育に特化したYouTuber、Amberさん。多くの台湾人学習者に知られている存在だ。初期のYouTubeチャンネルでは、ブログの内容を映像化したものが中心で、特に「発音」や「動詞の活用」に関する動画が人気を集めた。Amberは、台湾人学習者にとって最大のハードルがこの2点だと分析。特に「動詞活用」においては、「ます形」や「て形」といった学習者向けの呼び方よりも、「連用形」「連体形」といった文法用語のほうが漢字文化に親しんだ台湾人には理解されやすいと述べる。
日本語教育に特化したYouTuber、Amberさん。多くの台湾人学習者に知られている存在だ。教材設計においては、大学・大学院時代に感じた「言語学の感動」を再現することを重視している。たとえば、「視点」によって表現がどう変わるのかという学術的なテーマは、動画制作のモチベーションそのものになっているという。
また、台湾人学習者に多い間違いとして、助詞の誤用や語順の不自然さを挙げる。文法的には正しくても、語感のずれによって「きつく」聞こえてしまうこともあるという。Amberさんはこうした「語感の違和感」を改善すべく、大学院で行ったコーパス分析を活かして助詞に特化した講座を開発。学習者が自然に使える日本語を目指している。
Amberさんの講座は、日本語能力試験(JLPT)のレベル別ではなく、テーマ別に構成されている。その理由について、「日本語を使えるようになったからN1が取れるのであって、N1を取ったからといって使えるようになるわけではない」と語る。とくに聴解に関しては、字幕を隠したディクテーションやシャドーイングを推奨しており、「語学に近道はない」という姿勢を繰り返し強調している。
2025年からはフリーランスとしての活動を本格化。親族が経営する会社に雇用される形で日本に滞在し、教材制作やオンラインレッスンに集中している。現在は、家族の多くが暮らす京都に拠点を移し、より柔軟で自由な働き方を実現している。
学生からの反響も大きく、特に印象に残っているのが、初期からチャンネルを見ていた大学生がN1に合格し、現在は京都大学の大学院で学んでいるというエピソード。Amberさんの発信が、その進路に大きな影響を与えたという。
今後は、日本でのビジネス経験を活かした「ビジネス日本語講座」の開発を目指しており、職場文化や敬語表現、働き方の違いなどもカリキュラムに反映したいと語る。また、他の実力派講師との連携による対面イベントや日本語学習サミットの開催も構想中だ。視聴者の中には社会人や就職希望者も多く、実践に即した講座づくりへの意欲は強い。
Amberさんは、大学院時代を振り返り、「70人中、日本語教育に進んだのは私一人だった。でも、それは自分の才能であり、武器だと思っている」と語る。「私は勉強が得意な方ではなかった。でも日本語の先生が『君には研究のセンスがある』と言ってくれた。あの一言が、私の救いだった」。その言葉を胸に、歩み続けてきた。
大学、大学院、会社員、自営業──9年にわたるその軌跡は、言語への愛と探究心に貫かれている。これからも彼女の活動は、多くの日本語学習者に希望と刺激を与え続けていくだろう。